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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第6話 第二王子からの呼び出し

 扉を叩く音は、控えめだった。


「……はい」


 返事をすると、侍女が一礼して告げた。


「第二王子殿下より、お呼びでございます」


 一瞬、意味を理解できなかった。


「第二王子……殿下、ですか?」


「はい。非公式ではございますが、ぜひ一度お会いしたいとのことです」


 心臓が、小さく跳ねた。


 なぜ、今。

 なぜ、私を。


 頭の中に疑問が浮かぶが、答えは出ない。


「分かりました」


 そう答えた自分の声が、思いのほか落ち着いていることに、少し驚いた。


 案内されたのは、王宮の奥。

 人目につきにくい、小さな応接室だった。


 扉の前で一度、深呼吸をする。


 ――期待してはいけない。


 そう、自分に言い聞かせてから、中へ入った。


「失礼いたします」


「どうぞ」


 穏やかな声だった。


 部屋の中央に立っていたのは、ルシアン殿下。

 簡素な服装で、王族としての威圧感はほとんどない。


「突然呼び出して、すまない」


「いえ……」


 私は一礼する。


「ご用件を、伺ってもよろしいでしょうか」


 殿下は、少しだけ困ったように微笑んだ。


「単刀直入に言おう。君と、話がしたかった」


 それだけ。


 責めるでも、試すでもない。

 ただ、対話を求める声音。


「……私に?」


「そうだ」


 殿下は椅子を勧め、自らも腰掛けた。


「君が婚約を破棄された夜会。あの場に、私はいた」


 胸が、わずかに強く脈打つ。


「すべてを、見ていた」


 その言葉に、私は思わず視線を伏せた。


「恥ずかしいところを……」


「いや」


 すぐに、否定が入る。


「君は、恥ずかしいことなど何もしていない」


 その一言が、胸の奥に静かに沈んだ。


 否定されると思っていなかった。

 少なくとも、王族からは。


「君が反論しなかったことも、声を荒げなかったことも、私は理解している」


「……」


「君は、あの場で“品位を守った”」


 初めてだった。


 あの夜の行動を、肯定されたのは。


 私は、言葉を探したが、見つからない。


 殿下は続ける。


「君がこれまで、どんな仕事をしてきたかも、私は知っている」


 顔を上げる。


「知って、いる……?」


「政務資料。外交文書。会議記録。君の筆跡は、見覚えがある」


 心臓が、確かに音を立てた。


「第一王兄の名で出されていた多くの書簡。その下書きに、君の思考があった」


 逃げ場のない事実だった。


 誰にも見られないと思っていた努力。

 評価されることのなかった仕事。


 それを、この人は――見ていた。


「……なぜ」


 ようやく、それだけが口から出た。


「なぜ、殿下が、それを」


 ルシアン殿下は、少しだけ目を細めた。


「私は、観察する立場だからだ」


 自嘲気味な笑み。


「第二王子というのは、何もしないでいると無能扱いされる。だが、何かをしようとすると、警戒される」


 静かな声で、続ける。


「だから私は、記録を見る。人を見る。誰が実際に国を支えているのかを」


 その言葉が、胸に深く刺さった。


 ――国を、支えていた。


「君は、不要だったのではない」


 殿下は、はっきりと言った。


「使えなかっただけだ。第一王兄が」


 私は、息を呑んだ。


 そんな言葉を、誰かが言ってくれる未来があるなんて、想像もしていなかった。


「……私は」


 声が、わずかに震えた。


「もうすぐ、辺境へ向かいます」


 殿下は、頷いた。


「知っている」


 その上で、続ける。


「だからこそ、提案がある」


 空気が、張り詰めた。


「君に、選択肢を提示したい」


 殿下は、私を真っ直ぐに見た。


「辺境へ行く前に――私のもとで、働いてみないか」


 頭が、真っ白になる。


「……拾う、という意味ではない」


 殿下は、すぐに付け加えた。


「必要だからだ。君の力が」


 その言葉は、同情でも慰めでもなかった。


 ただの、評価。


 私は、何も言えずにいた。


 心の奥で、何かが静かに、音を立てて崩れていく。


 それは、諦めだったものか。

 それとも――希望だったのか。


 まだ、自分でも分からなかった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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