専用列車の中で
基本的に図書館というのはうるさい。
「図書」と宣っておきながら書物などは存在しておらず、あるのはマザーAIに繋がるための子機が各場所に設置されているだけだ。
この子機は一つ数十万払えば家庭用も買えるのだが図書館に行けばブース型のさらには接続優先が保証されるおまけ付きなので、大抵の人は大きな調べ物の際はここに来るだろう。
問題なのは、政治家も調べ物なり資料作成などを行う国家図書館しかこの国で図書館はないことだ。
本を図書館で読むという行為は最早廃れて数十年経っており最近の図書館はもっぱら政治家の議論の場、第二の国会などであろう。
だからこそ人は寄りつかないし行きたくもない場所なのだ。
しかし今回に限ってはどうしようもないのが現状で、お使いの携帯では──の類だ。
だから今、片道一時間半という馬鹿げた距離を永遠と交通機関を駆使し国家図書館まで移動の最中である。
「ねぇ星、どうしてこんな目に私たちは会っているのかしら」
「それは気軽に落ちているものを拾ってはいけないという教訓を得るため他ならないと思う」
「だとしたらもう散々得たしもういいと思うのだけど……」
「足りぬからこうして行っている」
「だとしても、どうしてこんな時間がかからないといけないのよ! 一時間半あったらどこ行かれると思っているのよ。大阪よ! な、の、に! どうして都内の移動で一時間半掛かっているのよ」
花凛は、はぁはぁと息を切らして騒ぎ立てたが結局なんの解決にもならないのは自明である。
AI技術が進歩した結果、交通の便は飛躍的な改善をした。けれどもマザーAIというのは国にとって死守すべき大事なものであり、そう簡単にどこにあるかなんてわかられては困るのだ。
よって、専用の直通電車が存在していて携帯のGPSは使えないようになっている。窓も黒塗りされていてさらにカーテンまでかかっているので自分の居場所などわからないのだ。
「しかし、その推論はいいな。一時間半あれば大阪に行けるレベルに今の交通は進化していることを考えると近畿地方など当の昔に過ぎているころなのかもしれない」
「はぁ……そんなことを聞きたかったわけじゃないのよ」
花凛は大きな溜め息をつくと悟ったように静かになった。
なぜかこの電車は物音を一切立てず走っているらしい。昨今の電車はレールガンとおなじように磁石の力で動いているのだがこの電車はレールが敷いてあったので違う仕組みで動いているはず。なのに、物音がしないのは少し不気味なものだ。
『残り十分で目的地に到着します。お忘れ物の無いよう周りを確認してからの降車をよろしくお願いします』
案内放送が流れてもう少しでたどり着くと知ってソワソワしていると奥のほうでドアの開く音がした。
「なんだ、人がいたのですか」
そういうなり、扉から現れたきれいな男の子はこちらに近づいてきた。
「ふたりはどんな用事で図書館に向かうのですか」
「そういう君はどういう用事でこんな似つかないとこにいるのかな」
なんとなく不満げな顔を見せた少年が聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの小さな声で喋った。
「僕は父の用事の付き添いですよ」
そういうと少年は奥の扉へと戻っていった。
「なんだったんだろう、あの子。ちょっと哀愁漂っていたけど……」
「そうかな? 俺にはただのガキに見えたけどな」
「もうっ、そういうことは言わないの!」