第54話 民衆の選択
再評価委員会が終わった翌日。
王都の空気は、どこか落ち着かなかった。
討論の内容はすでに新聞に載り、街中で話題になっている。
市場でも。
酒場でも。
広場でも。
「監査院って何だ?」
「役人を監視する役人らしい」
「結局また役人が増えるのか?」
疑問。
期待。
不安。
意見は混ざっている。
それが普通だった。
王宮の執務室。
マリエルが報告書を持ってきた。
「地方からの反応です」
私は目を通す。
北部商人組合。
南部農民議会。
西部都市連盟。
どれも完全な賛成ではない。
だが――
拒絶でもない。
「……興味深いですね」
私は言う。
ルシアン殿下が聞く。
「何がだ」
「批判が減っています」
以前はこうだった。
改革=反対
だが今は違う。
改革=議論
それは小さな変化だが、大きな意味を持つ。
その時、カイルが入ってきた。
「王都広場で集会が開かれています」
「反対運動ですか」
「いえ」
少し驚いた顔をしている。
「支持集会です」
私は思わず顔を上げた。
王都中央広場。
人が集まっている。
旗もなければ指導者もいない。
ただ、商人たちが話している。
「制度が変わるのは困る」
「だが、今までのままも困る」
「なら試してみるしかない」
それが彼らの結論だった。
市場の主人が言う。
「少なくとも」
「今回の連中は逃げない」
グレイヴンの事件。
公開討論。
王宮が逃げなかった。
それを見ていた。
商人は現実的だ。
理想ではなく、結果を見る。
王宮。
私は報告を聞きながら小さく息を吐いた。
「支持ではありません」
ルシアンが言う。
「ええ」
私は頷く。
「様子見です」
それでも大きい。
国家の政治は、
民衆が完全に敵になると終わる。
だが今は違う。
まだ判断している。
その夜。
ドミニク侯爵の屋敷。
側近が報告する。
「王都広場で支持集会が」
侯爵は驚かなかった。
「当然だ」
静かな声。
「人は変化を恐れる」
「だが」
紅茶を口にする。
「逃げない政治も好む」
彼は窓の外を見る。
「面白くなってきた」
王宮。
私は窓の外を見ていた。
王都の灯り。
その一つ一つに生活がある。
政治は理念ではない。
国家でもない。
人の上にある。
「……ようやく」
私は小さく呟く。
「政治になってきました」
ルシアンが笑う。
「今までは何だった」
「制度設計です」
私は答えた。
「これからが本番です」
王国は今、
初めて選択を始めた。
制度か。
旧秩序か。
そしてその選択は、
まだ終わっていない。
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