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恭介くんの数奇な生活  作者: 熊海苔
第2章 新大陸侵攻
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プロローグ2 血濡れの乱舞

 そこは戦場だった。矢が飛び交い魔法が飛ぶ、悲鳴と気合の声、様々な物が入り乱れる戦場

 その一角で建物に向かって走る姿があった。後方からは火の魔法が迫っている。


「跳ぶよ!」

「キャッ」


 爆発を避ける為に前方の扉に飛び込む。二人が入った瞬間、扉が閉まった。爆発を避ける事が出来、安心したのか薄い水色の髪青い瞳の少女はその場にへたり込んでしまった。腰が抜けたのだろう。


「大丈夫…?」

「う、うるさい!腰が抜けただけよ!」

「うん、手を貸すよ?」

「……」


 白髪紅眼の女が手を出すと青い瞳の少女は無言で恥ずかしそうに手を掴む。それに白髪の女は微笑んで引っ張り起こした。

 その笑顔をみた少女はムッとして


「なに笑ってるの?」

「ふふっ……何でもないから気にしないで」

「気になるわよ!アタシを笑ってるんでしょ!?腰を抜かしたアタシを!」

「貴女の事を笑ってたのは合ってるけど、ただ私の手を握る時の真っ赤な顔が可愛かったなぁって思って」

「なっ、ななな、何を言ってるの!?か、かかか、可愛いだなんて!?」

「あ~可愛いなぁ」


 ここまでで分かる通り外見上は女である。が中身は男なのだ。彼が女にされた経緯はまた別の話である。


「さてと、しんがりは任せて。ここは私が抑えるから。全力で」

「待ちなさいよ。あんた自分の今の立場わかってる?」

「そんなのどうでもいいよ。今こっちの兵が退却中、あの軍勢を抑えられるのは私だけ。クラウドもヴォルフもアリーも撤退中の兵を護衛中だしね。クウは4人を追って?いいね?」

「でもっ……」

「あと巻き込みたくないし私の戦闘に」


 その言葉にクウは青くなって走って行った。あれで納得されたせいか女は苦笑して見送った。


「それじゃあ……」


 女は顔を右手で隠した。そして


「殺し合いの始まりだ」


 手を下ろすと唇を吊り上げて、走り出す。

 敵の兵士は相手が一人という理由で女を甘く見ていた。


「砕けろ」


 女がそう言った途端、側にいた兵士が砕け散った。女の戦い方はまるで秩序がなく、蹴り飛ばしたり、もぎ取ったりと、まるで喧嘩の延長線上の様な感じだった。


「怯むな!敵は一人だ。囲んで槍で突け!」

「はははっ!溶けろ」

「ぎゃぁあ!腕が!腕がぁあ!」


 最前列の兵士達から激痛による悲鳴が上がる。

 その中心に居る女は悲鳴が上がるたびに無表情に変わってゆく。

 だが、殺戮は逆に激しくなる。

 腕をへし折り、頭を踏み潰し、胸を貫いていく。


「ははっ、どうした?そんなもんか?」

「ひっ……全軍に通達、一斉にヤツへ魔法を放て!」

「魔法か……懐かしいな。そんなものなんかで私をどうするつもり?」

「うっ、撃て!撃てぇー!!」


 女に向かって魔法を放った瞬間、女は笑った。


「貫け、穿て」


 地面から魔法の火や冷気に向かって何かが飛ぶ。

 次の瞬間、兵士達に雨が降ってきた。赤い雨

 その雨は兵士達を貫き始めた。先ほどまでの接近戦で既に返り血によって赤黒く染まっていた女の服を更に濃く染め上げていく。

 女が周りを見渡し、誰も立って居ないのを確認すると、また顔を手で覆い手を下ろすと戦闘が始まる前の表情に戻っていた。


「さて、みんなを追わなきゃ」


 全身を敵の返り血で染めた女は一瞬で消えた。


****


 その頃、撤退を完了させた。クウ、クラウド達は根城で怪我人の処置に追われていた。


「アリー!そいつを頼む!手が足りねぇんだ」

「わ、わかった」

「ヴォルフ!」

「頑張って、る」

「あんたは何もしないで隅っこで待ってなさい!」

「わかった。端に、居る」


 クウに戦力外通達を受けたヴォルフはしょんぼりした雰囲気で端に居たが少し経つと外へ向かった。


「…おかえり」

「うん、ただいま。ヴォルフ」


 全身を血で染め上げた女は、向かえてくれたヴォルフに微笑むと中へ入って行った。


「おまっ、せっかく俺が買ってやったのになんでそうなるんだよ!?」

「ははは、大丈夫。ちゃんと表面加工してあるからね。私なんかよりクラウドはアリーを何とかした方がいいと思うよ?」

「げっ、そ、それがなアリー、こいつに会ったというか見つけた時にこいつ服を着てなかったんだよ」

「うん、まあ、魔物に破かれてたからね」

「んで、何にも着ないのはヤバいな~と思って買ってやっただけだ」

「でも、僕には買ってくれないじゃないか。僕よりそんな女がいいの?僕が居るのに!?」

「う~ん……まあ、向こうでイチャついてね?アリー、熱愛なのはわかったし、お似合いだよ」

「お似合い……ふふふ、行こうクラウド」

「あっ、おい!クソッ、名無し!覚えてろよ?!」


 と、熱愛のカップルがどこかへ消えると止まっていた応急処置の作業のペースが上がった。それを見た女は少し笑うと奥へ向かった。勿論、血を洗い流す為だ、女に無事な男数人が付いていくのはお約束だろう。

 補足ではあるがこの根城は元々あった洞窟を村にあった物で増築改造、強度補強を施した上で女、子供、老人などもここに暮らしている。そして入浴と言うか、湯浴びの場は、地下水が溜まった場所である。

 まあ、基本構造は温泉と同じ、温度が低い以外全く同じで男女で板により別けられている。


「さてさて、くっついて来てる男諸君。私に何ようかな?」

「い、いや、ただ俺達も体を洗いにきただけだ」

「そう?目泳いでるけどなら問題ないね。じゃ」


 女は男から目線を外し女用の方へ歩き出すが、少しして止まる。


「そうそう、最後に」

「な、なんだ?」

「覗いたり何かしたら……痛い目みるからね?」


 目の笑っていない笑顔で言われ男達は冷や汗をダラダラ流していた。


「う~ん、やっぱり髪が血でバリバリになってるなぁ。早く流そ」


 服を脱いで布を体に巻いてから服をじゃぶじゃぶと洗う。湯浴び場と洗濯場所は同じ所にあるため、体と服を一緒に洗う事が出来るのだ。

 体が洗い終わった女は湯に浸かりほっと一息つくとグッと背伸びをした。


「まったく、あんな風にしないと戦えない自分に呆れるよ。しかも名前も言えない始末、やってらんねぇな……ふぅ~」


 つい元の口調に戻ってしまったが気にしていないようだ。と、脱衣所から物音が聞こえた。


(あの男達か?)


「あっ!ななさん」

「ななさん?」

「そうです。名無しさんだから、ななさんです」

「そういう事ね。テイトちゃんはどうかしたの?」

「あれ?忘れたんですかぁ?今はもうお風呂に入らなきゃいけない時間なんですよー」


 ふと思い出すと撤退戦は夕方あたりにあったのだから当たり前だ。

 そこまで考えたあたりで女は考えるのをやめ顔にお湯をかけた。


「それにしてもですね」

「なに?」

「ななさんには色気と言うものがありますね~。テイトにはないので残念です」

「色気!?テイトちゃん、その言葉誰から聞いたの?」

「誰から、ですか?え~と、え~と、ガンテさんです」

「そう、情報ありがとう。じゃあ、私は先に上がるね」

「はいです~」


 湯舟から上がった女は水分を拭き取っている時に気が付いた。


「着替え持って来るの忘れた……しょうがない…」


――――


 クウが応急処置をしていると奥の方からざわめきが聞こえてきた。

 ここでざわめきが起こるのは大体喧嘩が起きた時なのだが、今回は何も怒声などは聞こえてこない。唯一聞こえて来るのは悲鳴に近い物だ。


「ちょっと今度は何があった……なっ!?」


 そこにはバスタオルのみを巻き付けてうろうろしている女が居た。

 しかも平気な顔をしてキョロキョロと周りを見ながら


「ちょっと名無しさん。服着てください」

「私、今干してるのしか持ってないんですよ。だからクウに借りようと思いまして……」

「ちょっとあんた!」

「あぁっ、クウ。ちょうど良いところにちょっと服貸してぇ?」

「早く来なさい!服なら貸してあげるから」


 と、いきなり引っ張られたので言葉が尻上がりになるが、クウは気にせずズンズン進んでいく。


「やった!ありがとクウ」

「べ、別にあんたの為なんじゃないから!あれよ。あれ、周りに迷惑がかかるからよ」

「分かってるよ」

「ぐぅ…ホントあんたには口では勝てないわ……」

「そう?とりあえず服貸して」


 クウはムスッとしたまま女を自分の部屋へ連れていった。

 根城は意外と簡単に作られており、道さえ覚えていればなんとかなる構造になっている。

 部屋へ着くとクウは棚から適当に服を引っ張り出し女に放り投げた


「それで我慢して」

「……なんでスカート」

「ワンピースだからベルトいる?」

「いや、だからなんでスカート?」

「ショートパンツなんか持ってないわよ?」


 その言葉を受けて女はどんどんズーンとなっていっていた。実は彼はまだスカートに慣れていない。何せ元男なのだ。慣れていなくて当然である。

 女は渋々ながらもそもそ着替え始めた。


(あ~、クソッ、こいつとは縁無しでいけるはずだったんだがなぁ)

「結構似合うじゃない」

「出来れば似合いたくなかったよ……スカートだよ?私履いた事ないのに」

「そう?まあ、寝ましょ?今日も大変だったんだしね」

「まあ、一理あるけど」


 まだ女はあとを引きずってはいるものの、自分の部屋に戻っていった。


――――


「また、ここか……」

『ああ、そうだとも。なぜここに来たか理由は分かっているな?』

「まあ……な。あんたの問いの答えを直々に聞きに来てくれたんだろ?」

『クククッ……分かってるならさっさと言えよ。こっちは時間のないってのに聞きに来てやっている


んだ』

「で?聞きに来たんだろ?なら、少々不本意だが言おうかね」

『前置きはいい。本題を言え』

「NOだ。そんな事知ったらつまらんだけだからな。それに男の方がいい」

『この先、苦しむぞ?』

「ならそれを越えるまでだ。俺は答えた。約束は守れよ?」

『はははっ、生意気を言う。だが男に戻れるようにはしておこう。条件を満たせば…な』

「あっ、おい!」


 彼が止める前に世界が掻き消えた。


――――


「くそったれ!逃げやがった」


 条件とはなんだろうか?そんな事を考えている間に夜は明けた。けれど、答えは出ないままだった。今日も戦いの日々が続く。

第二章の始まりです!第二章から三人称の話と一人称の話がグチャグチャに出てくるのでお気を付けください!

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