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婚約破棄された公爵令嬢は、無能扱いの第二王子の政務を支えることになりました ~捨てた第一王子が後悔しても、もう遅いです~  作者: 藤宮レイ


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第5話 行き場のない未来

 父の書斎に呼ばれたのは、昼過ぎのことだった。


 扉の前に立っただけで、空気が重いと分かる。

 これは、良い話ではない。


「入れ」


 短い声に応じ、私は中へ入った。


 父は机の向こうで書類を広げていた。

 母も同席している。二人とも、表情は硬い。


「エリシア」


 父は、私を正面から見た。


「王宮から、正式な通達が来た」


 その一言で、胸の奥が冷える。


「お前の今後についてだ」


 私は黙って、続きを待った。


「……公爵家として、お前を王都に留めておくことは難しい」


 予想していたはずの言葉が、はっきりと突き刺さる。


「表向きは“静養”という形だが、実際には――辺境領への移動だ」


 辺境。


 王都から遠く、政治の中心からも外れた土地。

 治安も、環境も、決して良いとは言えない。


 そこへ送られる理由は、一つしかない。


 ――表舞台から、消えるため。


「……いつ、ですか」


「一週間後だ」


 思ったよりも早かった。


「急だと思うだろう。だが、これ以上時間を置けば、余計な憶測を呼ぶ」


 父の言葉は、理にかなっている。

 公爵家としての判断としても、正しい。


 だからこそ、反論できなかった。


「辺境伯には話を通してある。名目上は、政務補佐としての滞在だ」


 ――補佐。


 その言葉に、わずかに心が動いた。


 だが、それもすぐに分かる。

 それは“仕事”ではなく、“処遇”なのだと。


「……私は」


 声を出すのが、少し遅れた。


「私は、公爵家にとって……邪魔、なのですね」


 母が、はっと息を呑んだ。


「そんなことは――」


「いいえ」


 私は、静かに首を振った。


「理解しています。家の名を守るためには、そうするしかないと」


 王太子に捨てられた元婚約者。

 その存在は、今の公爵家にとって、扱いづらい。


 父は、しばらく沈黙した後、低く言った。


「……すまない」


 謝罪の言葉が、逆に重かった。


 私は、深く一礼した。


「ご配慮、感謝いたします」


 それ以上、話すことはなかった。


 部屋を出て、自室に戻る。

 扉を閉めた瞬間、足の力が抜けた。


 辺境へ行く。


 それは、再出発ではない。

 少なくとも、今の私にとっては。


 ――終わり、なのだ。


 王都で築いてきたもの。

 学び、積み重ね、必死に守ってきた日々。


 すべてが、遠ざかっていく。


 荷造りを始めながら、思う。


 私は、この先、何者になれるのだろう。


 王太子妃候補でもない。

 政務に関わる立場でもない。


 ただの、行き場を失った公爵令嬢。


「……これで、いいのよね」


 誰に向けるでもなく、呟く。


 これ以上、誰かの邪魔をしないために。

 これ以上、失望させないために。


 それが、私にできる唯一の選択。


 窓の外では、王都の街がいつも通りに動いていた。

 私の人生だけが、静かに切り離されていく。


 ――もう、期待するのはやめよう。


 そう心に決めた、その時だった。


 扉の向こうから、控えめなノックの音が響いたのは。


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