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すべてのはじめに
「ピーッ」
試合終了の合図が鳴った。
喜一は『試合』という物が大好きだった。
自分が先に一本をとり、相手が必死になってそれを取り返そうとしてくる。
三分が十分にも一時間にも感じ、相手が荒れ狂う鬼のようにも、泣きながら駄々をこねる子供の様にも思える。
しかし、その相手がある音を聞くと、とたんに悔しいとも悲しいとも思える顔をする。
それを見て、自分は相手に勝ったんだと初めて実感し。
またその音と同時に会場は広く感じ、逆に試合場は狭く感じる。
喜一には、その感覚が今日は特別強く働いているように思えた。
会場の目は全てと言っていいほど自分にそそがれ、また拍手も全て自分に向けられている。
剣道―全国―団体―決勝…その試合の大将戦。手塚喜一は、見事勝利した。