11 影
その瞬間、戦いが始まった。
光と闇の刃が交錯する。
互いの動きは完全に同一。剣の軌道、足運び、呼吸までもが同期している。まさに「自分自身との戦い」だった。
「ーーっ!」
そして、”影”は容赦なかった。
怒り、憎しみ、恐怖、嫉妬、絶望……。それらの感情がそのまま”影”のハルトの力へと還元され、容赦なく襲いかかってくる。
「ふざけんな、そんなものだけで、俺を支配できると、思うなよっ!!」
ハルトは、自分の剣に込めた。
仲間を守りたいという思い。正しさにしがみつく意思。何より、自分自身を信じる心ーーー。
光が、爆ぜた。
影の刃が砕け、虚像が断ち切られる。
『審判:完了。汝の心、偽りなし』
空間が崩れ、ハルトは現実へと還っていったーー。
「ハルト!!」
目を開いたハルトは、蒼い光に包まれながら立ち上がった。
その光は彼の背へと集束し、六枚の光翼が浮かびあがった。そして、手には新たな”剣”が宿っていた。
それはゼルですら見たことのない輝きを放つ、『奔流の核剣』。
ゼルは静かに、そして嬉しそうに微笑んだ。
「君は、可能性そのものだね。なら、僕も、本気を出さなきゃいけないな」
静まり返る空間の中で、ゼルは微笑みを湛えたまま一歩、また一歩とハルトに近づく。
彼のまとう空気は、さきほどまでの穏やかなものとはまるで違ってみえた。
「ようやく目覚めたね、ハルト。都市に認められ、『コアブレード』を手にした継承者……君なら、あの計画を”壊せる”かもしれない」
「……計画? 何のことだ」
ゼルは立ち止まり、ゆっくりと手をかざす。すると、周囲の壁に幾重にも重なった記録映像が展開された。
そこに映っていたのはーー
巨大な祭壇に並ぶ、仮面をかぶった存在たち。
その中央に座すは、白銀の王冠を戴いた”偽神”の姿だった。
「これは、かつてこの世界を創造したとされる『神々』の残影。そして、今、彼らの意志を騙り、世界の再編を目論む者たちの会議の映像だ」
「偽神……?」
「そう。彼らは”神”などではない。『光神連合』の最高議会、その中枢にいる『神美騎士団』
の者たち。つまり、”選ばれし血統”による完全支配を正当化するための虚構だよ」
映像の中では、機械的な声が語っていた。
『来る”光環月”の日、全ての”門”を開放する。
選ばれし者以外の魂は、浄化され、新世界の糧となろう』
ハルトの拳が震える。
「そんなのが、神のやることかよ」
「だからこそ、君に託したいんだ。この都市『ヴィバイア』に眠る、本物の神の記憶ーーそして『禁域』への鍵を」
ゼルは左胸を開くように指でなぞり、そこから露出させたのは……金属と魔力の融合体、『疑似神核』
「僕は、元は人間だった。だが、”選ばれなかった”存在として、彼らに心と体を切り刻まれ、”番人”へと改造されたんだ。
記憶を消され、感情を封じられ、ただの、番人としてここに立たされているんだよ」
その声には怒りも悲しみもなかった。
ただ淡々と、事実を語るだけ。
「でも、君を見て、やっと思い出した。この手で何を守りたかったのか。何のために今まで存在していたのか」
ゼルの眼に、一瞬だけ熱が宿る。
「だから僕は、君と、戦う。本当に君が”壊せる者”かどうか、確かめるために」
その瞬間、都市全体が震えた。
都市そのものの魔力がゼルに集約し、彼の姿が変貌していく。
背に浮かぶ八枚の鋼翼。
剣と銃が融合した異形の武装群。
そして瞳に宿るのは、『審判者』の光……。
「来なよ、ハルト。君の正義を、その剣で証明してみせてよ」