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宝石の魔法  作者: つぶ丸
第二章
11/29

不思議な事

 食事も一段落着いた頃、花凛が指輪をしきりに見ていたので声をかける。

「大丈夫だ。きっと外せる方法が見つかるさ」

「そうだといいんだけど」

 花凛の右手についている指輪、そして自分の左手についている腕輪。果たして本当に外れる時が来るのか、それとも永遠に共に過ごすことになるのか。

そんなことを考えていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ、お二人ともまだいたんですね」

 声の主は天之内だった。

「そっちこそ、まだ残っていたんだな。てっきり帰ったものかと思っていたよ」

 少年とは思えない程の雰囲気を纏わせながらこっちに向かってきた。

「私は親の随伴で来ていますから、勝手に帰ることは許されてないのですよ」

「それもそうか。ところで親は何の仕事をしにここに来ているんだ?」

「あれ、言っていませんでしたっけ? 実は私の父は政治家をしているのですよ」

 なるほど、確かにここに仕事しに来ている職種など限られているという事か。

「それは驚いた。お前の父は立派な仕事をしているんだな」

 すると、天之内は少し顔を曇らせるが、またいつもの顔に戻った。

「ええ、いつも父は忙しそうにしています」

 花凛は俺たちが会話している間あたりを見回していたが、天之内の方を向き話しかけた。

「ねえ、唐突で申し訳ないんだけどさ。この指輪のこと知らない?」

 そう言って自分のつけている指輪を見せた。

「おい、なに聞いてんだよ!」

「いいでしょ、何か知ってるかもしれないんだから」

 しかし、当の本人はというと、うーんと唸りながらじろじろと指輪を見ている。長々と唸った後、結局分からんかったようだ。

「すみません、よくわからないですね。これは、何か特別な指輪なのですか? とても綺麗な指輪だとは思いましたが特に思い当たる節も無いですね」

「そっか。別に特別な指輪って事でも無いんだけど……話してもいいかな?」

 花凛がこっちを見てきたが、今更聞かれてもという反応をすると苦笑いが返ってくる。しかし考えなしで突発的に行動する癖も治らないものだな。

 花凛は一つ深呼吸をしてから話し始めた。

「この指輪と星の左手についている腕輪は実はもともと私たちの物ではなくて草むらのなかにあった落とし物だった。気になってそれを拾ってみたら、いつの間にか私たちの体にくっついて離れなくなったわけ。そして、今日の午前零時にこの指輪が光ってこんなことに」

 花凛は話しながら肩を落とす。確かに体が動かなくなった後に訳の分からぬ方法で治されて、図書館に行ってみても結局何か分からずじまい。肩も落としたくなることだ。

 だが実際に見てもない天之内が聞いても何を言っているのかわからない話である。天之内は困惑の表情を浮かべていた。

「お話がよくわからないんですが、つまりどんなことが起こったのです?」

「私は体が動かなくなって、星は魔法が使えるようになったの」

 一瞬、天之内の口角が上がったように見えたが、今の天之内はもっと困惑の表情を浮かべている。

「そんなことがあり得るのですか? 体が動かなくなるのも不思議ですが魔法が使えるというほうが不思議です。一体どういうことですか」

 少々イラついて来ているような反応を示しているので話に入らせてもらおう。

「実際にやってみた方が早いかな」

 俺は席を立ち、左手の腕輪を右手で触り、言葉を唱える。

「飛べ」

 体がふわりと浮く感覚がした時には既に俺の足は地面に触れていなかった。

「周りに人がいるから目立てないけど。ほら、浮いてるだろ?」

 天之内は目を丸くして俺を見ていた。

「本当にこんなことができるとは。その腕輪は何かの装置ってことですか? 魔法というのは些か信じがたいのですが」

「花凛は魔法と言ったが正確には魔法ではなく理論で浮かんでいるらしい。つまり天之内が言った通りなにかの装置と考えるべきだと思う」

 天之内は納得したように頷くが、まだ疑問はあったようだ。

「では、どんな理論で浮いているのですか?」

 それが分かれば俺だったここには来ていない、俺は頭を掻きながら答えた。

「実は分からなくて、それを知るためにここに来たんだ」

「なるほど。では、高嶺さんは体が動かなくなったとおっしゃいましたがどうして動けているのですか?」

 花凛は胸を張って答えた。

「もちろん、星がその理論とやらで治してくれたんだよ」

 また天之内は目を丸くし俺を見た。天之内はハッとすると静かな声で聞いてきた。

「本当にそれは治療もできるのですか?」

「治療というより、変な現象を元に戻したという表現の方が正しいかな。実際、俺も治すぞと思ってやったわけじゃなくてサポートを受けながら言われた通りにやっただけだから詳しいことはさっきも言った通り分からないんだ」

 ふむ、と頷くと何かに気づいたかのような表情でもう一度聞いてきた。

「サポートを受けながら、というのはどういうことですか?」

 質問が多い子だ、と思うもこの話はこっちから始めてしまったんだなと反省する。本当に花凛の突発的に行動する癖をなんとかしてもらいたいものだ。

「俺には個人AIがあるんだ。しかし、どうしたものか突然おかしくなったと思えば今度はこの腕輪や指輪について知識があると言い出したんだ。そのおかげで花凛も治すことができたし空も飛ぶことが出来たとも言えるが、怪しい話だ。こっちから話してしまったものなんだが、この話を忘れてくれないか? 正直分かってないことの方が多い。話してしまったとはいえ部外者の君に言うのは不適切だった」

 天之内は話を聞き終わると何度か頷き少し考えこんだ後、子供には似つかない腕時計をみた。

「それは少し……いや、とても奇妙なものなのですね。わかりました。この話は聞かなかったことにします。あなたたちも今後、人に話したり人前で見せるなどは今後、控えた方がいいと思います」

 厳格な雰囲気になり、この場に緊張感が走る。俺の額に汗が伝い、生唾をごくりと飲みこむ音が聞こえそうなくらい静かになる。

「ああ、言われなくても、流石にもう話さないよ。花凛ももう話すなよ?」

 花凛は声も出せず、コクコクと頷いている。

「わかってくださったようで良かったです。それではそろそろ私はこれで」

 天之内の後ろからボディーガードらしき人たちが数人、目の前に現れた。

「蒼様、お時間です」

「わかっている。行くぞ」

 天之内はボディーガードに囲まれながらこの場を後にした。その後ろ姿は少年には到底似つかない雰囲気を纏っていた。

「俺たちもそろそろ調べものに戻ろうか」

椅子から立ち花凛に声をかける。

「そうだね。中途半端に終わっちゃったし、早く戻らないと」

花凛も椅子から立ち二人でさっきと同じ場所へ戻った。

いかがだったでしょうか。

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