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恭介くんの数奇な生活  作者: 熊海苔
第2章 新大陸侵攻
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漆黒の咆哮

 物凄いスピードで波を割りながら進む船があった。舳先にある龍の頭の上に片足を乗っけてエデンからパクッてきたグングニルを振りまわしている女の姿があった。無論の事そんな事をやっているのは恭介だ。いつも通りの深いスリット入りのスカートと締め上げブーツ、漆黒のホットパンツ&ロングコートその下には、なぜかいつもと違う少女趣味溢れるフリル物だった。それを見られたくない為かコートの前が閉じていた。

 そのうち、恭介の周りに他のヒト達が集まりだした。呼びだしたのは恭介自身だ。もっともこれからやる事は下手すると士気が下がりかねない。


「さて、みんなに集まって貰ったのはちょっと言いたい事があってね」


 振りまわしていたグングニルで甲板をドンッ!と立てると優しそうな目から鋭い獣的な目になり、にんまり笑って言い放った。


「いいか!野郎共!これまで『名無し』って名乗っていたが、・・の名は恭介だ!これまでは言えない理由があったがこれからは関係ねぇ!」

「うぉーー!!」

「そこでだ。まずは向こうの大陸の北東部にあるレアールに殴り込みをかける。いいか?あいつらは魔法を主軸に戦ってくる。だから、キャンセラーを張るがそれだって完全じゃねぇ。だから、こいつを作っといた」


 ガラガラガラッ!!


 金属同士がぶつかり合う音を立てて転がり出たのは両刃の剣、鍔の部分には半透明の紅い宝珠。恭介自身がレジュグリアスの力を活用して作られた準神器“フェンリル”特殊な能力としてはマジックキャンセラー及び獣人しか使用できないよう設定してある。それを各々が持ち上げ始める中、恭介はククルスの元へと歩いて行った。


「ククルス、ちょっといいか?」

「なんですの?」

「レヴァーテンをくれないか?」

「申し訳ありません。恭介様の頼み事でもそれは流石に無理ですわ」

「この紅龍を代わりに用意したんだが、ダメか?」

「ッ!?」


 恭介が取り出した刀を見てククルスの尻尾が左右に千切れんばかりに振られる。目も爛々と輝いていたが、ハッとするとわざとらしく咳をして憮然とした態度になった。そんな彼女の様子を見て恭介は素直じゃないなぁ、なんて思いながらもう一押ししてみることにした。


「ククルスなら受け入れてくれると思っていたんだがな…」

「わ、分かりましたわ。どうぞ」

「サンキュ」


 渡されたレヴァーテンの代わりに金の装飾が施された刀を渡す。渡された紅龍を鞘からスラリと抜くと日の光を浴びて輝く紅い刀身があった。魔力を流していない状態でもその刀身からは陽炎が揺らいでいた。炎の化身とも言えるような代物にククルスの瞳は自然と楽しげな物となっていた。

 刃を鞘にしまうとレヴァーテンを渡した恭介の方を見る。彼はいつの間にか取り出した神魔刀・炎魔とレヴァーテンを合わせていた。パッと二振りの魔刀が輝くとレヴァーテンはなく少し装飾が変貌した神魔刀があるだけだった。


「さてと、来たな……」

「え?」

「頭ぁ!!前方から光が!!」

「だろうねぇ…よっと」


 一瞬で海面に着地すると右腕を前方へ構える。すると五重に呪文が書かれた魔法陣が展開される。が、悲鳴の様な咆哮をあげる黒い光が接触した瞬間、恭介は目を見張る結果となる。魔法陣の端がボロボロと崩れ始めたのだ。


「チッ…なんつーもん使いやがんだよ。おい」


 目を鋭く細めると魔法陣の外側に呪文が追記されていく。ある程度まで書き込むと圧縮、更に書き込み圧縮を行い、現在は読むのが億劫になるほどびっしりと呪文の書かれた代物になっていた。一番端っこの呪文でさえ単行本の文字サイズである。しかも船をも凌ぐサイズでだ。


「ハッ…この程度か」


 光が消えると同時に魔法陣を消滅させると左手に持っていたグングニルを右手に持ち換え投擲する体勢となる。グングニルの表面に魔術式を張り固めると同時に左手に出現するのは見た目が凄く貧相な槍。見た目と性能は比例しないいい例であるロンギヌスだ。

 ロンギヌスへも魔術式を張り巡らせると同時にグングニルを投擲した。うなりをあげ飛んで行くグングニルの後を追うようにロンギヌスを投げる。船の上へ戻ると大声で鳥人に呼びかけた。


「ロープで自分の身体を固定してから帆に向かって風を送ってくれ!速度を上げるぞ!亜矢!魔術で風を!」

「分かった!ナンナ、やるよー」

(あいな。暇していたんじゃ。少々本気を出させてもらおうかのぅ)


 ひょいと亜矢の肩の上に飛び乗ると突風が吹き船の速度が徐々に上がっていく。ある程度勢いに乗ると魚人も船に載せ風の勢いが増す。また正面から黒い光が来てもいいように舳先に立っている。その後ろには光を解析するため亜矢とナンナが備えている。

 数分経つと恭介の視線が鋭くなった。前方から光点が近づいてくる。


「亜矢とナンナ、解析の方は頼んだぜ?」

「まかせなさーい」

(心配するでない。曲がりなりにも神なんじゃ)

「応、分かってるよ」


 黒い光との距離が後10mのところで恭介は無詠唱で幾重にも呪文の刻まれた魔方陣を展開する。甲高い音と共に衝突するが、船のスピードは変わらず突き進む。黒い光は先ほどよりも威力を増していたのか。魔法陣と対消滅をした。恭介の後で解析をしていた亜矢の方を振り向くと亜矢の顔は真っ青になっていた。


「うそ……」

「? どうした?」

「あの光で5人、さっきので3人」

「だから、なんだよ?分かるように言ってくれ!!」

「……生贄を使って撃ってるよ。あれ」


 亜矢の言葉に恭介は奥歯をぎりぎりと鳴らす。殺気の籠った瞳でレアールのある方角を睨みつけた。両手にはいつの間にか投じたはずの神槍が二本が握られている。グングニルとロンギヌスを左手に持つと右手に神魔刀を出現させる。すらりと抜き放ち二本の神槍を神魔の刃に突き立てた。溶けるように混ざり合いそれは姿を現した。禍々しくも神々しい光を放つ、神魔の刀の新たな力。


「神と魔の相対する力が合わさるとどうなると思う?」

「――反発しあって無に帰る?」

「いいや、神をも凌駕する力になる。俺の仲間に害なす者くらいは屠るさ」


 怒り心頭の様子で呟く恭介は亜矢からレアールへと視線を戻す。次第に大陸の裾がお目見えした。大きな口を開けた黒塊がある、その下にはあまりにも質素な服を着た男女が十数名と鎧を着込んだ兵士が5名が立っていた。奴隷のような男女の周りの魔法陣が深紅に光り出す。

 勝負は一瞬、生命力を吸いだそうとした瞬間に神魔の槍で黒塊を穿つ。それだけだ。


 構えた恭介の瞳は虹色の色彩を放っていた。

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