恭介の本気と裏武器屋
レジュグリアスを武器の時はそのまま、喋ったり人型で出てきた時はレアスにしてあります。
ある日の事、朝の見回りをしていた馬の獣人部隊から連絡が入った。その連絡を聞き、恭介を除く戦闘部隊が先行、恭介は護りの居なくなった根城に強力な拠点防衛結界を張り出撃した。
恭介は飛んだ。比喩的なものではない。天女の様な衣を身に纏い空を風の様に大空を駆ける。眼下に広がる森が緑一色に見える程の速度で
「見えた。到達までの時間は?」
《二十秒で上空へ到達。直線距離で二千》
「分かった。突っ込むから衝撃吸収をお願い」
《承知しました》
レアスの言葉を受け、腰に帯びている四季王を抜き構えに入る。仲間は三名、うち一名負傷、よって使用するのは自然と紅葉と氷雪は省かれる。残るは桜花と蒼水と無銘だ。更に周りに特殊な効果を与えないとなると、
「四季王・無――無銘」
業物を越える業物の刃を持つ形態、他の四季には特殊効果と刀身が光っていたが無銘は効果も光る事もないが切れ味のみは五つの型の中で最強の部類を誇る。無銘を脇に構えスピードを上げる。ブーツも強化してあり現在は鋼をも凌ぐ耐久性を持つだろう。
「逃げたらどうだ。坊主!」
「ぐぅ!?」
「もうギブアップか?情けな…」
最後まで喋る前に轟音とともに砂埃が舞う。その中でゆらりと人影が立ち上がった瞬間、青年の剣に加わっていた剛力が消え目の前の男が崩れ落ちた。徐々に晴れる砂埃の中見た姿に青年は目を見開いた。白い髪、優しげだが意思の強そうな燃える様に紅い瞳、天女の羽衣と白銀に輝く刀身を持つ刀
「女神…様?」
「そう言われるのは初めてだなぁ。私は貴方の居る側の頭なんだけど…見た事なかった?」
「は、はい。初めてです」
「まあ、とりあえず本拠地に連れてくから舌噛まないようにね」
恭介は青年を抱え上げ空に舞い上がった。かなりの高さまで上がった事に驚いたのか青年はポカーンとしていたがハッと高さを思い出し縮こまった。その姿にクスリと笑った後、行きの半分のスピードで戻り、また前線へ向かった。
戦場へ近付く程、鉄臭い臭いが増していく。血の臭い。鋼鉄同士の衝突音、悲鳴、雄叫び。下へ視線を向けると血で血を洗う凄惨な光景が広がる。幻想曲を使うか迷ったものの制御出来るようになったとは言え、ただ止められるだけである事を思い出し、四季王を抜く。
「四季王・冬――氷雪」
薄い青に輝き温度を感じない雪を戦場に降らせる。これまでの戦闘で把握した事は敵は魔法を使う事によってこちらと渡り合っているが、こちらは魔法と言えば武器にエンチャントするぐらいにしか使用していなく、身体能力のみで戦っていると言う事だ。四季王・氷雪の能力はマジックジャマー――ようは魔法無効化だ。三国の有効札を潰される訳だから必然と形勢は恭介側獣人へと傾く。
「レアス」
《なんでしょう》
「あれは何発いける?」
《二回が限界でしょう。三回目は何が発生するか不明の為、危険と判断します》
「上等!それじゃあ、付き合って貰うぞ!」
《綺麗に咲かせてください死の花を》
上空に魔法壁を展開、そこへ四季王を突き刺す。これで、魔法壁が消えるまで魔法無効化の雪が降るだろう。羽衣を闇と光の巨剣へと変え、自由落下でスピードを上げていく。目指す場所は一点、仲間達が攻めきれていない敵のど真ん中、千人長らしき人物付近、レジュグリアスを大上段に振りかぶり更に身体を反らせる。
《あと四秒》
レジュグリアスへ力を溜める。
《四十、あと二秒》
バネの様に筋肉を使い、思いっ切り振り下ろす。
《百、砕神》
千人長を馬ごと叩き斬る。地面に刃が刺さった瞬間、四方に亀裂が走った。
《「ヴォルカニック」》
掛け声とともに亀裂から炎の奔流が噴き出す。奔流に巻き込まれた兵士達は地面をのたうちまわるが身体に灯った青い炎は消える事なくその身を焼き焦がす。そこには恭介を中心として直径十数mの黒い円が出来上がっていた。
突然の出来事に敵味方共に一瞬呆然としたが、アカーシャ側の怒号を発しながら突っ込んで来る姿で我に帰った。が時既に遅く、形勢は巻き返しつつある。
三国軍――今回はレアールだが、前線指揮官を早々に潰され指揮系統が混乱した事、魔法に頼りすぎた事、尚且つ攻める時期を読み間違えた事が敗因と言えるだろう。
《八十》
尚も形勢逆転を狙って奮闘するレアール軍の中央でレアスの無機質な声が響く。
《百、覇神》
レジュグリアスを逆手に持ち地面へ突き刺す。
《「アブソリュート・ゼロ」》
逃げようとする兵士達の足を氷の杭が貫く。地面を血で赤く染め上げるも、その血まで凍らせ華を咲かせる。レアールの背後には海原が広がっており、浜には大型の運搬船が停泊している。全員がその数隻の船へと集まって行っている。氷に捕われた仲間を見捨てて…だが一人仲間を救う為に剣の柄頭で必死に氷を割ろうとしている。
その姿をじっと見ていた恭介だったが、周りに聞こえない程度の溜息の後、指を鳴らした。捕われていた兵士達はポカーンとしたが足の氷の華が消えている事に気付いた。
「早く行け。死にたくないんだろう?」
「ヒッ…」
逃げて行く兵士を憮然と見送ると巨剣が女の姿になる。その場でグッと背伸びをすると恭介の方を見て溜息をついた。溜息を吐かれて恭介はむすっとしたが報告を受ける。
《自軍の被害は軽微です。ですが、貯蓄の残り数量に不安を覚えます。ですので食料調達及び武器の調達を優先すべきです》
「分かった。全員聞こえる?」
『おぉおおおお!!!』
「よし。レアスの言うとおりこちらにはバックが居ないのは分かってると思うけど、そうすると備蓄がなくなります。なので、魚人のみんなは魚を。獣人及びエルフをはじめとする精霊族のみんなは森の中から食べれる物の調達!いい?私は武器の調達に行くから、じゃあ解散!」
声をかけると共に、亜矢が黒衣を翻し女の元へと走ってきた。
「恭介、少しいい?」
「どうかした?」
「あたしも同行していいかな?」
「別にいいけど…、来てどうするの?」
「いや…まあ、社会見学みたいな感じ」
「この情勢下で呑気なことですなぁ。対魔法隊長殿?」
「その肩書きやめてくんない?厨二っぽい」
「それが厨二だったら『黒銀の鬼神』だの『血濡れの悪魔』はどうなるのさ…」
「まあ、それは置いといてさ。いい?」
「分かった、分かった。じゃあ行こうか」
亜矢が開かれた魔導書のページを指でトンと叩くと二人の足元に魔法陣が現れた。二人を包むように輝くと次の瞬間には二人はその場から消えていた。
――――
「それで?どこに調達しに行くの?」
「ああ、あそこ」
恭介の指さす先にあった物はどう見たって洞窟だった。完璧な程に洞窟、どこから見ても…そこへ向かってどんどん進んで行く。その後ろを不安そーについて行く亜矢は次の瞬間には自らの目を疑った。恭介が洞窟の入り口に差し掛かった途端、姿が消えた。亜矢はギョッとしたが何もない空間から首をひょっこり出して恭介が急かすとおっかなびっくり入ってきた。
「すご……」
「だろう?しかもここをやってるヒトがヒトだからな」
「いらっしゃいませ。本日は何をお探しで」
無表情でさらに平坦な声のコンボをくらって亜矢は眉間を押さえた。茶色い髪を短く刈り込み髭を生やした厳つい大男がドレスを着て鈴の音のような声で喋ったら誰だって驚くだろう。恭介自身も一番最初にここへ訪れた時は目が点になった。
「いつものを頼むよ」
「畏まりました。前回ご注文頂いた物が出来ておりますのでどうなされますか」
「あ~、もう完成したんだ。じゃあ、それも受け取るよ」
「では、少々お待ちしやがってください」
「うん」
笑顔で頷く恭介と口元が若干引きつっている亜矢。それを見た恭介は店の奥へと声をかけた。
「店長ー!また口調おかしくなってるよー」
「うっさい!こちとら忙しいんだ!今やってる仕事は全部あんたのなんだからね」
「そりゃありがたいけどさー。そのうち中の子出てきちゃうよ?」
「それはいやだね……ほら、頼まれてたものだよ」
「サンキュ、じゃあ入れて帰るね」
「おう、また来な」
奥のドアから出てきたのはぶかぶかの帽子を被った少女だった。片手にはトランク、その容姿を見て亜矢はぼそりと零した。
「子供?」
「誰がなんだって?」
「あ、いやこれで失礼するね。行こう亜矢」
「うぇ?わっとっとっと」
店から亜矢を引っ張りだす。あそこにこれ以上居たら確実に店長からのお説教を頂けるからだ。ちなみに店長はもう大人で絶賛恋人募集中だったりする。
「さてと、レアス」
《なんでしょう》
「これに入れてくれ」
《本当にやるんですか?》
「もちろん」
《分かりました。ではお二人ともこちらを見ないでくださいね》
恭介と亜矢が背を向けると同時に後ろから生々しい音が聞こえてくるのを冷や汗を滝の様に流しながら待っていた。しばらくすると音が止み肌が艶々したレアスが呼びかけた。
「恭介、あたし気持ち悪い」
「気持ちは分かるが少し待ってくれ」
《完璧な出来です。期待していてください》
「パンドラ、起きろ」
恭介が言うとトランクは輝きだした。