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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第8話 拾われたのではなく、選ばれた

 第二王子殿下との面会から、二日が過ぎた。


 私は、まだ返事をしていない。


 辺境行きの準備は、淡々と進んでいた。

 荷物を整理し、引き継ぎを整え、屋敷の使用人たちに挨拶をする。


 そのすべてが、どこか現実味を欠いている。


 ――このまま、行ってしまえばいい。


 そう思う自分が、確かにいた。


 期待しなければ、傷つかない。

 静かに生きれば、誰の邪魔にもならない。


 それが、これまで身につけてきた生き方だった。


 けれど。


 机の上に置かれたままの、あの書類が、何度も視界に入る。


 ルシアン殿下が見せてきた、政務の資料。

 私が関わった案件の、その後。


 ――結果を、知っている。


 その事実が、胸に残って離れなかった。


 私は、書斎で父と向き合っていた。


「……第二王子殿下から、話があったそうだな」


 父は、既に知っているようだった。


「はい」


「内容は?」


 少しだけ、間があった。


「お前が望まないなら、無理に聞くつもりはない」


 父のその言葉に、私は顔を上げる。


「……働いてみないか、と」


 父は、目を細めた。


「そうか」


 否定も、驚きもなかった。


「どう思う」


 問いは、私に向けられている。


 私は、ゆっくりと息を吸った。


「……怖いです」


 正直な言葉が、口をついて出た。


「また、不要だと言われるのではないかと」


 父は、何も言わずに聞いている。


「でも」


 私は、続けた。


「このまま辺境へ行けば、私は“何もしない”ことを選ぶことになります」


 自分の声が、少しずつはっきりしていく。


「それは、逃げです」


 言い切った瞬間、胸が痛んだ。

 けれど、不思議と後悔はなかった。


「私は……」


 一度、言葉を区切る。


「私は、自分が役に立てる場所があるなら、もう一度、そこに立ちたい」


 父は、深く息を吐いた。


「それが、お前の意思か」


「はい」


 短く、だが迷いなく答える。


「拾われたのではありません」


 私は、父を見た。


「自分で、選びます」


 しばらくの沈黙の後、父は静かに言った。


「分かった」


 それだけだった。


「公爵家として、表立って後押しはできない」


「承知しています」


「だが、妨げることもしない」


 それは、最大限の理解だった。


 その日の午後、私は王宮へ向かった。


 あの応接室で、再びルシアン殿下と向き合う。


「……お返事に来ました」


 殿下は、頷いた。


「聞こう」


 私は、深く一礼した。


「私を、部下ではなく、協力者として扱ってくださるなら」


 一拍、置く。


「その提案を、お受けします」


 殿下の表情が、わずかに変わった。


 驚きと、安堵が混じったような。


「ありがとう」


 その言葉には、重みがあった。


「君が選んだのだな」


「はい」


 私は、はっきりと答えた。


「後悔は?」


「……今は、ありません」


 殿下は、小さく笑った。


「それで十分だ」


 窓の外に、午後の光が差し込む。


 私は、初めて気づいた。


 ――私は、ここに来たのではない。


 自分で、歩いてきたのだ。


 拾われたのではない。

 選ばれたのでもない。


 私は、自分の意思で、ここを選んだ。


 その事実が、胸の奥に、静かに根を張っていく。


 物語は、ここから始まる。


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