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恭介くんの数奇な生活  作者: 熊海苔
第2章 新大陸侵攻
47/65

4 名無し――出来事

 女とその仲間がどのように邂逅していったか…?ここで語ろうと思う。何故か?それはまだ邂逅の際の事を記していないからだ。

 もっとも一番知って頂きたいのは、アカーシャが何故三国から侵略を受けているかの理由である。


 8日程遡る。


「ここは?」


 少年は何もないただ色々な色がグチャグチャに混ぜ合わせていっているような空間に居た。


「お前に命を与えましょう」


 突然声が響く。語るように

 詠むように


「その命で絶望し壊れなさい。希望を失い嘆きなさい。大切な物を失い狂いなさい」


 少年が耳を塞いでも声は響く。まるで頭に直接入るように


「貴方は罪人、この世界を混沌とした物に変えた張本人。だから、生きて償いなさい。自らの叫びで嘆きで悲しみで」


 少年がどれだけ拒もうが声は響く脳に


「これで貴女・・・の償いが始まる」


 そう声が締め括った瞬間、世界が変わり、色がついた。

 そこは森の中、小鳥が囀り、獣の遠吠えが響く普通の森

 唯一違うのは目の前に広がる光景

 周りの木よりも数倍太い木の傍にある物体。

 異常だった。それは地面から蔓の様なタコの足の様な物を少年―――いや、女に向かって伸ばし巻き付けた。


「これが償いか……ゲスが考える様な事だ」


 伸ばされた足によって女は容器の様な物に入れられ液体を注がれた。


****


 1日経ったある日、刀を携えた黒い尻尾の男が傍を通りかかった。男は異様な雰囲気に刀に手を架け周りを見回す。

 するとそこには容器の様な物に入れられた女がいた。全身を液体の様な物に浸された。

 それを見た後の男の行動は早かった。自らの刀の腹に手を当て何かを呟く。すると刀からバチバチッと何かが爆ぜるような音が響く。瞬間、男は足を切り裂いて行く。あたりに何かが焦げたような臭いが漂う。

 その男を女は少し目を見開き見ていた。


――――


 ほんの少しの時間で男は足を全て切り払っていた。

 乱れた息を整えると容器を縦に切り裂いた。

 液体が流れ出ると同時に女も出て来た。全裸で


「おい!大丈夫か!」

「大丈夫……聞こえてる。何か羽織る物貸してくれる?」


その言葉に男が羽織っていたマントを貸そうと脱ぐが思い止まる。


「? 早く貸して」

「とりあえず、これを触ってみろ」


 言われた通り女が布を触ると布が溶けてしまった。


「え?」

「ついて来い。傍に川があるから、そこでそれを流してこい。周りは俺が見張っておく」

「えっと…名前は?」

「俺はクラウドだ」

「わかった。よろしくねクラウド」


 女は微笑むと川へ入っていった。

 周りを見回して身体を洗う物がないか探すが見つからなかった。


「…手しかないかぁ」


 女は落胆の声を上げるといそいそと洗い始めた。


 一方クラウドはと言うと―――


 木に頭突きをしまくっていた。


(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!人って掌に書いて飲み込んだら、世界はハッピーだ!)


 頭突きをやめる。


「よし、クールに!クールにいこう」


 数分後


「クラウドー?どこー?」


 女は全裸でクラウドを探していた。


「どうし……」

「? どうかした?マント貸して」

「あ、ああ……」

「本当にどうかした?顔赤いよ」

「いや、大丈夫だ。そうだ、名前は?」

「ない…から、名無しでいいよ」


 クラウドの様子に首を傾げながら女は渡してきたマントを羽織り、前を完全に閉じた。


「さてと……名無し、金は持ってるか?」

「持ってると御思いで?この通り、服もないんだよ?」

「そうだったな。……マントだけで変な騒ぎを立てられると困るから、俺の予備の旅装束でも着てくれ」

「うん」


 クラウドが荷袋から服を取り出すと女はクラウドの目の前で着替え始めた。

 クラウドの中で女は痴女の烙印が押された。

 本人としてはかなり不本意だろう。

 まあ、その姿をチラチラ見るクラウドはクラウドである。男の悲しき性だ。


「袖が余った……」

「ほら、行くぞ」

「あっ、ちょっと待ってよ!」


 女を置いていくようにクラウドは早歩きで歩き始めた。クラウドに追いつくと女は意地悪そうな顔をしてクラウドに言った。


「さっき、私の着替えずっとチラ見してたでしょ?」


 女が言った瞬間黒い尻尾がピンッと伸びる。


「んなっ!?」

「実は試させてもらったんだよ、あの状況をおいしい物と考えて襲ってくるか。そのまま、周りの警戒に当たってたかね」

「ぐぅ…」

「まっ、チラ見してたようだけど周りに意識してたみたいだし信用するよ」

「……この事はアリーにだけは絶対に言わないでくれ」

「アリー?」

「ああ、知られたら俺が殺される」

「ん~?……あ~ヤンデレちゃんなんだ」

「ヤン…なんだって?」

「あ~気にしないでこっちの話」


 それから無言で歩みを進める二人。周りに響くのは二人の足音と動物達の鳴き声や水のせせらぎのみだ。

 歩く事約十分

 街が見えてきた。


「ここで服を見繕うとするか」

「………あそこがいい」

「あそこ?あ゛ぁ!?」


 女が指差したのは結構な値段の店だった。


「おまっ、自分の立場分かってんのか!?」

「じゃあ、アリーって子に教える」

「ぐぅ……分かった。ただし一着だけだ」

「何を当たり前の事を」


 女はクラウドの一着しか買うなという一言に飽きれ顔で答えた。

 それにクラウドは更に飽きれ顔になったが女はそれを気にせず店へ入っていった。


「上は……これとこれ」

「ほう、そこまで高くないな」

「で、下がこれとこれとこれ」

「お客様、お探しの物は見つかったでしょうか?」

「はい。もう少しで選び終わるので大丈夫です」


 話し掛けてきた店員に笑顔で返す女、店員の顔が赤いのは気のせいではない。


「んじゃ、あとこれで」

「285ゴールドです」

「んなっ!?………」


 また、クラウドの黒い尻尾がピンッと伸びる。

 渋々払ったクラウドだったが女に怨みが篭った視線を送っている。


「俺を破産させる気か?」

「甲斐性も男の魅力だよ」

「何を言っている?そんな言葉ないぞ」

「嘘も方便、少しの嘘が人間関係のよき潤滑油になるんですよ」


 のらりくらりとクラウドの言及を避ける。


「まあいい。ここら辺でお別れだ。達者でな」

「うん、バイバ~イ」


 これが女とクラウドの邂逅である。アリーはその後4日後に出会っている。



 さて、続いてクウとの邂逅だ。

 彼女とはクラウドと別れてから結構すぐに出会っている。




                    ◇





 女がクラウドと別れて3時間ほど経った。今現在、北へ向かっている。

 なぜなら、先ほど居た街は大きいもののこの国の王都ではないからだ。


「ここは森が多いな………」


 こんな事になっているのはあの変な声のせいなのか?と考えながら女が歩いていると、前方に集団が見えた。

 何をしているのか気になった女は集団へ近づいた。


「今回も大量ですね。隊長」

「そうだな。アカーシャ大陸の女は上玉が多いから貴族共に高く売れるぞ。それにほかの部隊は掘削作業を行っている。我々は女共を集めるぞ」

「愛玩用ですね?」


 兵士の一人が部隊長に分かりきった事を聞く。

 女は、またかぁなどと思いながら相手の人数を見る。馬車の前に二人また左右後ろに二人ずつ、8人だ。先程の会話が正しければあの馬車の中に奴隷扱いの人達が居るのだろう。

 その人達を性処理の道具に使おうと考えている貴族や兵士を思い浮かべた女は


「やっぱ、腐ってる」


 吐き捨てるように呟いた。正直、今あいつらをどうにかする力が自分にあるか分からない女は手が震えていた。もしなくて出て行ったら自分自身も奴隷の仲間入りである。

 考え込んでいる間に女は小枝を踏み折って音を立ててしまった。


「誰だ!?」

「あ~あ、やっちゃった。もう蹴散らすか奴隷人生しかないじゃん」


 観念して茂みから出る。すると兵士達から感嘆の声が上がった。


「隊長。今日一番の女ですよ」

「ああ、こりゃ高く売れる」

「あ~……悪いんだけど、その馬車の中の人達を解放してくれない?」

「無理言いなさんな。べっぴんさん、あんたにも来てもらおうか」


 部隊長がそう言った瞬間、兵士達が粉末を散布した。


「はぁ……どうせ、媚薬か痺れ薬でしょ?」


 平然と粉末を吸い込む。

 吸った瞬間、状態異常を解く魔法を呟く。

 すると簡単に解けてしまう。

 けれど、掛かっているフリをする。

 すると兵士が近付いて来た。タイミングを計る。早過ぎても遅過ぎても作戦がパーになるだろう。


「ほら立……」

「ふっ!」


 立ち上がりざまに鳩尾に一発入れる。

 いきなり、仲間の1人潰された事に気が付いた他の兵士が剣を引き抜きながら女に走っていく。

 どうするか迷っていると声が響いた。


『ここで死んでもらったら困る。ゆえに武器を与えよう。死ぬなよ?そうそう、失敗作も使えるぞ』

「武器?」


 女が呟いた瞬間、手の中にズシリとした感覚


「刀か……」

「死ね!」


 兵士が剣を上段から振り抜く。女はそれを手の中に現れた刀を納刀したままで捌く。


「ッ!」

「ガッ!?」


 兵士が抜けて行く際に女が捌いた勢いに遠心力を加えて腹部を薙ぐ。

 更に一歩踏み込み胸部のプレートアーマーごと突く。あと5人


「そろそろ降参してくれませんか?…」

「くっ……全員!槍を構えろ!」

「「はっ!」」


 全員が馬車に吊り下がっていた槍を持ち女に向けて構える。


「何と言うか…卑怯だなぁ」


 女が鞘から刀を抜く。


ガリガリガリ!


 引き抜いた刀の刀身がボロボロだった。


「あら?」

「かかれ!」

「うぇ!?ちょっ!?どうしろって言うの!?」


 鞘に入れなおし、最低限の動きで槍を避けつつ打ち込んで行く。


「よっと」


 上と右斜め下から二振り


「がっ!?」

「ぐぅ…」

「あと3人!」


 溜めを作っていた兵士の顎をカチ上げる。

 更に接近、頭を掴みバク宙、勢いで無理矢理投げ飛ばす。投げられた兵士は木にぶつかり白目を剥いて倒れた。


「最後の一人ですけどどうします?」

「くっ……」


 部隊長とおぼしき兵士は、苦々しげな顔をして逃げていった。


「忘れ物ありますから取りに来てくださいね~」


 のびている兵士達を縛り上げ地面に転がす。


「さてと……中に居る人達は無事かな」


 馬車の布を開いて中を覗く。


「グスッ…グスッ…」

「手遅れだったか……」


 中では髪が山吹色の少女が一人、泣いていた。周りに居る他の女性、少女達はその少女を慰めている。

 馬車の中を見回すと一際厳重に縛られた少女が居た


「ちょっとゴメンね」


 周りの人達を掻き分けて少女の元へ行く。

 その少女は薄い水色の髪に青い瞳の美しい少女だった。しかし今は酷く汚れていた。女は少女が噛まされていたさるぐつわを外した。


「怪我は?」

「そんな事よりあんたは誰?」

「名もなき善人。怪我はないの?あるの?」

「あの子以外無事よ」

「やっぱり初めて取られちゃった?」


 無言で頷く水色髪の少女


「そう……出来れば貴女の名前を教えてほしいのだけれど…」

「クウ。セカンドネームは無いわ」

「うん、わかった。クウ、全員に伝えて、近くに人の来ない川があるから水浴びしてって」

「あんたはどうするの?」

「こんな状況じゃ馬車で移動するしかないじゃない?だから手綱を引く」


 女は言ってからすぐに馬車を進めた。

 しばらく馬車に揺られる事1時間ほど女も入った川に到着した。


「クウ。どう?皆水浴びしてくれる?」

「あの子以外するって。まあ、あんな事あった後じゃ無理ないわよ」

「そうか…見張りしてるから浴びてきて」

「わかったわ」


 クウ達は少女と女を残して川へ向かった。


(さてと、女の子を元気づけなきゃな)

「隣いい?」

「あ…はい……」

「ゴメンね。私がもっと早く見付けていれば」

「そ、そんなっ、お姉さんは依頼を受けた訳じゃないんですよね」

「まあ、ね。でもさ、この大陸の情勢さえ分かってればって思うとね」

「いえ!だから、お姉さんのせいじゃ……!?」


 女は少女を押し倒し下腹部に手をあてた。


「え!?あっ、ちょっ!?」

「…彼女に神の加護を、彼女に慈愛を……彼女の心を体を癒してください」


 女がそう呟くと女の手が淡く仄かに光った。


「うん、これで大丈夫。こんな事しか出来なくてゴメンね」

「えっと…何をしたんですか?」

「ん~……浄化魔法的な何か?」

「何で疑問形なんですか?」

「まあ、気にしないで、とりあえず妊娠とかの心配はなくしておいたからね。君も皆と一緒に水浴びしてきなよ。ね?」


 女が少女を促すと少女はしぶしぶながら川へ向かった。

 それを見届けた女は刀を持ち鞘から引き抜いた。


ガリガリガリ!


「なんで刀身がこんなにもボロボロなんだろう?これじゃ刃物として使えない」


 しばしの思考、そして刀をしまい瞑想し始める。

 そして、ゆっくり目を開いて刀を抜く。するとどうだろう?


「やっぱり、思ったとおりか……」


 女の掌の中には刀身を桜色に輝かせた刀と周りに舞い散る花びら


「桜の花びら?」

「わ~!お姉さん。これなんですか?」

「ラウスの花ね」

「ラウスの花?何それ?」


 水浴びから帰ってきたクウに小馬鹿にするような表情で見られて女はムスッとした顔で見返す。

 それから女は刀を鞘にしまうとクウと向き合った。


「知らない物はしょうがないじゃない」

「まあ、いいわ。ラウスって言うのは春先に咲く花よ」


 女はヘェ~と関心しながら他の人たちが戻ってくるのを待つ。

 待つ事5分、全員が帰ってきた。


「おかえり。気分はどう?」

「結構よくなったわ」

「それはよかった」


 微笑み返しながら、馬車の準備を始める。中に落ち葉を敷き詰めクッション代りにした。少しでも彼女達の疲労が薄れるようにと、全員が乗り込んだ後馬を歩ませる。

 馬は快調にパカパカと歩く。従者席で心地よい風を受けながらゆっくりと進む。すると、幕を押し上げクウが顔を覗かせた。


「ねえ」

「どうかした?」

「アタシ達とここの解放をしない?」

「攻めてきてるのを倒すって事だよね?私が?」

「あんたなら頼めそうだったからね。どう?」

「別にいいけど…」

「そう!なら、決定だからね!いい?忘れないでよね!」


 この会話を機に現在の戦闘及び大陸民保護の名無しの女を筆頭とする解放軍が指揮される事となった。

要するにアカーシャの扱いは資源が豊富で美人さんが多いから侵略を受けているわけです。鉄とか金銀、石炭などですね。レアメタルに関しては近代的な物を作っているわけではないので発掘しても捨ててます。

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