表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

28.お嬢さま、貴方、前向きすぎて迷惑です!

 約二週間ぶりに登校したフロリアナは、周囲の自分を見る目が、いつもと異なることに気がついた。


 ――きっと、学院の掃除が追い付かなかったのね。


 フロリアナは重々しく頷いた。やはり、清掃令嬢たる自分がいないと学院は始まらないのだ。


「あっ、フロルさま!」

「フロル嬢がいない間、学院は退屈だったぜ!」


 姫桃のクラスメイトに囲まれて口元が緩むフロリアナだったが、しっ、とその場を制する静かな声を聞いた。


「皆さん、王国の発表を聞きましたね? フロリアナ嬢はマラティヤの王女になられたのです。王族の名をみだりに呼んではいけませんよ」


 生徒たちに注意したのは、クラスの担任ロイドだった。


 どうしようもない寂しさを感じてクローディアスを見ると、彼は仕方がない、とでも言うようにかぶりを振った。

 そうか、とフロリアナは理解する。クローディアスは生まれたときから、この寂しさを抱えているのだ。でも――。


 ――負けないわ。


「皆さん、わたくしのことは、これからもフロルと呼んでくださいませ。わたくしはただのフロリアナ。ひとりの人間ですわ」


「でも、それは……」

「無理だろ……」


 クラスメイトの声は、諦めの色を帯びている。


 一方のフロリアナは、どうしても納得がいかなかった。立場が変わった、ただそれだけのことで、級友たちの態度が変わってしまうなんて。


 ――わたくし自身は、なにも変わっていないのに。


 思わず俯いた。悔しさと寂しさに唇を強く噛みしめる。気を抜くと、涙が滲みそうだ。

 珍しくしおらしいフロリアナの様子に驚いたのか、クラスがざわついた。


「フ、フロル嬢、落ち着いて!」

「フロルさま、大丈夫です! 私たちはお友だちなのですから」


 クラスメイトの声に、フロリアナはおずおずと顔を上げた。いつの間にか、姫桃のクラスを覗き込んでいる、大勢の生徒からの声援も聞こえてくる。


「フロルさま、応援してます!」

「清掃令嬢、頑張れー!」


 それを聞いて、フロリアナはくしゃりと相好を崩した。令嬢らしくないが、構わないだろう。フロリアナはアルバイトをしている、ただの学生なのだから。





 その日の放課後、フロリアナは寮への道を歩いていた。

 隣には、フロリアナを校舎まで迎えに来たラスと、女子寮の前まで送っていくと言って聞かないクローディアスがいる。


「あら? あの方は……」


 女子寮の前に立っていたのは、寮長だった。いつも怒ったような顔をしていた彼女はいま、迷い子のような表情を浮かべている。


「寮長さま。ごきげんよう」


「フロリアナさま……」


 寮長は、静かに両膝をついた。


「今までのご無礼、なにとぞお許しください。長期休みには、いくらでも寮にいていただいて構いませんから。どうかどうか」


「それは調子がよすぎるのでは? 元々学院長が許可を出していたのに、あなたが勝手にフロル嬢を叩きだしたと聞いたけれど」


 クローディアスの表情には険がありありと浮かんでいる。


「ありがとうございます、殿下。でも、そのことはもういいんですの」


 フロリアナはクローディアスに微笑みかけると、寮長に向き直った。


「寮長さま、お立ちくださいませ。わたくしはなにも気にしておりませんわ」


 フロリアナは胸を張った。寮を追い出されたくらいで、へこたれる自分ではない。


「家などなくっても、わたくしは生きていけますもの」


 そのための知識も技術も、ちゃんと与えてもらった。おまけに、人は助け合うことができるのだ。自分なら、どこでもやっていけるとフロリアナは自信満々だった。


「……おそれながら、お嬢さま。ひとつだけ申し上げてもよろしいでしょうか」


「なあに、ラス」


「私はあなたをお守りしたいのです。できることなら大切に、大切にしまい込んで、手離したくない。それなのに、あなたはどんなところにでもしり込みせず、飛んで行ってしまう。お嬢さま、貴方は前向きすぎて、少しだけ――、ほんの少しだけ、迷惑でございます」


「あら、ラスったら。わたくしがひとりで飛び立つのが嫌なのでしたら、あなたも羽を広げればいいではありませんの。ラスなら、わたくしの隣を飛んでもよろしくってよ」


 ラスの瞳がぱっと輝いた。


「お嬢さま、それは……!」


「僕は? 僕もフロル嬢と一緒に飛べるかな」


 ラスの言葉は最後まで発されることがなかった。クローディアスがラスを突き飛ばして、フロリアナの前に立ったからだ。


「そうですわねえ。殿下もまあ……、よしといたしましょうか」


「やった! ラス、負けないよ」


「殿下……。お嬢さまに必要なのはあなたではなく、この私だと、思い知らせてさしあげます」


 くすくす、とフロリアナは笑いだした。この二人はいつも、変わらない。そんな二人にどれだけ勇気づけられているか、彼らはきっと知らないだろう。


読んでくださって、ありがとうございます!

もしもよろしければ、ブックマークや、下記の☆から評価をいただけないでしょうか。

励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ