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恭介くんの数奇な生活  作者: 熊海苔
第2章 新大陸侵攻
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真の刀剣 1

 久しぶりに訪れたトウハの空気を胸いっぱいに吸うと恭介は白い髪を風に弄ばせながら、これからどうするかを考えていた。トウハに来たものの、そこからどうするかなど考えていなかった。涼やフェスティアの時はすでに目標が決まっていたし噂などでどこに居るのかだいたいの見当はついていたのだが、今回は行き当たりばったりなので、下手をするとダーインスレイヴしか仲間に出来ないやもしれない。


「それはそれで困るなぁ」


 恭介の独白が誰に届くでもなく虚空へ吸い込まれた。ぐるりぐるりと肩を回してから、また歩き出した。


****


 壮麗な装飾の為されたサーベルを片手に豊富な髪を持つ男は貴族の家を訪れていた。理由は簡単、依頼されていた剣を届けに行く為だ。彼は名はあまり知られてはいないものの鍛冶屋としての腕は確かで金持ちからよく刀剣の製作依頼が来るのだ。現在もある程度は鍛冶の仕事で予定が埋まっており、彼からすれば猫の手も借りたいくらいの忙しさであった。

 しかしながら、彼は貴族たちから頼まれる武器はどれもが装飾や見た目に重きをおいた物ばかりで彼の求める人を殺す為だけの本来の意味合いで作られる武器は今まで注文されたことなど無く、彼自身が満たされるような代物はまだ作られていない。

 だが、だからといって任された仕事を投げ出す様なマネをする気はない。それは職人としてのプライドが許すわけがなく、結局のところ彼が望む様な物は作れてはいない。

 黙々と進み続けて目的の扉の前に着いた。両端に兵がおり彼に気づいて扉を開いた。赤い絨毯の先に豪奢なイスに腰掛けた依頼人である貴族のスオウ・カラハタだ。若くして父親を亡くし現在の地位に着いたスオウだが、裏では父親を殺し地位を継いだという噂が実しやかに囁かれていたりする。


「おぉ、ついに完成したか。して、完成度はどうだ?トオイ」

「最高の物しか私は献上致しません」

「ふむ、流石――といえようか?」

「ありがとうございます」


 スオウはニヤリと笑みを浮かべると男――トオイからサーベルを受け取り鞘から抜き放った。白刃が光を受けその美しさを際立たせる。満足そうにうなずいたのを見てからトオイは恭しくお辞儀をすると颯爽と館を去っていった。

 館を後にして自身の工房へ着いた途端、トオイは悪態をついた。


「チッ、何が完成度だ!!あんな玩具みたいな物が剣だと!!?オレが求めている武器こそが真の武器だ!なのに!なのに!なんだ!?この国の阿呆どもは!?あんな物に金をかけているから彼女が死んだ!!クソが!!」

「なら……あんたの求める最強の剣を作ってくれないか?」

「!!?誰だ!!」


 トオイがぎょっとした様子で鍛冶用の大鎚を握り振りかぶった。だが、それよりも早く相手は鎚を掴み振るうのを止めた。

 大鎚を受け止めた相手を見て、はっと息を呑んだ。絹のような白髪に紅玉ルビーの如く真っ赤な瞳。そして軽装の防具に包まれたスタイルの良い身体、トオイからすれば正に女神の様に映っただろう。だが、背中に背負っている野太刀が彼に違和感を与えていた。

 にやりと笑みを浮かべると大鎚から手を放し壁にもたれ掛かった。そのまま腕を組みトオイへ視線を向けた。


「敵じゃないから大丈夫だよ。依頼だ。それも至急のものだ」

「……内容は?」

「見えない刃。太刀」

「…難しい注文だな。しかし、腕の見せ所だ。硝子の刃は――」

「脆いから却下」


 即答した女にトオイは分かっていたと言わんばかりに、にやりと笑った。そうだな…とトオイは思考する。見えない刃を製作する手は確かに彼は持っている。だが、その素材自体はとても貴重であり刀を作ろうものなら、その材料はなくなってしまうだろう。だが、とトオイは思う。これまで彼の求める武器を求める人物はいなかった。

 つまり―――彼女の注文を受ければ己が求めていた武器としての刀剣を作ることが出来る。


「分かった。なんとかしよう。名は?」

「恭介だ。あとで取りに来る」


 女――恭介は片手を軽く振りトオイの元を去って行った。

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