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善然戦士ゼンゼ・小説版  作者: 坂本小見山
エピソード1「来訪」
4/16

エピソード1-④

 黄金の竜の基底部から、旅客機の上部に光の階梯が下ろされた。その中から現れたのはゼンゼであった。彼は言った。

"Zenzefer"

 ゼンゼは大剣ゼンゼフェルを鞘から抜き放つと、それを構えたまま光の階梯を降りて、逆風をものともせず旅客機の機上に降り立った。

 ゼットタンバのカメラが捉えた映像を、衣笠が、権守が、山田が見て驚いた。

「なぜ彼は立っていられるんだ!」

「し、信じられない・・・」

「人間じゃないわ!」

 皆の驚きをよそに、ゼンゼはバットゼーフェルに言い放った。

"Fameror nai."

"Feja, 'zenzen' feja…"

 バットゼーフェルはゼンゼに対して、何かを促すように言った。

 ゼンゼはゼンゼフェルの切っ先を上にして持ち、中央の宝珠を深く押し込んだ。すると、刀身は青い光を点滅させた。彼が念を込めるごとに、青い光は強くなってゆき、光が強まりきったとき、折りたたまれていた剣の鍔が展開し、ゼンゼの足元に魔法陣を投影した。ゼンゼの体を、甲冑の形をした光の筋が包みこみ、両の目からは瞳が消失し、金色の光を放った。足元の魔法陣から、優美に耀う液体金属ゼルメタルが出現し、光の筋に沿って生き物のように昇ってゆき、ゼンゼの鍛え抜かれた肉体と融合していった。やがて、顔を除く全身がゼルメタルと融合した。

 ゼンゼは、かっと眦を決した。気高いその声は、ごく短い、それでいて鮮烈な呪文を詠唱した。


"Zenzen."


 それまで液体だったゼルメタルは、赤と金の甲冑の形状に凝固し、兜がガチャリと機械的に変形してその凛々しい顔を覆った。ゼンゼは、謎と神秘に満ちた鎧の騎士、善然戦士ゼンゼへと変身を遂げたのである。

 バットゼーフェルはそれを心待ちにしていたようだった。

"Je ze, je! Töd falafa zunat dfaa-dfaa…!"

 バットゼーフェルはにまにまと笑いながら、ゼンゼを挑発した。ゼンゼはバットゼーフェルを威圧しながら歩みを進めた。ゼンゼは剣を大きく振りかぶり、バットゼーフェルに飛びかかった。バットゼーフェルはこれをひらりとかわし、ゼンゼに拳を放った。ゼンゼもまたこれを躱し、剣をふるった。


 同じ頃、ゼットマシンのコクピットに、本部で待機中の山田の声が鳴り響いていた。

「ええい、辛気臭い!今からそっちに行って直接修理します!」

「無茶だけはするなよ!」

「了解!」


 バットゼーフェルはゼンゼの背後に回り込むと、彼に抱きつき、その上半身の自由を奪った。ゼンゼはもがいたが、バットゼーフェルの強靭な四肢は彼を捉えて離さなかった。

"Pozu ze, Zenze…"

 バットゼーフェルの鋭い歯の櫛比する口がゼンゼの首に死の接吻をくれようとした。

 二人が戦っている間も旅客機は高度を下げてゆき、オフィスビル街が間近に迫ってきていた。

"Zei!"

 勇ましい声を発し、ゼンゼの脚は旅客機の外壁を蹴った。ゼンゼはバットゼーフェルもろとも空中に投げ出された。バットゼーフェルの体はビルの塔屋に激突し、たまらずゼンゼを解放し、ビルから落下した。ゼンゼは華麗に身を翻し、脚を大きく開いてビルの屋上に力強く着地した。舞い上がる粉塵の中、甲冑の奥の金色の目がぎらりと光った。

「ゼゼール騎士の心得、其の五。置かれている状況を最大限に活かすべし」

"Madzed je gau zo, Zenze…"

 アスファルトの地面に叩きつけられ、満身創痍のバットゼーフェルは息も絶え絶えに、けれども嬉しそうに言った。



 その様子を、不気味なカニのような使い魔を通して監視していたのは、かの御三家であった。

 女は溜息まじりにつぶやいた。

"Nu enat freu rele…"

 筋肉質な男は豪奢な矛を手に取ると、それをゆっくり左右に振りながら呪文を詠唱した。

"Prid zai… Fenez ed prausraze…"

 妖術は使い魔越しにバットゼーフェルにかかり、その肉体をみるみるうちに回復させ、のみならず、巨大化させた。

 五十メートルはあろうかという巨体と化したバットゼーフェルは、ビルの屋上なるゼンゼを睥睨した。

"Zet foo vojo derzade…!"


 ビルと肩を並べる巨大ゼーフェルにも、善然戦士ゼンゼの闘士はいささかも揺るがなかった。ゼンゼは、剣の切っ先を夜空に高らかに掲げた。


"Nai, Zenzeizin."


 彼の呼びかけに応じ、彼の相棒たる金色の竜「ゼンゼイジン」が飛来した。ゼンゼイジンは光の梯子を下ろし、ゼンゼを収容した。

 ゼンゼイジンは「ゼルルルル・・・」と唸り、バットゼーフェルと間合いを保ったまま睨みあった。

 ゼンゼイジンは、修理中のゼットマシンを目に止め、その赤い双眸から白色光線を照射し、スキャンした。

 ゼットマシンのOSは警告を発した。

『警告。不正アクセスあり。データが閲覧された可能性があります』

 光線の照射が止むと、ゼンゼイジンの目の光は消え、死んだように動きを止めた。

 ゼットサツマのコクピットに座っている衣笠は、カメラ越しにその姿を見ながら、心配そうに言った。

「一体どうしたんだ・・・?」

 動きを止めたゼンゼイジンに、バットゼーフェルは討ちてし止まんと飛びかかった。そのとき、ゼンゼイジンの背が割れ、中から新しいゼンゼイジンが飛び出して、バットゼーフェルを尻尾で弾き飛ばした。変態を遂げ、生まれ変わったゼンゼイジンの姿は、金の体躯に赤の装飾を持ち、また全身にゼットマシンと同規格の変形機構を備えていた。恐るべしゼンゼイジン。ゼットマシンの構造を瞬時に学習し、進化したのだ。

 ゼンゼイジンのコクピットで、ゼンゼは厳かに命令を下した。


"Lel."


 ゼンゼイジンは命令に従い、変形を開始した。いくつものパーツが複雑に折りたたまれてゆき、竜はやがて巨大な騎士を思わせる巨神モードへと変貌を遂げた。

 胸部のハッチが開いてコクピットが露出すると、ゼンゼは剣を外に投げ出した。


"Prid zai."


 ゼンゼがそう命ずると、剣は巨大化し、巨神モードのゼンゼイジンの手に収まった。ゼンゼイジンは剣を握り、バットゼーフェルに斬り掛かった。バットゼーフェルは羽ばたき、ビルの屋上に飛び乗ったかと思うと、即座に怪音波を放った。ゼンゼイジン危うし、と思われたのも束の間、摩訶不思議、ゼンゼイジンは怪音波を剣で受け止め、夜空へと投げ飛ばしてしまった。バットゼーフェルは更に怪音波を放ったが、同じことだった。

 ゼンゼイジンは翔ぼうとしたが、背後から現れた別の刺客の攻撃を禦がねばならなかった。それは、一度はゼンゼに斬られて仆れたはずの、あのスパイダーゼーフェルの巨大化した姿であった。

"Sanun, Zenze!"

 スパイダーゼーフェルは叫んだ。


 唐井は画面越しに、ゼンゼの戦況を手に汗握りながら見守っていた。

「二対一とか、さすがのゼンゼも不利だって!健美、まだなの?」

「このネジを締めたら・・・よっしゃ、できた!」


 三大ゼットマシンは再び動き出し、二大ゼーフェルに翻弄されるゼンゼイジンの許に駆けつけた。

「巨大ゼーフェルを殲滅せよ!」

「了解!」

 三大ゼットマシンは、スパイダーゼーフェルに攻撃を浴びせた。だが、二本の脚と六本の腕でバタバタと走って逃げ、ゼットマシンの背後に回り込み、尻から糸を吐き、ゼットマシンを絡め取ってしまった。

"Zelme rozaa pridön zai! Luvuzara derzazene!"

 スパイダーゼーフェルは何やら豪語しながら、ゼットマシンを踏み潰そうとした。そこにゼンゼイジンが駆けつけ、スパイダーゼーフェルを羽交い締めにした。

 ゼットサツマ内で、衣笠は神妙な面持ちをしていた。

「彼は我々を守っているのだ・・・!」

 ゼットタンバ内の唐井も深く頷き、悔しげに言った。

「俺達、足を引っ張ってるだけじゃないか・・・」

 ゼンゼイジンは後頭部をバットゼーフェルに殴られ、思わずスパイダーゼーフェルを離した。懸命に戦うも、二大ゼーフェル相手にじりじりと圧されるゼンゼイジンを見ながら、三人は手も足も出せず、歯噛みするばかりだった。

 そこに、山田から通信が入った。

「みんな!今こそ新機能を使うときだ!」

「新機能って何なんだ!」

「合体だ!」

 合体という言葉に、唐井と権守は耳を疑った。

「合体ですって?」

「ありえない・・・航空力学的にも、軍事工学的にも」

 不信を口にする唐井に、山田は毅然と言い放った。

「軍事工学には不可能でも、この山田健美様に不可能はない!ゼルメタルで制御してるから訓練いらずだ。合体コマンドを音声入力して変形シークエンスを開始するんだ!」

 三機全てのコンソールに「絶斗合体(ゼットウガッタイ)」と表示された。うろたえる唐井と権守に、衣笠隊長が発破をかけた。

「いいからやろう!声を合わせるぞ!」

「はい!」

「は、はい!」

 三人は声を合わせ、高らかに合体コマンドを叫んだ。


「絶斗合体!」


 三人の声に応えて、電子音声が流れた。

『合体コマンド受理。これより変形シークエンスを開始します。武器系統は使用できません。パイロット各位、防御姿勢を取ってください』

 ゼットマシンは変形し、スパイダーゼーフェルの糸をいとも簡単に切り裂いた。ゼットマシンは巨大な一つの構造を成す部品へと姿を変えていった。ゼンゼイジンは二大ゼーフェルの暴挙を食い止めながら、ゼットマシンの変形を見守っていた。

『変形シークエンス完了』

 ゼットマシンの変形が完了すると、それら機体は瞬く間に組み合わさり、斗いを絶やす雄偉なる三色の巨人となったのだ。

『合体シークエンス完了。システム・オール・グリーン。完成、ゼットロボ』


 ゼットロボの威容に、スパイダーゼーフェルは驚愕した。

"Lufezunene derzane rele izinze zä…!"


「ゼンゼ君、スパイダーゼーフェルは我々に任せてくれ!」

 衣笠の呼びかけに、ゼンゼイジンは黙して応え、単身バットゼーフェルに立ち向かっていった。

 スパイダーゼーフェルが尻を向けるとすぐに、衣笠は操縦桿を手前に引いた。ゼットロボの背中に位置するゼットサツマの羽が展開し、その巨体を宙に浮かせた。間一髪、スパイダーゼーフェルの尻から出た糸は背後のビルにへばりついた。

"Shogenfa!"

 スパイダーゼーフェルは悔しがった。

 権守が言った。

「隊長、ここは私が」

「よし、行け!」

 ゼットロボの右腕を構成するゼットフタバの頭部が、スパイダーゼーフェルに食らいついた。

「いつぞやのお礼よ!」

 権守は操縦桿を力一杯に押し倒した。するとゼットロボは、建物の無い、怪獣制圧用に設けられたスペースに、スパイダーゼーフェルを投げ飛ばした。

 衣笠は二人に命じた。

「三人同時操作で必殺技を放つぞ!」

「了解!」

 コンソールに「必殺技コマンド:トリニティ・レイ」と表示された。

「トリニティ・レイ!」

 三人が声を合わせ、息を合わせてトリガーを引くと、サツマ、フタバ、タンバの三機のフロント部のクリスタルから照射された光線がスパイダーゼーフェルの体内の一点に交わった。

"Ze…Ze…Ze…!"

 スパイダーゼーフェルの体は奥から光を放ち、動きが鈍くなった。

"ZEEEEEI!"

 スパイダーゼーフェルは爆発し、今度こそ完全に倒されたのだった。地面には、ゼーフェルの呪縛から解き放たれた一匹のアシダカグモが落ち、そそくさと走り去っていった。


 一方のゼンゼイジンは、空中より間断なく打ち出されるバットゼーフェルの音波攻撃を剣先で受け流していた。コクピット内ではゼンゼが立体映像の剣を振り回し、その動きに従い、ゼンゼイジンは敵の攻撃をすべて往なしながら、ぐいぐい距離を縮めていった。

 ゼンゼイジンは、剣の拵えの宝珠を二回転させた。ゼンゼの精神力がポテンシャルエネルギーに変換され、拵えを経由して刀身に充填された。


"Zai-Zenzen-Fan."


 コクピット内で、ゼンゼは立体映像の剣を力強く振り下ろした。ゼンゼイジンは、バットゼーフェルを一刀のもとに斬り捨てた。

"Zezzezzezzez…!"

 バットゼーフェルはさも満足げに笑いながら爆発四散した。ゼーフェルから解き放たれたコウモリたちが、散り散りに飛び去った。

 折しも昇った旭日が、街を魔の手から守った二体の巨人を照らした。二体はしばし対峙した。



 人の姿に戻ったゼンゼは、ゼンゼイジンから降り、未だ消火活動の続く街の中へと歩みを進めていった。

「待ってくれ!」

 衣笠は彼を呼び止めた。唐井、権守、山田も、交々の思いを胸に、おのがじし彼の背に視線を向けた。

「ありがとう。君が我々を危機から救ってくれた」

「甘いな」

「え?」

 ゼンゼは剣を抜き、切っ先を衣笠に向けた。権守と山田はゼットガンを構え、唐井も同じようにした。

 ゼンゼは鋭い目で四人を見渡し、厳然と言い放った。

「私が敵だったらどうする?」

「・・・我々は、何としても君を倒す」

 衣笠は毅然と答えた。唐井たちも強く頷いた。

 彼らの覚悟を確かめると、ゼンゼは剣を鞘に収めた。そして、仏頂面のまま一礼した。

「非礼を詫びる」

 彼は面を上げると、改めて言った。

「そして、同じ戦士として忠告する。ゼーフェルは私に任せたまえ」

 権守はなおも銃口を向けたまま言った。

「それは、あなたもゼーフェルだから?」

「私はゼーフェルではない」

 山田が言った。

「じゃあなぜゼーフェル語を」

「ゼゼール語だ」

「ゼゼール・・・?」

 ゼンゼは西の空を懐かしむように見た。

「私の故郷だ」

 唐井はゼンゼに歩み寄った。

「勢太郎・・・じゃないのか?」

「私は勢太郎などではない。私はゼンゼだ。ゼゼール騎士団を代表し、中級ゼーフェルを追ってこの国に来た。生物と融合した中級ゼーフェルは強敵だ。君たちの手には負えない」

 衣笠は言った。

「我々が奴を倒したのを君も見ただろう」

「たまたまだ。今後も同じようにいくとは思わないことだ」

 権守は敵意を隠さず言った。

「断ると言ったら?」

 ゼンゼはチームゼット全員の顔を見渡して言った。

「私の邪魔だけはするな」

 ゼンゼは踵を返し、異国情緒溢るるマントをはためかせて去っていったのだった。



 ゼットマシンでゼットフクイに帰り着いた四人は、それぞれの思いを胸に、作戦室に向かった。

「何なのあいつは!何様のつもり?」

「まあまあ、そうかっかしなさんなって」

 ぼやく権守を山田は宥めた。


 肩を落としてとぼとぼと歩く唐井の肩に、衣笠の大きな手が乗った。

「気を落とすな」

「やはり、彼と勢太郎は他人の空似なんでしょうか」

「唐井三尉。どれほど小さい希望でも、捨て去ってはいけない」

「えっ、でも隊長、常に最悪のケースを想定しろって」

「その通りだ。人の命を守るために、我々は常に最悪の事態に備え、同時に望みを持ちつづけねばならない。我々は戦士だ」

 曇っていた唐井の瞳に、再び輝きが戻った。

「はい!」


 さんざめく旭を受けて、ゼットフクイは高貴な緑色の輝きを放っていた。



 日本は危機に瀕している。恐るべき能力で増殖する怪物、人々を幻惑する堕天使、驚異的な科学力で攻めてくる侵略者、名状しがたい邪神、得体の知れぬ思惑を持った異世界人、そして慄然たる怪人ゼーフェル。

 迫り来る強敵から人々を守るため、戦え、チームゼット。戦え、善然戦士ゼンゼ。戦いの火蓋は切られたのだ。



 つづく

次回「融合するもの」に御期待下さい。

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