第26話 王位継承会議
その知らせは、王宮全体を静かに揺らした。
「王位継承について、正式な会議を開く」
告知文は短く、感情を挟む余地がない。
だが、その一文が意味するものは重い。
――もはや、水面下ではない。
王位継承は、正式な議題として“表”に出た。
会議の場に指定されたのは、大評議室。
王族、重臣、各省の代表が集う場所だ。
私は、ルシアン殿下の半歩後ろに立っていた。
以前なら、ここに立つ資格すらなかっただろう。
だが今は違う。
私は「第二王子殿下政務補佐」として、名を連ねている。
「……来たか」
低く呟いた声に、視線を向ける。
第一王子アルノルト殿下が、既に席についていた。
視線が、一瞬だけ交わる。
そこに、以前の余裕はない。
だが、引く気配もない。
王が入室すると、全員が起立した。
「着席せよ」
重々しい声が、場を支配する。
王は、集まった顔ぶれを一瞥し、淡々と告げた。
「本日より、王位継承について協議を始める」
ざわめきが、わずかに広がる。
分かっていても、実際に口にされると違う。
「第一王子アルノルト」
「はい」
「第二王子ルシアン」
「はい」
名を呼ばれただけで、空気が引き締まる。
「両名を、正式な継承候補とする」
その瞬間、王都の流れが変わった。
王は続ける。
「評価基準は、これまでの政務実績、国政への理解、そして――国を壊さない判断力だ」
最後の言葉が、強く残った。
壊さない。
それは、単なる理想論ではない。
今の王が、最も重視している点だった。
「本日より、監察官の報告、各省の意見、記録を基に、段階的に判断する」
感情は、一切排されている。
ここは、戦場だ。
だが、剣も叫びもない。
第一王子が、静かに口を開いた。
「陛下」
「何だ」
「評価の場に、政務補佐が同席する必要は?」
視線が、私に向けられる。
一瞬、場が静まった。
王は、少しだけ考えてから答える。
「必要だ」
短く、断定的に。
「実績は、人ではなく仕組みで評価する」
その言葉に、私は背筋を伸ばした。
これは、私個人への庇護ではない。
制度としての判断だ。
第一王子は、それ以上何も言わなかった。
だが、その沈黙は、納得ではない。
会議が進むにつれ、次々と資料が提出される。
数字。
報告書。
修正履歴。
私は、それらを淡々と説明した。
誇張はしない。
言い訳もしない。
ただ、事実を並べる。
「……以上です」
説明を終え、私は一歩下がった。
王は、静かに頷いた。
「よく分かった」
それだけだった。
だが、その一言が示す意味は大きい。
会議が一旦休憩に入る。
重臣たちが小声で言葉を交わす中、私は気づいていた。
もう、後戻りはできない。
王位継承戦は、始まった。
そしてこれは――
誰が正しいかではなく、
誰が国を壊さずに済むかを問う戦いだ。
私は、静かに覚悟を固める。
この場に立った以上、
最後まで、責任を果たすと。
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