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4.瓶を拾って小遣い稼ぎ

「フロル、腹ごしらえしたら行くぞ」


「あら、どこにですの?」


 ゲンがおもむろに立ち上がったのを見て、フロリアナは首を傾げた。おいしい朝ごはんにありついて、フロリアナは大満足だったのである。


「お前、行くところがないんだろう? だったら、家を作らなくちゃならないだろう。手伝ってやるよ」


「ゲンさん……。いいのですか? わたくし、なにもお返しができないのに」


「フロルは少ししかないクッキーを分けてくれた。俺たちにそんなことをしてくれる人間は、これまでいなかったんだよ。だから、これはその礼だ」


 そうして、彼は人がひとり入りそうなほど大きな袋を肩に担ぐと、歩きだした。


「この橋は……、確かべレク橋でしたわね。わたくし、シュルナ川の先には行ったことがないんですの」


 王太子の婚約者として、王都の視察をしたときのことを思い出す。王都は王宮の南側に広がっていて、市街地の先を横断しているのがシュルナ川だ。王都のいくつかの場所に、対岸に渡る橋がかかっているが、視察では橋の手前で引き返していた。


 ――貧しい人たちが住む地域……。


 視察に同行していた高官はそう言っていた。高貴な者が足を踏み入れるような場所ではないのだと。


 石造りの橋は武骨で、頑丈なつくりをしている。川の上にふわりと風が吹いて、フロリアナは赤いドレスの裾を押さえた。荷を積んだ馬車が、がたごとと音をたてて、フロリアナたちを追い越していく。


 橋を渡った先では、民家やら店やら、色々な建物がごった返していた。道は舗装されておらず、空気は埃っぽい。ゲンは家々の裏手に向かうと、あちこちに散乱している瓶を拾っては担いでいる袋に入れて回った。


「ゲンさん、この瓶は持っていっていいのですか?」


「ああ。中身を飲んだら酒屋に返すものなんだが、皆面倒くさがってそんなことはしない。だから俺たちが回収するんだ。これを持っていくと、瓶の量に応じて酒屋の主人が手間賃をくれる」


「それは素晴らしいですわね……!」


 現金が貴重であることを、今のフロリアナはよく理解している。


 屋根がひしめき合うように密集する民家、大きな看板が印象的な店。路地の裏にはゴミ捨て場があって、そこに大量の空き瓶を見つけたフロリアナは小躍りしてゲンを呼んだ。


「フロル、楽しそうだな」


「ええ、とっても! ゲンさんがいっぱいお金をもらえるように頑張りますわ!」


「そりゃあ、ありがたい。だが、瓶集めはついでなんだ。今日は木材を探しにここまで来たんだよ」


 ゲンはそう話しながら、きょろきょろと辺りを見回している。


「木材、ですの?」


「そう、主に木の板だ。これなんか、ちょうどいいな」


 ゴミ捨て場のひとつに置いてあった大きな木箱をばらすと、ゲンはそれを小脇に抱えた。どこを探すとそんなに見つかるのだろうか、木の端材を集めてどんどん大荷物になっていく。


「ゲンさん、わたくしも荷物を持ちますわ」


「フロルが? そんな細っこいくせになにを言う。お前は瓶を集めてくれたらそれでいいよ」


 苦笑するゲンに、フロリアナは言い張った。


「だめです! これも仕事のうちですもの」


「これ、仕事っていうのかね……。じゃあ、フロルはこの袋を持ってくれ」


 ゲンに渡された袋はずっしり重い。ゲンにならって肩に担ぐといくらかましだったが、袋が大きすぎて、フロリアナの背丈だと地面に引きずってしまう。


「瓶が割れたりしないかしら……」


「ああ、その瓶なら簡単には割れないよ。俺もいつも引きずっているしな」


「それなら安心ですわね」


 よいしょ、と歩きだすと、袋の中で瓶がごとごとと音をたてる。


「うふふ、わたくしったら妖精のようですわ」


「フロル……。そんな薄汚い袋を担いだ妖精なんていやしないだろう」


 並んで歩きながら、ゲンがため息をついた。


「そんなことありませんわ。古典にありますのよ。いい子たちの元には、こうやって袋いっぱいに贈りものを担いだ妖精が現れるのですわ」


 ゲンは声を上げて笑った。


「そりゃいいや。でもフロルの袋の中に入っているのは、安酒の空き瓶だけどな」


 酒屋は店が建ち並ぶ場所にあった。繁華街と呼べるほどのものではなく、小さな商店街、といったところか。


ゲンによると、川を挟んでこちら側を下町と呼ぶらしい。


「よう、今日も酒瓶を集めて来たぜ。引き取りを頼むよ」


「そりゃあ構わねえけどよ……、その女の子はどうしたんだ」


 下町の中では立派な店構えの酒屋の店主は、フロリアナを見てぽかんと口を開けた。


「ごきげんよう、店主さま」


 フロリアナが膝を落としてカーテシーをすると、店主の困惑はいっそう深まったようだ。


「おいゲン、こんなお姫さまみたいな子を……、まさか、さらってきたんじゃないだろうな?」


「馬鹿を言うな。こいつは落ちていたんだ。身寄りがないらしいから、世話をしているだけさ。ほら、瓶だよ」


 ゲンに促されて袋を店主に手渡す。


「じゃあ、今日はお嬢ちゃんの分の手間賃もおまけしておくよ」


 店主は、ポケットから硬貨を三枚取り出すと、フロリアナに差し出した。おずおずと受け取ると、手の中で小銭がちゃりん、と音を立てる。


「わあ……! 店主さま、ありがとうございます!」


「いや、お礼を言われるような額じゃないよ。それにしても、本当に綺麗な子だな……。本物のお姫さまかな?」


 店主の言葉に、フロリアナはくすくすと笑った。


「まあ、店主さまったら。今の王家には女のお子さまはいませんから、この国にお姫さまはいないんですのよ」


「それでも、お姫さまに近い地位の女の子ならいるだろう。なんだっけ、コ、コーシャク家? の令嬢とかさ」


 フロリアナはなにも言わずに微笑んだ。


「そんなことより、いらない木材はないか? ちょいと入り用でな」


「ああ、それなら店の裏にあるよ。家具を買い替えてな、ちょうど処分に困っていたところなんだ」

「そりゃあ助かる。もうけたな」


 ゲンは嬉しそうに手を打った。店主に礼を言って、薄い木の板でできたチェストやテーブルをばらすと、フロリアナも手伝って、持てるだけの木材を抱えて来た道を戻る。


「今日はついていたなあ。これだけあれば、小屋も二人分は作れるよ。まあ、新参者なんてめったに来ないけどな」


「そうですわね。でも、いつか来る新入りさんがお家に困らないなら、それがいちばんですわ」


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