17 灰の塔
灰の大地。そこは大地の半分が焼き払われ、もう半分が朽ちた灰で埋め尽くされた不毛の地。かつて栄華を極めた魔法都市の跡地にて、その塔はそびえ立っていた。
『灰の塔』。七つの環から造られし、過去の叡智を封じた墓標。
ハルトたちは、神の記録に記されていた次の座標に導かれ、ここを訪れた。
だが、塔のふもとで彼らを待っていたのは、
「よく来てくれた。英雄たちよ」
透き通るような白銀の衣をまとい、背に六枚の光翼を携えた青年だった。
「誰だ?お前は」
ハルトが警戒を込めて問いかけると、青年はゆっくりと微笑む。
「名乗るまでもあるまい。だが、便宜上の名は『セルファ』。人々は私を”救世主”と呼ぶ」
「救世主?」
リゼがわずかに眉をひそめた。
「確か、灰の塔の記録によれば、偽りの光を掲げて現れた者がいたって」
ハルトの視線が鋭くなる。
「まさか。お前が、偽りの救世主か?」
セルファはその言葉に苦笑を浮かべた。
「偽りかどうかは、君たちが決めることではないよ。ただ私は、”真の未来”を望む者だ」
彼は塔を背に、一歩前へ出る。空間が軋み、背後に黒く濁った光の柱が立ち上る。
「この塔の頂には、神喰らいが捻じ曲げた未来を修正する”鍵”がある。だが、それを使うには”神の設計権限”が必要。つまり、そう、君だよハルト君」
その言葉に、ハルトははっと息をのむ。
(狙いは、俺の紋章か)
セルファは告げる。
「一緒に来てほしい。争うつもりはない。ただ私と共に、選ばれし者として、世界を新たに創り直そうじゃないか」
リゼが怒気を孕んだ声で遮る。
「世界を創り直すって、あんたが消してるのは、人の意思じゃない!この地で滅んだ人たちの願いまで、灰にしてる!」
セルファの瞳に、微かに悲しみが宿った。
「それでも、人の願いなど、不完全なシステムに過ぎない。完璧な未来には、犠牲が必要なんだよ」
その瞬間、ハルトの剣が光を帯びる。
彼はゆっくりと一歩、前に出た。
「お前の未来は、誰かの上に築かれた虚構だ。なら、俺がそれを”否定”する」
セルファが微笑む。
「よろしい。では、第一の環にて試練を」
彼が手をかざすと塔が震え、彼らの周囲がねじまがる。
そして、戦いが始まった。
灰と歪んだ時間の中、彼らは七つの環を全て越え、塔の真実へと迫っていく。
最後に待ち受けるのは、封じられた神喰らいの原初核と、セルファの真の正体。
それは、
「神ではなく、人が創りし”人工の神”」
「旧世界の記憶と叡智を詰め込まれた、最終兵器の残滓」
そして、塔の最上層にて、ハルトはセルファと最後の言葉を交わす。
「君には、”理解”されるはずだった。我らは同じ、神に選ばれた存在だ。と……」
「いや、だからこそわかる。お前は神じゃない。ただ、世界を閉じたがっているだけだと」
『灰の塔』の崩壊。
セルファの記憶は風へと散り、代わりに残されたのは……、扉の鍵と神喰らいの核座標だった。
ハルトはその光を見つめながら、強く拳を握る。
「次の場所は、本物の神にたどり着くかもしれない」