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善然戦士ゼンゼ・小説版  作者: 坂本小見山
エピソード6「魔王降臨」
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エピソード6-②

 豪邸の大広間では、黒マントの男が玉座に腰掛け、『菊と刀』と題された本を驚くべき速さで読みすすめていた。机には日本の歴史や宗教、更には食文化に関連する書籍が山と積まれていた。彼は本から目を離し、外を見た。

「随分と騒がしいな」

 御三家の女が応えた。

「あの若き騎士と、チームゼットなる小癪な連中が手を組んだのです」

「ほう・・・」

 広間に、例のカニゼーフェルが入ってきて、黒マントの男にゼゼール語で文句を垂れた。

"Zai Zenze, zet atomfa legemär fuzenezöze zä?"

"Fuzenezö? Zurut zön'ö..."

 黒マントの男は外を見たまま、同じくゼゼール語で嘲るように言った。カニゼーフェルはなおも食い下がった。

"Ne zeresez umajesa! Zelme..."

 カニゼーフェルがその言葉を言いおえることはなかった。カニゼーフェルの腹には、豪奢な黄金の剣が深々と突き刺さったのだ。

"Deda, zai Zenze..."

 息も絶え絶えに言うカニゼーフェルの方を、黒マントの男はちらとも見ず、座ったまま言った。

"Enat föd to Nifono: '雉も鳴かずば撃たれまい'"

 カニゼーフェルは溶け、液体ゼルメタルに戻った。黒マントの男は、滴る液体ゼルメタルを振り払うと、恐れ慄く御三家をよそに事も無げに鞘に収めた。



 一方、ゼンゼイジンは三機のゼットマシンと合体してスーパーゼンゼイジンとなり、左手にゼンゼフェル、右手にゼットセイバーを握り、最下段に構えた。下級ゼーフェルの最後の一体が「ゼッ!」と鳴きながら躍りかかった瞬間、二振りの剣が閃くやいなや、下級ゼーフェルは為す術もなく斬られ、爆散した。

 爆炎は吹雪にたちどころに消され、その先にあの豪邸が見えた。

「あの廃墟を守っていた・・・?」

 権守はかくつぶやいた。

「調べてみよう。ゼットマシン、分離」

 衣笠の指令でスーパーゼンゼイジンは合体を解除し、ゼットマシンは着陸した。



 防寒具に身を包んだチームゼットはゼットマシンを降り、吹雪に抗いながら歩いた。しかし、ゼンゼは軽装のままだった。

「ゼンゼ君、寒くないのかね?」

「問題ない」

 衣笠の問いに、ゼンゼは恬淡と答えた。

「俺も言うほど寒くないっすね。防寒具早く脱ぎてえ」

 そう言って暑そうに防寒具をばたつかせた唐井を、ゼンゼはじっと見た。

「どうかしたか?」

「別に」

 ゼンゼはぶっきらぼうに答えると、再び前を向いた。

 ふと、山田はあるものに目を留めた。彼女はそれを拾った。凍りついたそれはワタリガニであった。

「何だって山奥にワタリガニが」

 山田は不思議そうに見ながら、袋に入れてリュックサックに詰めた。



 豪邸の門扉の前にきたとき、六体の下級ゼーフェルが躍りかかってきた。ゼンゼは剣を、チームゼットは銃を抜いて瞬時に往なした。その勢いで彼らは庭を駆け抜け、ドアを開けると、すぐにそれぞれの武器を構えた。

 そこに鋭い女の声が響いた。

「客人、よく来たな」

 階段の上に御三家が待ち構えていた。三人ともローブを目深に被って顔を隠していた。

「君たちは何者だ」

 衣笠の問いに女が答えた。

「我ら、上級ゼーフェル御三家。偉大なる首領様に仕える三振(みふ)りの(つるぎ)なり!」

「首領だと?」

 上階から何者かが階段を降りる足音がした。その黒いマントの裾がちらと見えたとき、一同は寒気を覚えた。跪く御三家の間を通って、黒いマントと黄金の剣、雪のような白髪を備えた美青年が姿を現した。彼はゼンゼの顔を認めると、氷の微笑をもって言った。

「久々だな、騎士見習い君」

「出たな、闇に堕ちた騎士め」

 ゼンゼは柄にもなく憎々しげに言った。

「可愛い弟弟子とまた遊んであげたくてね」

 彼はゼンゼを愚弄すると、今度はチームゼットに柔和な顔を向けた。

「チームゼットと言ったな。会えて光栄だ。私はゼーフェルの王にして、最強のゼゼール騎士、『ゼンゼ』だ」

 その名を聞いて、チームゼットはみな驚いた。

「ゼンゼと、同じ名前だと・・・」

 衣笠の言葉に、黒いゼンゼは悠々と返した。

「根本的に誤解しているようだが、ゼンゼの称号を受け継ぐ騎士は私一人。そこにいるのは偽りのゼンゼ。真の正義を理解しない粗悪なまがい物だ」

「黙れ・・・」

 ゼンゼは冷静さを失い、衣笠が止めるより早く階段を駆け上がった。

「黙れ黙れ黙れえっ!」

 怒りに震える手でゼンゼフェルを握りしめ、黒ゼンゼに飛びかかったゼンゼを、筋肉質な男の剛腕が殴り飛ばした。ゼンゼは階段を転げ落ち、大理石の床に叩きつけられた。

「ゼンゼ!」

「ゼンゼ君!」

 チームゼットは彼の身を案じた。

 追撃せんとする筋肉質な男を、黒ゼンゼの手が制した。

「水を差すのは良くないな?」

「出過ぎた真似をしました」

 筋肉質な男は素直に引き下がった。

「チームゼットの諸君もご遠慮願おう。これはゼゼール騎士同士の戦いだ」

「そうはいかん!」

 四丁のゼットガンが一斉にエネルギー弾を発射した。しかし、いずれも御三家には当たらなかった。

「何っ!」

 四人はまた引き金を引いたが、同じことだった。長身痩躯の男の手から放たれた液体ゼルメタルが生き物のようにうねり、エネルギー弾を弾き返したのだ。すると今度は筋肉質な男が手を突き出し、電撃を放った。

「散開!」

 四人は散開して電撃を避けた。絨毯は一瞬で黒焦げになった。


 チームゼットの苦戦を尻目に、黒ゼンゼは剣を抜いた。

"Zenzefer-Rez"

 黒ゼンゼが「ゼンゼフェルレズ」と呼んだ剣の刀身には、鋭角的な文字で何やら文が彫られていた。その一字一字を仮にラテン文字に転写するなら、差し詰め

"ZEN ZENZENE ZEZUFÄRÖ,

LÖN FÖD LEFAZZE,

ZENZEN ZENZE"

 といったところであろう。


 反撃の機会を狙うチームゼットに、御三家は一斉に手をかざし、強力な電撃を放った。四人は爆炎に包まれた。いかに高性能な装備とは言え、上級ゼーフェルの一斉攻撃には耐えかね、四人は一敗地に塗れた。

「他愛もない」

 御三家は陰気に嗤った。若い女が前に出て、手から液体ゼルメタルを放った。

"Juvemön"

 液体ゼルメタルは傷付いた四人に絡みつき、その体を高々と持ち上げると、十字架の形に凝固した。

 長身痩躯の男は四人からゼットガンを取り上げた。四人はもがいたが、手足をゼルメタルの鎖に縛られ、抜け出すことができなかった。

「鎖よ、切れろ!」

 衣笠はゼルメタルに命じた。しかし、鎖は切れなかった。

「無駄だ。貴様たちは後でじっくり処刑する」

 女はそう言って笑った。衣笠はなおも諦めず、

「ゼットフォン、私の声を御三家の女の声に変更してくれ。『鎖が切れる』」

 衣笠の声は御三家の女の声に変換されて響いた。しかし、鎖はびくともしなかった。

「愚かな。声を変えれば切れると思ったか」

 そう言いながら御三家の女は四人からゼットフォンも取り上げた。


 ゼンゼと黒ゼンゼは剣を構えたまま睨みあった。

"ZEEI!"

 ゼンゼが間合いに踏み込むが早いか、二振りの剣は火花を散らして打ち合った。黒ゼンゼの斬撃を受け止め、ぎりぎりと噛み合う刃越しに、ゼンゼは黒ゼンゼを睨みつけた。

「騎士の心得を失った貴様は騎士ではない!ゼゼール騎士の心得、其の一・・・」

「全ての命は尊い」

 黒ゼンゼは先に言った。彼は更に続けた。

「君は人間を助けるために怪獣や怪人を斬る。これは命を差別する行為ではないかね?」

「その罪を背負うのも騎士の使命だ」

「私のやり方なら、罪を背負わず全生命体を救済できる」

 黒ゼンゼの左拳がゼンゼの腹を殴った。体勢を崩したゼンゼは、間一髪で敵の刃を躱して間合いを取り、腹部の痛みに耐えながらゼンゼフェルを握りなおした。

「き、貴様は罪を撒き散らしているだけだ・・・!」

「罪は罪と呼ばれて初めて罪になるのだよ」

 ゼンゼはなおも黒ゼンゼに刃を放った。刃と刃が打ち合うたびに、チームゼットのゼットフォンが甲高い音を発した。

 唐井は叫んだ。

「さっきから何なんだこれは!」

 山田は答えて言った。

「ゼルメタルの共鳴だ!二人の剣が打ち合うたびに近辺のゼルメタル分子が共鳴するんだ!」

 ゼンゼが床を蹴って飛び上がり、黒ゼンゼに向かってゼンゼフェルを振り下ろした。黒ゼンゼのゼンゼフェルレズがそれを受け止めた。ゼンゼは黒ゼンゼに押し返され、じりじりと後退した。


 そのとき、山田はぼそりと、小声の早口で言った。

「ゼットフォン緊急ログイン、今の共鳴を増幅して再生」

 御三家の女が持つゼットフォンから、鋭い刃音が発された。御三家は皆、耳を押さえて苦しんだ。ゼットフォンは火花を散らし、四人を縛る鎖に罅が入った。最初に解放されたのは権守だった。彼女は長身痩躯の男が落としたゼットガンの一丁を奪い返し、仲間たちを縛る鎖をエネルギー弾で断ち切り、彼らを解放した。時をあやまたず、衣笠は命じた。

「総員、転進せよ!」

 三人の隊員は命からがら外に出た。

「ゼンゼ君、引け!」

 ゼンゼは黒ゼンゼに切っ先を向けたまま、退こうとしなかった。衣笠は常ならぬ声で大喝した。

「ゼンゼ!」

 ゼンゼは我に返り、飛び退った。

 汗だくのゼンゼに、黒ゼンゼは涼し気な顔で言った。

「次は全力勝負だ。この意味は分かるな?」

 彼は黒ゼンゼを睨みつけながら、衣笠たちと共に退却した。

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