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善然戦士ゼンゼ・小説版  作者: 坂本小見山
エピソード6「魔王降臨」
15/16

エピソード6-③

 日を改め、ゼンゼは内閣府の広々とした会議室に通され、国防省、外務省、科学省の長官の前で公式の聴取を受けることとなった。中央に座っている口髭を蓄えた国防省長官が丁寧に言った。

「国防省は貴官を友好国軍駐日士官と認定し、これより質疑応答を始めます。回答が電磁的に記録され、政府内で共有されることをご承知置きください」

 部屋には複数のビデオカメラが設置され、あらゆる角度からゼンゼの一挙一動を克明に記録していた。

「まず、貴官の所属、階級、氏名を」

「ゼゼール国騎士団、団長付き徒弟、二十代目ゼンゼ。ただし、騎士団は壊滅したため、今は無所属と考えて差し支えない」

「貴官の来日と活動の目的は」

「ゼーフェルから民の安寧を守ることだ」

 老獪な外務省長官が不気味なにこやかさをもって質問した。

「ゼゼール国の所在はどちらですか」

「中国国内、ヒマラヤ山脈の奥地に存在する」

「中国政府の統治下ということですか」

「否。我らゼゼール人は有史以前から外界との接触を絶ち、独立を保ってきた」

「ゼーフェルはゼゼール語を話すと聞いていますが、ゼゼール国とゼーフェルの関係は?」

「ゼーフェルはゼゼールに起源を持ち、本来はゼゼールでしか活動できない」

「それがなぜ日本に」

「闇に堕ちた騎士がゼーフェルを改造し、ゼゼール外でも活動できるようにしたのだ」

「闇に堕ちた騎士とは?」

「昨日私達と戦ったもう一人のゼンゼだ。先代ゼンゼの弟子だったらしいが、破門されて長らく行方を晦ましていた。二年前、奴は真のゼンゼを僭称して修道院に火を放ち、騎士団の仲間を虐殺した」

「もう一人のゼンゼの目的は」

「世界救済、とは名ばかりの人類全滅計画だ。この二年間、私は奴の殺戮を止めるべく追っていた。あと一歩というときに、自衛隊の攻撃を受け、取り逃がしてしまった」

 春に来訪した二つの巨大飛翔体を自衛隊が追撃した事件のことであった。

「では、御三家と呼ばれる三人の怪人物についてお教えください」

「私も詳しくは知らないが、極めて強い生物と融合した上級ゼーフェルであることは確かだ」

 次いで中年女性の科学省長官が質問した。

「ゼゼール人は人類と異なる種族ということでしょうか」

「いや、我々も人間だ」

「あなたは飛行中の旅客機に飛び乗る等の超人的な能力をお持ちのようですが」

「ゼゼール騎士は修行によってゼルメタルと調和し、ゼルメタルの加護を得る。あれは私ではなくゼルメタルの力だ」

「ゼルメタルと調和するとは、具体的にどのようなことでしょう」

 ゼンゼは少し考え込んだ。

「修行で体得するものだから、口で説明できるものではない。だが、語学に似ているかもしれない」

「語学?」

「人は異国の言葉の発音を練習し、文法を学び、単語を覚えることで自由に思いを言葉にできるようになる。それと同様に、我らはゼルメタルのあり方を知り、ゼルメタルの力を借りる」

「それで飛行機に飛び乗れるのですか?」

「左様」

 科学省長官は腑に落ちぬ様子だったが、質問を変えた。

「では、戦闘形態に変身する『ゼンゼン』とは、一体いかなる能力でしょうか」

「自らの肉体とゼルメタルを融合し、ゼーフェルと同等の力を得る術式だ」



 そのころ、足柄山地豪邸の広間では不気味な儀式が執り行われていた。調度品は全て運び出され、複雑かつ巨大な魔法陣の端々に御三家が得体のしれぬ供物が据えた。

 そこに、沐浴を終え純白の簡素なつなぎを着た黒ゼンゼが来た。女が言った。

「ゼンゼ様、ゼンゼンの準備は整ってございます」

「うむ」

 黒ゼンゼは衣服を全て脱ぎ捨て、全裸になった。それは人間の体ではなく、頭部以外は痩せ型のゼーフェルのようであった。



 聴取を終えたゼンゼはゼットフクイに赴き、チームゼットの作戦会議に参加した。衣笠が言った。

「第二次攻撃の目的は上級ゼーフェル御三家およびダークゼンゼの排除だ」

「ダークゼンゼ?」

 唐井は聞き返した。

「もう一人のゼンゼをそう呼称することに決まった。御三家の女はヘブン、筋肉質な男はアース、長身痩躯の男はヘルだ」

「絶対室長のネーミングね」

 権守がつぶやいた。山田は「僕はいいと思うよ」と言った。

 衣笠は続けて言った。

「敵拠点周辺には十二体の巨大ゼーフェルが遠方から確認されている。この排除に関して、室長から協力を惜しまないと気前の良いお達しがあった。お言葉に甘え、チームゼット指揮の下、怪獣対策室総出で攻略しようと思う」

 そこにゼンゼが嘴を容れた。

「悠長なことは言っていられない」

「どういう意味だ」

「私がゼンゼイジンを操るように、奴はゼンゼサヴァンを操る。その力でかつてゼゼール騎士団を壊滅に追い込んだように、今度はチームゼットを滅ぼそうとするだろう。作戦を迎撃に切り替えるべきだ」

「そのゼンゼサヴァンについて知っていることを教えてほしい」

「ゼンゼサヴァンは空を飛ぶ巨大戦艦だ。ゼンゼイジンより前に製造されたが、戦力はスーパーゼンゼイジンをも上回るだろう。その主砲はゼゼールを一撃で火の海にしたほどだ」

「そんな、スーパーゼンゼイジンより強いなんて・・・」

 唐井は怖気に震った。

「来日前、私はゼンゼサヴァンの主砲と手足の破壊に成功した。ゼンゼサヴァンは不完全な状態だ。勝機はある」

 ゼンゼは力説した。彼は続けて言った。

「それから、ダークゼンゼは私を狙う可能性が高い」

「それはなぜ」

「私の剣、ゼンゼフェルを奪うためだ。奴の持つゼンゼフェルレズは由緒正しい剣だが、ゼンゼンの機能は無く、奴のゼンゼンには長時間に及ぶ複雑な儀式が必要となる。今も奴はゼンゼンの儀式に臨んでいるに違いない」



 足柄山地豪邸ではダークゼンゼのゼンゼンの儀式が着々と進められていた。御三家の鳴らす陰気な打楽器の音が響く中、ダークゼンゼは瞑目し精神を統一していた。



 作戦会議を終えたチームゼットは、夕食を摂りに食堂へ向かった。出口に通じる道の手前でゼンゼは言った。

「私はこれで。用があればゼンゼイジンに繋いでくれたまえ」

 そう言って踵を返した彼に、唐井は言った。

「飯、あんたも一緒にどうだ?」

「私は遠慮する」

 と言ったものの、ゼンゼの腹の音は空腹を告げた。

「奢るぜ。腹が減っては戦ができぬ、ってな」

「すまない。お言葉に甘えよう」

 ゼンゼはきまり悪そうにそう言った。食堂に向かいながら、山田はふと訊いた。

「生活費はどうしてるんだい?」

「先日まで製菓会社でアルバイトをしていたが、ゼーフェル退治のために仕事を抜け出した廉で解雇された」

 ゼンゼの意外な一面に、一同はしばし面食らった。権守は彼がマシャエルのセミナーで受付のアルバイトをしていたことを思い出し、合点した。

 食堂に着くと、山田は調理員の男性に言った。

「おっちゃん、あれ出来てる?」

「出来てるよ。はい、蟹汁」

 五人は調理員から椀を受け取った。汁にはワタリガニが浸かっていた。



 他方、ダークゼンゼのゼンゼンの儀は最終段階に入っていた。御三家はおのがじし松明を持ち、ダークゼンゼの姿を照らした。彼の瞑っていた目はカッと見開かれ、御三家は松明の火を邸に放った。火に包まれた魔法陣は光り輝き、ダークゼンゼの座っている場所からゼルメタルが湧き出、その体を包みこんだ。炎の中、ダークゼンゼはゆらりと立ち上がり、足元から順にゼルメタルと一体化していった。やがて顔を除く全身が一体化すると、彼は両手を悠然と広げ、凄んだ声で詠唱した。


"Zenzen."


 豪邸は大爆発し、炎に包まれた。御三家は吹き飛ばされながらも、あるじの名を呼んだ。

「ゼンゼ様!」

「ご無事ですか、ゼンゼ様!」

「ゼンゼ様ー!」

 炎の中から声が聞こえた。

「案ずるでない」

 そして、ゆらり、と、豪奢な漆黒の鎧が現れた。

「おお、我らが王・・・」

 御三家は歓声を上げた。ゼンゼンを遂げ、漆黒の騎士となったダークゼンゼは、天を仰いで悠然と言った。


"Nai, Zenzesavan"


 呼び声に応じ、夜空に不気味な巨影が現れた。巨影から転送ビームが照射され、ダークゼンゼは吸い込まれていった。

「ゼンゼ様、我らにもお供させてください!」

「うむ、良かろう」

 御三家もまた転送ビームに吸い込まれた。



 ゼットフクイに警報が鳴り響いた。

『未確認飛行物体、および複数の下級ゼーフェル襲来。士官は迎撃配置に就いてください』

 ゼンゼとチームゼットは作戦室に集合し、メインディスプレイを確認した。ゼットフクイを取り囲む無数の下級ゼーフェル、そして空を飛ぶ漆黒の巨大母艦が映し出されていた。

 ゼンゼは重い声で言った。

「ゼンゼサヴァンだ」


 ゼンゼサヴァンのブリッジで、長身痩躯の男「ヘル」が窓からゼットフクイを見据え、言った。

「私が先陣を切りましょうぞ」

 筋肉質な男「アース」はヘルを制した。

「やめておけ」

「止めてくれるな。俺は奴らの強さを確かめたくてしょうがない」

 揉める二人にダークゼンゼが口を挟んだ。

「良いだろう。この国の料理では最初に汁物が出るそうだ。極上の赤いスープを期待しているよ」

「お任せあれ!」

 ヘルは喜び勇んで出陣した。


 ゼットフクイ正面に転送ビームが照射されると、下級ゼーフェルは一斉に跪き、その中央にヘルは降り立った。怪獣対策室の兵隊が銃を構えた。

「止まれ!止まらんと撃つぞ!」

 ヘルはローブを上げ、顔を露にした。瞳が無いことを除けば人間の顔であった。彼はにっと笑った。その足から頭にかけて溶解し、液体ゼルメタルになったかと思うと、球体関節人形のような姿に変形してゆき、深緑のゼーフェルの本性を現した。手には大きな鎌が握られていた。

「撃て!撃てーっ!」

 迫るヘルゼーフェルに、兵隊は銃弾を浴びせた。しかし、弾丸はすべて鎌に払い落とされた。恐るべきことに、払い落とされた弾丸はみな真っ二つに切り裂かれていた。

 兵隊がヘルゼーフェルに圧倒される様子が作戦室のディスプレイに映し出された。衣笠は言った。

「我々はヘルゼーフェルに応戦する。ゼンゼ君はゼンゼサヴァンを止めてくれ!」

「心得た!」

 ゼンゼは屋上に出ると、端の柵まで走りながら、ゼンゼフェル中央の宝珠を押し込んで鍔を展開させた。飛び上がったゼンゼの肉体を、召喚された液体ゼルメタルが包みこんだ。

"Zenzen!"

 ゼンゼは変身魔法ゼンゼンを完了した。

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