第22話 修正できる者
修正は、即日で始まった。
私はまず、現場に出た。
帳簿の前で考えるより、直接話した方が早いと判断したからだ。
「混乱している点は、ここですね」
指差した先で、担当者が小さく頷く。
「手順そのものは分かるんですが、切り替えの判断が難しくて……」
「判断しなくて大丈夫です」
私は、きっぱりと言った。
「判断が必要になる工程を、一つ前に戻します」
現場が、少しざわつく。
「戻す、というと……」
「失敗です」
私は、はっきりと認めた。
「こちらの説明が足りませんでした」
その言葉に、空気が変わる。
言い訳ではない。
責任転嫁でもない。
ただの事実としての認識。
「ですから、三日間だけ、旧手順と新手順を併用します」
私は、用意してきた簡易図を広げた。
「この線より前は旧手順、この線を越えたら新手順。迷う余地をなくします」
担当者たちは、顔を見合わせる。
「……それなら、分かります」
「判断しなくていいなら、早いですね」
小さな納得が、連鎖していく。
その日の夕方。
執務室に戻ると、修正後の暫定数値が届いていた。
「……戻り始めています」
マリエルが、少し驚いた声で言う。
私は、深く息を吐いた。
「想定内です」
だが、それは決して慢心ではない。
ただ、原因が分かっているだけだ。
翌日。
監察官アーデルハイトと書記官リヒャルトが、再び訪れた。
「修正内容を確認します」
私は、包み隠さず説明した。
判断を現場に委ねた点。
それが負担になった点。
だから、判断工程を前倒しで回収したこと。
「……合理的です」
アーデルハイトは、短く言った。
書記官のペンが、淡々と動く。
《修正速度:迅速》
《責任所在:明確》
そして、もう一行。
《再発防止策:実装中》
その文字を見て、胸の奥が静かに熱くなる。
殿下が、静かに口を開いた。
「責任は、私にある」
「はい」
アーデルハイトは、淡々と応じる。
「ですが、判断と修正は適切です」
それは、最大限の評価だった。
監察官が去った後、殿下が私を見る。
「怖くなかったか」
私は、少し考えてから答えた。
「……怖かったです」
「だろうな」
「でも」
私は、顔を上げた。
「戻れると分かっていました」
失敗しても、修正できる。
壊していないから、立て直せる。
それが、今のやり方だ。
その頃、第一王子殿下の側では。
「……もう戻っている?」
報告を受けたアルノルト殿下が、眉をひそめる。
「はい。数値は、ほぼ元通りです」
「早すぎる」
吐き捨てるような言葉。
それは、焦りの裏返しだった。
私は、再び帳簿を閉じる。
今回の失敗は、小さい。
だが――
修正できたという事実は、
記録として、確かに残った。
それは、次に問われる時の、
何より強い証明になる。
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