真の刀剣 2
恭介より武器製作に依頼を受けたトオイは、他の依頼を行う時よりもモチベーションが高い事はしょうがない事だと思っていたりする訳だが、しかしながら他の仕事に手をまわしている場合ではないのが現状だ。それだけ彼が加工している金属の扱いが難しいというわけだ。未だ名も無き金属の見てくれは金属とは言えず硝子に近い。だが、空気の光屈折率と同じため油などに沈めていないと見ることが出来ない。だからこそ、恭介の無茶苦茶な注文を達成することが出来る金属はこれ以外ではありえないだろう。
しかし、叩き延ばすのに普通の金属よりも時間がかかる。剛健ではあるものの粘りのあるとても良い金属である。それだけ良い金属であるのに何故発見量が少ないのか?簡単な話である。採掘されたとしても見つけられない事が多いからだ。実は埋蔵量自体が少ないので採掘される可能性や量も当然すくないのだ。
「ふぅ……よし、あとは――」
開けていた鎧戸を閉め鍛冶場を暗くする。そのあと、刀身を熱して行き一定の温度まで熱した後、水へ放り込んだ。じゅうっと音を立て湯気が水から生じた。
急冷した刀身を水から引き上げ、焼入れによって生じた反りを確認する。茎と鎬に手を沿え反り具合を確認しようとしたところで淡く輝いている事にトオイは気付いた。ふむ、と新たな発見があった事に頷く。反りのほどは問題はなかった様で、そこから更に焼き戻し、鍛冶押しと段階を踏み刀身を研ぐ段階へと移る。
だが、銘切りの段階でトオイは、はたと手を止めた。この太刀は、恭介が使うであろうことは分かりきっている事である。しかし、見えない刃。暗殺などに使う事は子どもでも分かる事だ。そんな太刀に果たして己の名を刻んでもよいのだろうか?と思う。だが、それはそれでおもしろいとも思う。
銘切りを終え、拵えを必要最低限にとどめて作業を終えた。その太刀を蔵へ梱包をしてから収め、元々頼まれていた剣の製造を開始した。日程としては3日ほどずれている為、納入は確実にずれてしまうだろう。これは信用問題ではあるのだが、そもそも納入期限など守った事はトオイの記憶している限りではかなり少ない。
そのため、よく製作の注文取りやめがあるが、トオイは別段稼ぐために鍛冶をしているわけではないので本人からすれば特に気にすべき事ではない。むしろ、注文の数が減ったほうが一つの剣に集中できるのでトオイからすれば万々歳である。
さて、現在各国間で緊張状態及び戦争行為が行われているわけであるが、トウハは周りを山脈で囲まれている関係上で戦争へと発展する前に事前に防ぐ事が出来る為に被害は少ない。しかし、食料面では他国に頼っていた事もあり食料品は緩やかにだが0に近づきつつある。数ヶ月前まで友好的だったウッドノースへ使者を送ってみたものの門前払い。元より仲の良くなかったレアールやユーランドは以ての外、サンゴールドも食料面となると自国内消費を賄う事が限界である。
そこで、諸外国へと密偵を潜り込ませてはみたものの4国中2ヶ国――ウッドノースとユーランドへ送り込んだ密偵は全員消息不明となっておりトウハは各国への緊張を高めている現状。軍備の増強も進めるべき急務となっており国内の鍛冶師達に武器防具の製造を急がせている現状である。
噂によるとウッドノースの近衛騎士団及び王子がなにやら企んでいるらしい。さらに、王女は行方不明で魔王城付近での目撃情報がある。
閑話休題。
トオイが太刀を作り終え、別の剣の製作の中盤を迎えたころ恭介が太刀を受け取りに来た。先日注文をしにきた時よりも装備が土ぼこりで汚れている。どうやら、どこか他の地へと遠征か何かへ出ていたようだ。
「ああ。やっと来たか。仕上がってるよ」
「ちょっと野暮用があってな。遅れた」
例のごとく壁にもたれ掛かって立つ恭介に待っているように言うとトオイは蔵へと取りに行った。素材や試作として作った武器が収められている蔵の中央に鎮座をしている太刀の納められたヒノキの入れ物を手に恭介の元に戻ると先約を入れていた貴族の男だ。トオイを見つけた男はノシノシと不機嫌そうにトオイへ近づいてきた。
男は、怒り心頭らしく顔を真っ赤に染めてトオイの胸倉を掴みあげた。
「どういうことだ?トオイ」
「どういうことと仰いますと?」
「なぜ、私の注文より先にこの得体の知れぬ女の依頼を優先させたのだと聞いているのだ」
なるほどとトオイは頷くと、さも当然と言いたげな表情を浮かべたあと言った。
「あなた方の頼む物はどれも武器とは言えぬものばかりだ。装飾?美しさ?馬鹿馬鹿しい。武器はただ人を殺す為だけの物だ。そんなものに何故美しさを求める?何故、効率を求めない?」
トオイはとどまる事を知らず貴族の男へとはかれ続ける。
「殺しの道具に求めるものは、いかに素早く、簡単に、大人数を殺せるかが価値だ。その為の武器であり魔法なのだろう?装飾などいらない。取り回しが遅くなるからな。オレが求めるのは最高の武器だ。そんな美術品など興味はない。だから、彼女の依頼を優先させた。彼女はオレに最高の人を殺すための武器を求めたからだ。気が済んだか?さっさと帰ってくれ。武器はちゃんと作ってやるだから、顔を見せるな」
「ふざけるな。私は貴族だぞ!?貴様如き有象無象の庶民どもが粋がるな!!」
(……どこからツッコミを入れるべきだろう?)
蚊帳の外の恭介は言い合いを始めた二人を傍から見つつそんな事を考えていた。恭介が傍観を続けるなか、二人の言い合いはヒートアップしてゆき終わる様子はない。はぁ、とため息が漏れた。
数分したところで我慢できなかった恭介が口を開いた。
「とりあえずさ。それ早く渡してくんない?」
「あぁ、そうだったな。お代は――」
「待て、貴様はなしを聞いていたのか!?私は貴族だと―――」
「あのさぁ、お前黙っててくんない?貴族だかなんだか知らないけどさ、人如きがしゃしゃり出んじゃねぇよ」
「んな!?」
「んで?いくらだ?」
「500だ」
「んじゃ、ほれ」
お代を払い太刀を受け取ったところで俯いていた男が顔を上げた。
「私を馬鹿に、するなぁあ!!」
叫ぶと同時に剣を抜刀し、トオイに切りかかった。だが、いち早く反応した恭介が神魔刀で逸らし男の胸を蹴り飛ばす。
男は蹴られた胸を片手で庇いつつ切っ先を恭介の正中線へ向けた。そのまま手を前へ出す要領で突きを放った。そこで恭介はつい癖で神魔刀を消しトオイの作った太刀の鞘で弾き抜刀した。トオイの時とは違い完全な無色透明の光に包まれた刀身は易々と男の腕を切り飛ばした。傷口から鮮血が噴き出す。
「がぁああああ!!?」
「あ、やば、いつものノリでやっちまった」
「ばっ!こいつは貴族だぞ!?このままじゃ出血多量で死んじまうぞ!?」
「あーうん。まあいいんじゃね?いても価値なさそうだしさ。つか、ここで死んでたらあんたが疑われるんじゃないか?」
「人事だと思って言っているだろう、お前は!!」
「えー、こいつの責任じゃん。つか、お前もこんだけ罵声を浴びせてたらどっちにせよアウトじゃね?」
恭介が言ってからトオイはしばし考え込んだ後、顔を青くした。
「……そうだな」
「じゃあどうすんの?逃げる?」
「……それしかないだろうな。工房がもったいない」
「んじゃ、俺と一緒に来ねぇ?退屈はしないと思うぜ。ぶっちゃけ、お前の腕が欲しいし」
傷口を押さえのた打ち回る男を尻目に恭介はトオイへ手を差し出した。差し出された手を見つめトオイは少し考え込んだ後、頷きその手を握り返した。
「分かった。あんたがオレの剣を望むのならオレはあんたの為に剣を鍛えよう」
「よし、決まりだな。んじゃあ、こいつは―――――」
男を一瞥したのち、
「いらねぇな」
男の首を切り捨てた。その瞳には何の感情も宿ってはおらず無機質な光が宿っていた。
神魔刀によって開かれた魔法陣で転移し、これまで通りにトオイに力を渡した。
恭介の手札はそろった。あとは攻め込むだけだ。敵の正体はまだ分かってはいない。しかし、あの神が一枚噛んでいるのは確かなのだろう。しかし、と思考をさらに発展させようとしたところで恭介は深く考える事をやめた。確かな情報がない現段階で考え込むのは得策ではないと判断したからだ。ここから歴史が加速していく。
待ってくださっていた皆様方、大変お待たせしました。熊海苔です。
言い訳はなく事実のみを簡潔に述べますとネタがなかった事とTESシリーズを遊んでました。申し訳ないです。
えー、では今回の話に関しまして、前回からの続きとなっております。作中のトオイの武器に関する考え方ですが、現代の刀剣に対する(主に日本刀)考え方はどちらかといえば美術品、骨董品として価値を見出している節があります。まあ、銃刀法やらがあるので普通ではありますが、昔の人からすれば人を殺める為の道具が主な考えであって美術品としての扱いは薄かった。という点より、昔の人の考え方をトオイ、現代の考え方をトウハの貴族という形で書かせていただきました。
ぶっちゃけここまでのところは読まなくてもいいのですが(笑)
さて、次回のお話ですが予定としては恭介くんから視点を外して他の人達を主にしようと思っています。
では、長文失礼しました。