第9話 初めての仕事
第二王子殿下のもとで働くことになってから、数日が過ぎた。
私に与えられた部屋は、王宮の一角にある小さな執務室だった。
豪華さはないが、机と棚が整い、静かに考え事をするには十分な場所だ。
「まずは、これを見てほしい」
殿下が差し出したのは、一冊の帳簿だった。
「北部倉庫の管理報告です」
私は受け取り、ページをめくる。
数字は整っている。
形式上は、何の問題もない。
けれど。
「……在庫の回転が、不自然ですね」
殿下が、少しだけ眉を上げた。
「どういう意味だ」
「帳尻は合っていますが、入出庫の時期が偏っています」
私は指で該当箇所を示す。
「この月だけ、極端に入庫が多い。その直後に、急激な出庫」
「横流し、か?」
「いえ」
私は、首を振った。
「証拠が残りすぎています。やるなら、もっと分散させるはずです」
殿下は、静かに頷いた。
「では、原因は」
「管理方法そのものです」
帳簿を閉じ、説明を続ける。
「倉庫ごとに管理基準が違う。確認の手間が増え、結果的に人件費と時間を浪費しています」
それは、小さな問題だった。
誰もが「些細なこと」と見過ごしてきた類のもの。
「改善案は?」
「統一します」
私は即答した。
「帳簿様式、報告頻度、確認手順。すべて揃えるだけで、無駄が減ります」
殿下は、少し考え込んだ後、言った。
「反発は出るだろうな」
「はい」
私は頷く。
「ですが、表立って改革する必要はありません。まずは第二王子管轄の倉庫だけで試します」
殿下は、小さく笑った。
「君らしい」
その日のうちに、私は指示書をまとめた。
難しい言葉は使わない。
現場が迷わないよう、具体的に。
数日後。
「……あれ?」
報告を受けた担当官が、首を傾げていた。
「今月、残業が減っています」
「数字も、少し良くなっているな」
劇的な変化ではない。
だが、確実に“楽になっている”。
私は、それを淡々と記録した。
成果を主張する必要はない。
結果は、いずれ表に出る。
殿下は、その様子を黙って見ていた。
「君は、自分の仕事を誇らないな」
ふと、そんなことを言われる。
「……慣れていないだけです」
本音だった。
「誇る必要はない。ただ、覚えておくといい」
殿下は、穏やかに続ける。
「こういう変化が、国を支える」
その言葉に、胸の奥が静かに温かくなった。
その頃、別の場所では。
「……最近、第二王子の周辺が静かすぎない?」
第一王子の執務室で、誰かがそう呟いていた。
「何もしていないようで、何かが変わっている」
小さな違和感が、芽生え始めていた。
私はまだ知らない。
この“些細な仕事”が、
後に大きな波紋を広げることを。
ただ一つ確かなのは――
私は、久しぶりに「役に立っている」と感じていた。
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