代償
時刻はすでに二十時を回って各々が寝る準備に取り掛かっている時、僕は未だAI拡張パーツをいじくり回している。
「なんだよ、これ。データ転送完了しているのに一向に電源がつかないな。どうしてだ。αも呼びかけているのに応答がないし何があった」
相当弄り回してもなんの反応も無いまますでに二四時になろうとしていた。
「すっかり忘れていたけど、結局この腕輪外れないな。αに解析させようと思っていたのに。どうしたものか」
手詰まってしまったしそろそろ寝ようかと諦めた時、プルルルと携帯の音が鳴った。相手を確認しようと画面を見ると見慣れた名前があった。
「もしもし? どうした、こんな夜更けに電話なんて」
「もしもし星? あのね、星は腕輪外れた?」
「いや、俺はまだ外れないな。AIに解析させようと思っていたけど、どうも反応しないんだ、僕のAI」
「そうなんだ。──あのね、本を見つけたの」
「ん?なんの本だ」
「──古い本なんだけどね。神話とかまじないとか書いてある本なんだけど……」
「はっきりしないな。そんな宝物見つけたみたいな報告ならもう切るぞ」
「え、ごめん。ちゃんと言うから待って!」
「わかったから、あんま大きな声を出すな。で、なんなんだ」
「私たちが見つけた、この指輪と腕輪のことがその本に書いてあったの」
「なんだって? 何かの間違いじゃ無いか? 別にその本に書いてある通りの形とかしていてもそれとは決まったわけでは無いだろう」
「違うの、聞いて。本当のことなの」
「わかったよ。いいから話せって」
「その本には、指輪と腕輪は持ち主を見つけると自らの意思でその人に装着される。そして日を跨ぐと代償をもらう代わりに大きな力を与えるって書いてあるの。ねぇ似てない? 私たち気づかないうちに付いていたでしょう、これ。そして、あと五分で日を跨ぐの。どうしよう星、代償って何よ、どうすればいいの」
花凛は話していくうちにどんどん自分でパニックになっていき次第には泣き叫び始めた。
「落ち着け花凛!」
「っ!」
「いいか落ち着け花凛。落ち着いて考えろ。確かに本と現状が酷似しているだろう。だけど、本当である方が珍しい。今は科学の時代だ。神話に記された奇妙なことでも今となっては科学的に証明されていることが多い。知らないからそうパニックになるんだ。だから、大丈夫だ、花凛。落ち着いてくれ」
電話越しに深呼吸する音が聞こえる。そう、安堵したのだ。ゆっくりと音が静かになっていく。
「ありがとう。なぜか自分でもびっくりするくらいパニックになっていたわ。今となっては不思議だわ」
落ち着いた空気が流れていた。花凛がいう時間まであと二分。本当なら代償を伴う力を手に入れられるし嘘なら怖い代償など来ないだろう。そう、ポジティブシンキングで行こう。こういう時は慌てた方が負けなのだ。そう静かにゆっくり。
「大丈夫だよ。うん大丈夫に違いない」
電話越しの発破も今では心強い。さあ後一分。
刻々と時間が過ぎていきそして遂にその時が訪れる。
《私を使うなら、代償を貰おうか》
声が聞こえると左手に嵌められていた腕輪が緑色に光りだす。どんどん腕輪から回路が腕に伸びていきやがて体を侵食していく。頭に激痛が走り目の前が白くチカチカと点滅しだす。
「ああ、星! 助けて、お願い、指輪が光って、ああ、ああっ! 嫌ああ──」
電話越しの花凛の助けを呼ぶ声が途切れ、そして僕の視界も白く染まった。