対特別分隊
更新が遅れてしまい、すいませんでした。
南へ行軍して行くと草原にレアール軍が軍勢を展開し、恭介達を迎え討つ姿勢だ。
「草原の丘に本陣を構えたか……ちと、キツイなぁ」
「確かに弓とか魔法を撃たれたら厄介ね」
「厄介で済みゃ恩の字なんだがな。確実に大損害が出るぞ」
ふむと、恭介は考え込んだ。鳥人部隊に上空から投石して貰うのもアリだ。
だが、相手に電撃系を使われると鳥人部隊の士気が落ちるだろう。更に現在は夕方と言う事もあり現在連れて来ている鳥人達では夜目が利かない。
結局の所、恭介が最初に突っ込んで、四季王で魔法を無効化する又は弓兵を遠距離から仕留める他手が浮かばなかった。
だからと言って亜矢やクウがそれを許さないだろうと言う事もなんとなく分かっている。だから、二人には秘密でいきなり突っ込む事にした。恭介が相手を掻き乱せば獣人達にも精神的に余裕が出来るだろう。
「しゃあねぇな。少数部隊を編成して囮に使おう。出来るだけ身軽な奴らを集めてくれ1小隊ほど」
クウは頷くとネコ科の獣人を集め出した。走力にも問題はない。問題があるとすれば…
「パンドラもがんばる~」
この中身幼女娘である。恭介がクウに両手を合わせて、こいつの面倒頼む!と必死に懇願するほどなのだから。おぉ、怖い怖い。
数分で部隊の編成が終わり。顔に緊張を張りつけた男たちが立っている。彼らの出陣の合図は亜矢が取る事になっている。少し不安があるが問題ないだろう。流石にこの場面では亜矢もふざけないだろうが。
実際、この獣人達に下された司令は軽く死ねと言われているようなものだ。恭介達アカーシャ軍の居る丘とレアールが本陣を置く丘の間は緩い傾斜で谷になっており鳥人や空を飛べる部隊以外だと一度丘を降り、また丘を登ると言うルートに絞られてしまう。数が居れば大楯を構えた一列目の後に弓兵を配置し丘をぐるりと囲み、締め上げる様な作戦もあるにはあるのだが、如何せん人員が足りない。アカーシャ大陸での戦闘でも少なくはない損害を被っている。
であるから、今回は動きの速い獣人達を先発部隊として送り込み、先に的を相手に与え大隊への損害を減らそうと言う苦渋の決断に踏み切ったのだ。(クウ達獣人側の首脳部での話だが)
クウの頷きを見た亜矢が頷き返し合図を叫ぶ。
「突撃ーっ!!」
亜矢の合図と共に全速力で丘を駆け降りていく男達に混ざりこっそりと恭介も丘を駆ける。右手に神魔刀を構え、コートの裾と白い髪を翻し駆け抜ける様は表情を抜きにすれば、まるで聖なる戦乙女だっただろう。だが、その表情は獲物を見つけた猛獣のそれだった。ニィッと吊りあがった唇の間からは歯が顔を覗かせている。丘の上でクウが何やら怒鳴っているが当の恭介はどこ吹く風といった様子で、男達を置き去るかのように恭介は更に加速した。
一人飛び出した恭介の姿に、先のウッドノースとの戦争の頃の恭介と姿が重なって見えたのか、明らかにレアール軍に動揺が走った。だが、指揮官の怒号が兵士達に冷静さを取り戻させ、弓や腕を構えさせた。
矢が、魔法が、恭介目掛けて放たれる。
恭介はそれに臆する態度など示さず、左手で自らの身体の前方の宙を薙いだ。いくつも現れた圧縮された空気が散弾の様に飛び散り、前方から襲い来る魔法を迎撃する。上から降る様に来る矢は左右への軽やかなステップで回避する。それは、ダンスを踊っているような自然な動きだ。その華麗な舞いに見入っている者も少なくはなかった。だが、その動きは徐々に緩慢なものになり避ける動作がなくなったように見える。
矢と魔法が恭介に殺到する。
誰もが当たると思われた攻撃が全て神魔刀の一振りにより斬り払われた。
「で?こんなもんか?虎の子のワイバーンはどうしたよ?えぇ?」
神魔刀を槍へ形態変化させバトンの様にクルクル回しながら悠然と歩みを進める。ワイバーン部隊は、ウッドノースとの時に恭介の手により壊滅させられている。あれからあまり時間が経っていない。しかも、ワイバーンの飼育は非常に困難でコストが掛かる。どうにか準備出来ていたとしても3頭が限度だ。寒冷地であるレアールでは麦や米、作物が育ちにくくワイバーンを育てるために必要な量の肉を用意しようとすれば国内で飢餓が発生する事は火を見るより明らかだ。その為に今回のこの戦闘でのワイバーン兵の数は、
「0ってわけだ。なら、」
ならば、
「今回の戦も、俺達の勝ちだ!」
先ほどまでと違い一気に丘を駆け上る。迫り来る魔法や矢をものともせず突き進む様はまさに一騎当千の猛者だろう。だが、恭介にとって1つだけ誤算があった。たった1つでも大きな誤算が、
頂上へ着いた恭介は槍右へ左へ振り回し敵兵を蹴散らしながら本陣へ向かおうとした。
だが、後ろから突然殺気が放たれた。ギリギリでしゃがみ真後ろから振るわれた剣の一撃を回避し、そのまま足を払った。
立ち上がり後ろに居た兵にトドメを刺そうとして恭介は舌打ちをしてさがった。
そこに居たのは胸に大きな風穴を開け死んでいた兵士だった。気付けば周りは動く死体ばかりで囲まれつつあった。
「こりゃ、ちょいとヤバめかもな…」
引き攣った笑いを浮かべて恭介は呟いた。
****
その頃、未だに向かいの丘の上で待機中のクラウド・ヴォルフ達血の気の多い勢はクウ達首脳部にお預けを言い渡され恭介の戦っているあたりを遠い目で眺めていた。
「なあ、ヴォルフ。あれちょっとヤバめだよな?斬られた奴が何事もなかったように立ち上がってるぞ」
「動く屍」
「アンデットか?そのうちアンデットドラゴンとか出てきたりするかもな」
冗談半分にクラウドが言ったのとアンデットワイバーンの咆哮が響き渡ったのは同時だった。
「笑う。無理」
「うっせ、期待してないからな!それでヴォルフ、準備は?」
無言で背負う大剣を見せる。それを見たクラウドがうしと頷く。
「独断になるが、お前らいいよな?」
クラウドの問いに、聞くくらいならさっさと戦わせろ!と男達が怒鳴り返す。その威勢の良さにニヤリと笑うと負けじと声を張り上げた。
「いいところを見せるチャンスだ!いいか?勇気と無謀を吐き違えるな。生き残ってこその栄光だ。いいな!?」
『おおぉおお!!!』
「俺に続けー!!」
刀を抜きながら走る。
「ヴォルフ!俺を上へ!」
それだけ言うとクラウドが跳びあがった。そして、その落下軌道の先はヴォルフの構える大剣の腹がある。そこへクラウドが乗るとヴォルフは投石機の様にクラウドを投げ飛ばした。空中でバランスを上手い事とりアンデットワイバーンの背中に見事着地を果たした。そのまま背を駆ける!刀に雷を纏わせ首へ振り下ろした。
首を断ち切られぐらりとその巨体が揺らいだ。クラウドはワイバーンが墜落する前にワイバーンを蹴りつけもう1頭の背中に飛び移った。今度は背中に刀を突き刺し、放電する。肉の焦げた臭いと気化した腐血が揺らぐワイバーンに掴まり着陸(墜落)した時の衝撃に耐える為、より深く刀を突き刺した。
轟音と共に土煙が舞い上がる。
その煙の中でゆらりと立ち上がるクラウドは左手で前髪を撫で上げた。着地した際に額を切ったのか血が出ている。未だにバチバチと火花を散らす刀の状態を見たところ、やる気満々のようだ。もうコイツが主人公でいいんじゃないだろうか?
と、丘の頂上に空を二分するかのような火柱が立ち上った。火柱をバックにゆっくりと歩くのは青筋を浮かべた恭介だ。左手が火柱をおっ立てたのか燻ぶる様に火が揺らいでいる。
「そろそろ決着が尽きそうだな」
「心配。損」
「まあな。てか、あいつブチギレてないか?」
「おそらく」
「気の毒に、指揮官は確実にアウトだな」
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顔は笑っているが口元が引きつっており怒っている事は誰でも分かるだろう。神魔刀を握る右手も力を入れ過ぎて若干震えている。その目の前には腰を抜かした指揮官らしき人物が無様に這いずって逃げようとして居た。
「おいおい。逃げるのか?自らが無理矢理動かした手勢を放置して?」
「ひっ…」
彼の後方には未だに武器を構え闘志が消えぬ連中が居る。ふと、神魔刀を指揮官に突きつけたまま視線をそちらへ巡らせる。とそこに見知った顔を見つけた。金属バット(剣)を正眼に構えている達也だ。今、最も恭介を恐れずに睨みつけている。内心、笑うと神魔刀を指揮官へ振り下ろした。
甲高い金属音が響く。
恭介の神魔刀の一撃を達也が受け止めたのだ。冷や汗を浮かべ歯を食いしばる達也に恭介は獰猛な笑みを向けたのだった。
このお話から大陸での戦闘の幕が開きます。
魔法が使えない獣人達で、どの様に戦闘を進めていくのか?と言う所で恭介くんに頼っちゃうのがダメなところ(主に私が)
もう少し、その手の資料は集めて読み漁るべきですね。反省点です。
次回の更新はリアルが忙しくなるので正確には決められませんが3月の中旬には更新出来ればと思います。
こんな自己満小説ですが、これからもよろしくお願いします。