第一話 クソ神社が
はじめまして
アポストロフィー大佐です。
新連載ってわけでもないです。
連載するかもわかりません。
これは、少し不思議な、いや自分で言うのも
アレだがめちゃくちゃ不思議でクソッタレな話。
春。
高校三年生にして、俺はなぜか売れっ子作家になっていた。
適当に書いた原稿がコンクール高校生部門で最優秀賞。
デビュー作――『群青、飽和』は大ヒット。
テレビ出演。サイン会。インタビュー。
クラスメイトからの「先生~!」という冷やかし。
調子に乗るなよ、と担任に言われたが、正直ちょっと乗っていた。
そして、編集部からの電話。
「二作目、お願いします」
ギャラの金額を聞いた瞬間、俺は秒速で返事をした。
「やります」
だが…
「次は恋愛もの、どうでしょう」
電話を切ったあと、俺は天井を見つめた。
……恋愛?
俺、恋愛経験ないけど?
三日後。
俺はなぜか神社にいた。
別に神を信じてるわけではない。
けど…正直俺が恋愛小説を書けるわけがない。
「いや、ただの暇つぶしだし」
自分に言い訳しながら、恋愛成就で有名な神社へ。
絵馬には「彼氏ほしい」「推しと結婚」「復縁希望」など生々しい願いが並んでいる。
俺は財布を開いた。
五円玉?
いや、ここは投資だ。
一万円札を賽銭箱へ。
ヒラリ、と吸い込まれた瞬間。
ゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
「はいどーもー!現金確認しましたー!」
「えっ?」
煙の中から、スーツ姿の軽薄そうな男が出てきた。
「誰?」
「恋愛の神です。正式名称は長いので割愛します」
名乗れよ。
「一万円、ナイス判断ですね。最近キャッシュレスばっかりで困ってまして」
「神様、俗すぎない?」
「神だって生活あります」
あるのかよ。
事情を説明すると、神は腕を組んだ。
「つまり、恋愛小説を書かなきゃいけない。でも経験がない、と」
「そうです」
「なるほど」
パチン、と指を鳴らす。
「じゃあ能力あげます」
軽っ。
「小説家向けの特別能力です」
嫌な予感しかしない。
神はニヤリと笑った。
「あなたが小説に書いたことが、現実になります」
「……は?」
「物語として“確定”した出来事は、現実で再現されます」
「え、待って待って」
「ただし、ちゃんと“物語として成立する文章”であること。メモ書きは無効。あと打ち消しはできません」
「危なすぎない?」
「一万円分なので、制限付きです」
レートどうなってるんだ。
「じゃ、頑張ってくださいね~!」
煙とともに消える神。
俺は一人、神社に取り残された。
帰宅。
机に向かう。
とりあえず試すか……?
ノートを開く。
『突然、幼なじみが俺の家に押しかけてきた』
……何も起きない。
「物語として成立、か」
ちゃんと描写する必要があるらしい。
深呼吸。
『午後六時。インターホンが鳴る。ドアを開けると、そこには息を切らした幼なじみの佐伯凛が立っていた』
ピンポーン。
「え?」
リアルに鳴った。
恐る恐るドアを開ける。
そこには――
「はあ……はあ……ちょっと!なんで連絡無視してんのよ!」
幼なじみの佐伯凛。
息を切らしている。
俺はノートを見た。
書いた通り。
完全一致。
「……は?」
凛は眉をひそめた。
「何その顔」
いや、こっちのセリフ。
俺は震える手でノートに視線を落とす。
続きは――まだ白紙。
ゴクリ。
試しに書く。
『凛は突然、俺の手を掴んだ』
ガシッ。
「ちょっと聞いてんの!?」
本当に掴まれた。
温度。力。現実。
「まじかよ……」
これ、やばくない?
その夜。
俺は布団の中で震えていた。
小説が現実になる。
恋愛小説を書けば――恋が起きる。
でも。
もし悲劇を書いたら?
もし別れを書いたら?
「神、説明不足すぎだろ……」
スマホに編集からのメッセージ。
《進捗どうですか?甘酸っぱい感じでお願いします!》
甘酸っぱい、か。
俺は天井を見つめた。
そしてゆっくりとノートを開く。
ペンを握る。
『主人公は、恋を自覚する――』
心臓がドクン、と鳴った。
……あれ?
これ、誰のこと書いてる?
俺?
それとも――




