ひ弱なヒーロー 1
お久しぶりで御座います。絶賛受験生の熊海苔です。
今回、少しずつ書いた物ですので、おかしいところがあれば教えて頂けるとありがたいです。
レアールの辺境にとある村があった。
どさっと人が倒れる音と共に砂埃が舞った。砂埃を起こした本人は地面で腹を押さえ蹲っていた。その前で如何にも悪ガキ然とした少年が仁王立ちしていた。
「そんなのでヒーローだとか言ってるのかよ?」
「ぐぁ……」
「へっ、張り合いねぇヤツだな。行こうぜ!」
飽きたと言わんばかりの表情で少年が立ち去ると、まだまだ子供っぽさが強い少女が蹲っている少年に駆け寄った。
「涼ちゃん!大丈夫!?」
「へへっ、僕は正義の味方のヒーローだからね。こんなのヘッチャラだよ」
「もう…、わたし達はもう16なんだからそんなのに憧れる年じゃないよ?」
「けど、僕はヒーローなんだ。いいよ、分かってくれないならほっといてくれよ、ルカ。頑張って僕は強くなるんだ」
ルカが言い返すよりも先に涼は走り出していた。目指す場所は誰も知らない涼だけのスペース、大木が朽ちたことで出来た場所だ。涼はいつもここで一生懸命に身体を鍛えていた。一度、やり過ぎて身体を壊した事があるくらいだ。
今日も悪ガキのトラウスに惨敗した悔しさを忘れないで持久走を始めようとした時だった。がさがさと草むらが揺れた。
「!?」
涼はとっさにそばに置いてあった木剣を手に取って構えた。足が震えているが自分に武者震いだと念じる様に思ってから、そっと草むらに近づいた。がさっと先ほどより大きな音と共に女性が倒れてきた。いきなりの事にぎょっとした涼だったが、我に帰ると木剣を放り出して女性に駆け寄った。ヒーローは弱い者の味方なのだ。
ぐっと力を込めて女性を抱え上げる。筋肉があまり付いてない涼は一度バランスを崩しかけたが、なんとか持ち堪えると女性を抱え直し自宅へと急いだ。
家へ向かう途中だった。もっとも(今の状態で)会いたくない人物と鉢合わせになったルカだ。
「涼…ちゃん?誰、その人?」
「えっと、さっき森の中で倒れてるところを助けたんだ。手伝ってくれないかな?」
「どこに運ぶの?」
「僕の家、母さんも居るし、母さん優しいし」
「まあ、それには同意するけどさ。いきなり運びこんだらびっくりしない?」
「それはそうだけどさ……この人、かなり弱ってるよ?急いだ方がいいと思うんだ」
「一理あるけど…う~ん……」
涼の言い分には一理あるにはあるが、ルカにはそれが許せない事情がある。ちらりと、涼に背負われている女性の顔を盗み見る。目鼻立ちも整っているし、まつ毛は長く小顔、どこからどう見ても美人。それに比べて、と落ち込み気味に鏡でいつも見ている自分の顔を思い浮かべる。全然だ。絶対にこの女性に勝てる訳がないと更に落ち込む。
だが、そんな自分の事情でこのまま死なせてしまうのはおかしい。だから、苦渋の決断を彼に伝えた。
「わたしの家に運んで涼ちゃん。パパなら、少し知識があるって言ってたから」
「あ、そうだね。僕もいつも薬貰ってるし」
「じゃあ、いそごっ!」
涼を急かす様に一歩前をかけ足で進んで行くルカの後ろを必死に女性を落とさないように注意しながら追いかけていった。
――――
翌朝、柔らかな感触と温もりの中で彼女は目を覚ました。昨日までの森の中でほとんど飲まず食わずだった時よりかは遥かに良いだろう。本人にとってはどうでもいい事だが…
自分の置かれている状況をいまいち把握しきれていないのと、まだ眠気が抜けていないのとで頭を乱暴に掻いた。
「どこだここ?」
自分の記憶を探ってみるがこんな場所に見覚えなど無い。そもそも自分がとぼとぼと歩いていたのは森の中である。なのに今現在自分が居る場所はどうだ?ふかふかのベッドに知らない落ち着いたデザインの服。
「この服も知らない…」
「あっ、身体の方は大丈夫ですか?」
「えーと…君は?」
「あ、はい。ルカって言います」
「それでここはどこ?」
「ここですか?レアールとユーランド国境付近にある村です。それにしても……」
「?」
言葉を溜めるルカに女が不思議そうに首を傾げる。と、ルカがいきなり腕をヌッと伸ばし女の肩を掴んだ。
「どういうことですか!栄養失調に過労って!死にたいんですか!?」
「……別に死んでも良かったんだけどな」
「ッ!!なんてこと言うんですか!神が私たちに与えてくださった命なんですよ、それをそんな軽い扱いをしてっっ!!」
「………そうだな。すまない」
本当は怒鳴り返したかったのだろう。布団で隠れた右手が爪が突き刺さるほどに強く握られていた。だが、どんなに自分が喚いたところで自分のこれまでの境遇を知らない少女に何の意味があるのだろうか?
そう、ないだろう。自分がすっきりするだけで少女を不快な気持ちにしてしまうだけだ。そんな他人に当たるような事だけはしたくないから堪える。
「それでお名前は?」
「……レアスだ」
「レアスさんですね」
「ああ」
「それでレアスさんはどうしてあんなところに?」
「さあ?彷徨っていたら着いた」
肩を竦めるレアス――もとい恭介にルカは一瞬驚いた顔をしたが、少し待っていてくださいと言い残すと部屋を後にした。
その姿を見送るとベッドに倒れ込んだ。右腕で顔を隠し思考に沈む。これからどうするかとか、何を目的にするかとか、これからの行動の根本的見直しが必要な状況だ。このまま、アカーシャ軍を放置してレアールの頭を潰しに行くか、それともこの戦いすら投げ出してしまいどこかへ行くか。
「行くとしたら、ウッドノースの森かなぁ」
あそこに居たやんちゃな子供(?)となら仲良くやってけそうだし、生体系的には食べられそうな果実がありそうだからって言うのもあるけれども……
だけど、のどに小骨が引っ掛かった様な違和感というか、なんだか気持が悪い。その理由が分からないから気持ち悪いのか、思いだしたくないから気持ち悪いのか。本人にすら理解出来なかった。
「うん~……なんだったけ?」
結局思い出す事が出来なくて、ベッドから起きると窓から外を眺め始めた。この世界ではよくありそうな風景を目の前に、グッと背伸びをした。その景色の中で昨日ちらりと見た少年の姿を見つけた。
なんと言っただろうか?と考えるが聞いていないので分かる訳がない。だが、彼がどこへ行くのかが気になった恭介はこっそりと後をつける事にした。少しばかり興味が湧いたからだけではない。もっとなんとなくだが、他の所で彼が気になったのだ。別に恋愛感情の様なものではない。どちらかと言えば好奇心だろう。自分が手を加えず彼がどこまで行けるか。手を加えたらどれほど高みに登れるか。それが恭介がもっとも気になっている事だった。
どうやら、森の奥――いつも涼が訓練している場所である円形に開けた場所へ向かったようだった。
恭介の存在に気づく事無く、涼は木剣で素振りを始める。30分程で素振りを終えると、走り込みを始めた。
と、ここでやっと恭介は涼の前に姿を現す事にした。
「やっ、こんなところで何してんの?」
「はぅわ!?」
「そんな驚かなくてもいいだろうに」
失礼なヤツだなぁと愚痴る恭介を茫然と眺める涼に、木剣を投げ渡すと笑顔で言う。
「さっ、座り込んでないで、特訓しろよ。私も手伝ってやるから」
「え…でも、えーと」
「レアスだ」
「レアスさん、剣の扱いなんか…」
涼の言葉に恭介が意味深げな笑みを浮かべると、落ちていたそこそこの大きさの枝を手に取った。それを正眼に構え、ニヤリと笑う。
「甘く見んなよ?これでも強いからな」
「貴女こそ!僕をナメるなっ!」
どうでも良さ気に枝を振りまわしている恭介に向って木剣を振り上げ走る。
そのまま大きく踏み込み振るう。だが、恭介はそれを容易く避けると足を払い枝で涼の額を突いた。
「はい、ざんね~ん。私をナメた罰」
「くっ!?」
「でも、まだ伸びる余地はあるか」
顎に指を当てて考え込んだ恭介は、ニヤリと笑うと涼に問いかけた。天使の様な可愛らしい笑顔を浮かべた悪魔の笑み。
「君が望むなら、私が力を与えましょう」
「え?」
そう、甘い甘い悪魔の契約の様な物だ。
おはこんばんにちわ。熊海苔です。
やっとこさで、1話分できたのでうpしました。まだ、色々と忙し気味ですのでまた遅れるやもしれません。その際は、気長に「こいつ、受験がんばってんねんなー」って思って待ってやってくれればうれしく思います。
さて、今回の話ですが個人的に好きな弱っちいヒーロー君のお話です。前回、クウ達に反逆されちゃった恭介くんですが今後、数話の間このブツブツ形式で行かせて頂きます。これも私の策略です。というか、恭介くんにゃズンズンと落ち込んでもらわないといけないので、暗いお話を目指します(だいたい6話分くらい)
次回もへっぽこヒーロー涼くんと恭介くんのお話です。
あ、正義の味方とヒーローの重複は仕様ですので
それでは、次回お会いしましょう。