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13.新しい出会い

 フロリアナの部屋の扉が、どんどんと叩かれたのは、翌日の早朝のことだった。寝起きの悪いフロリアナはまだ寝ぼけまなこで、ベッドの中で眠気覚ましの紅茶を飲んでいた。


「こんな時間に、どなたかしら」


 来客から見えないように、ベッドは繊細な彫刻が施された衝立で隠されている。


「お嬢さまはそのまま、お待ちください」


 がちゃり、とラスが扉を開ける音がする。同時に寮長の声が聞こえてきた。


「フロリアナ嬢には、これから部屋を移っていただきます。新しい部屋は、最上階にありますから、早く移動してください」


「最上階……? それは屋根裏部屋のことではありませんか?」


 驚いたようなラスの声が、次第に低くなる。


「おそれながら申し上げます。主人が入学する際、セレン公爵閣下は卒業までの学費とともに、貴学に莫大な寄付をいたしました。それは、主人が学院生活を快適に過ごせるようにと願ってのものです。なにがあろうと、その事実に変わりはございませんでしょう」


 ラスの地を這うような声に、寮長は一切、臆した様子を見せなかった。


「それがなんだと言うのです。もはやフロリアナ嬢は平民と同じ。誇り高き貴族学院に在籍できるだけでも、ありがたいと思いなさい」


 部屋に沈黙が落ちた。フロリアナは衝立からひょっこり顔を出すと、明るく言い放った。


「よろしくってよ。新しい部屋がどんな所なのか、楽しみですわ」


 フロルハウスに慣れたフロリアナにはちょうど、この部屋が広すぎて居心地が悪く感じられていたところだ。


 ――新しい部屋は狭いのかしら。ねずみが出たらどうしよう!


 楽しみになってうふふ、と笑うと、寮長が冷めた声で言った。


「フロリアナ嬢。新しい部屋には、あなたが持参した家具は入りませんから、そのつもりで」


 フロリアナは頷くと、寮長に微笑んでみせた。


「もちろんですわ。わたくしの家具はここにおいていきましょう。学院に差し上げますわ。ここはなかなか雰囲気のよい部屋ですもの。次にここに入る方が気持ちよく過ごせるといいですわね」


 寮長が唖然としたように口を開ける。


「さあ、お引越しの準備をいたしませんと。寮長さま、ごきげんよう」


 今日から授業が始まる。さっさと移動を済ませないと、遅刻してしまうだろう。


 こうして、朝のどたばたが始まった。手早く身支度を整えると、荷物の選別にかかる。

 とはいえ、川べりでひと月生活したフロリアナだ。着るものさえあれば、あとはなんとかなると身をもって知っている。


「お嬢さま、身の周りのお品は当然として、新しい部屋に持っていきたいものはございますか?」


 ラスは笑顔をつくろうとしているが、深刻な面持ちを隠せてはいない。


「特にありませんわ。ラス、ほら、わたくしを見て。なんとかなるなる! ものを失うくらい、大したことではありません。早く新しい部屋にまいりますわよ」


「申し訳ありません、お嬢さま。ですが、私は悔しくてなりません……。なぜ、お嬢さまばかりが、不幸な目にあわねばならないのでしょうか」


 フロリアナは不思議に思った。


 ――不幸? わたくしが?


 確かにここひと月ほど、驚くような事件ばかり起こっているが、自分を不幸だと思ったことは一度もない。いつも周囲に恵まれて、得難い経験までできたのだから、むしろ感謝したいくらいである。


 フロリアナの部屋は、寮の二階にある。高貴な者に階段を登らせるのは忍びないとして、二階にあるのは貴賓クラスの部屋だけだった。

 寮の最上階は四階。二階では艶のあった木の階段は、階を上がるにつれて、色がくすみ、みしみしと怪しい音を立てる。


 ラスに先導されて辿り着いた部屋を見て、フロリアナは歓声を上げた。


「わあ……! ねえラス、天井が斜めになっていますわ!」


 ころころと転がらなければ端に辿り着けなかったベッドは、フロルハウスを思わせるこぢんまりしたものに。なんにでも手の届きそうな絶妙な広さの部屋は、フロリアナの心を打った。


「おそれ多くもお嬢さまに対し、なんという仕打ち……! やはり、元の部屋に戻れるよう、学院に掛け合ってまいります。そう、脅してでも……」


 拳を握るラスを、フロリアナは呆れた気持ちで眺めた。


「ラスったら、なにを言っていますの。わたくし、この部屋が気に入りましたわ。なんだか今日はいいことがありそうね」


 朝の光を受けて、ほこりがきらきらと輝く光景に、フロリアナはうっとりと見入った。


「お嬢さま、そろそろ登校時間でございます。荷物は私が運んでおきますから、心配なさらないでください。帰りは校舎の前までお迎えにあがります」


「ありがとう、ラス。行ってまいりますわ」


 軽快に階段を下りて寮棟を出る。


 この春、フロリアナは二年生になった。クラスは姫桃。桃は国花だから、姫桃のクラスに所属するのは王族や公爵、または侯爵家といった、学院の中でもひときわ身分の高い者たちばかりである。


 貴族学院では三年間、同じ教室を使う。部屋を屋根裏部屋に移されたように、クラスも変わるのかと思いきや、いつもの場所に席があったので、フロリアナはほっとした。


 しかも、どうやらプレゼント付きだ。


「まあ、なんて綺麗なんでしょう……」


 フロリアナの机の上には、シンプルな花瓶に菊の花が活けてあった。菊の花言葉は、「高潔」「愛情」。


 ――わたくしのことを分かってくれる人もいるのね……。


 こんなふうに気持ちを伝えるなんて、洒落ているではないか。そういえば菊は葬儀に手向ける花でもあるが、この場合は全く関係がないだろう。


 早速椅子に座ろうとすると、きらりと光るものがある。拾い上げてみると、それは針だった。


 ――針……。


 考えてみれば、もうドレスを新調することはできない。綻んだところは、繕いながら着なくてはならないだろう。これは、そのことをフロリアナに教えようとしてくれているのかもしれない。


 偶然なのか、親切な人間がプレゼントしてくれたのかは分からないが、なんと示唆に富んだエピソードなのだろうか。

 やはり、今日は素晴らしい日だとにっこりしていると、教室に入ってくるクラスメイト達がフロリアナの机を見てぎょっとした顔をする。


――ふふっ、うらやましいでしょう。


 クラスメイトに笑いかけるが、彼らはそそくさと視線を逸らしてしまうので、フロリアナはこの出来事の素晴らしさについて、誰とも語り合うことができなかった。


 そのとき、見事な金髪をひるがえしてひとりの少女が教室に入ってきた。転入生がいるとは聞いていないから、他のクラスから移ってきたのかもしれない。


 クラスメイトたちがざわめく。


「あれ、誰かしら」


「へえ、可愛いじゃん」


 その女子生徒はつかつかとフロリアナの席の前まで歩いて来ると、突然顔を両手で覆った。


「フロリアナさん……。花を手向けられるなんて、かわいそう」


「ええっと……、どちらさまですか?」


 見知らぬ少女にいきなり同情されて、わけが分からない。


「あたしのことを知らないんですか? フロリアナさんが?」


「ええ、ごめんなさい。どこかでお会いしたかしら」


「いいえ。でも、フロリアナさんはあたしのことを知っておくべきだわ。あたしはシーリア。将来の王妃よ」


 それでは彼女が、王太子のひとめぼれの相手なのだ。


「お会いしたかったですわ!」


 フロリアナは興奮を抑えられなかった。王太子が言うところの、可憐ではかなげな美少女と話ができるなんて。

 そのとき、学院の鐘が鳴った。クラスの全員が席に着く。


「皆さん、おはようございます」


 鐘の音と同時に教室にやってきたのは、姫桃クラスの担任、ロイドだった。


 彼は、自身も伯爵家の出身でありながら、身分を鼻にかけない穏やかな教師である。

 勤続二十年の経験と、物腰の柔らかさから、毎年必ず姫桃クラスを担当しており、フロリアナたちのクラスは一年のときからロイドと一緒だった。


「フロリアナ嬢……。それは、なにかな?」


 ロイドはフロリアナの机を見るなり、顔を引きつらせた。


「ロイド先生。これは、親切な方からのプレゼントなんですの。花があると気分が華やぎますわね。わたくし、これからは花とともに授業を受けますわ!」


「そ、そうなんだ……」


 ロイドは胃のあたりをさすり始めた。


「ロイド先生!」


 挙手とともに、ひとりの生徒が椅子を蹴立てて立ち上がった。大きな声の主は、先ほどのシーリアだ。


「姫桃は、高貴な者が集うクラスなんですよね。身分の『ない』方がクラスメイトだなんて、おかしいと思います!」 


「シーリア嬢、このクラス割りを決めたのは学院長だよ。それに、フロリアナ嬢はこの学年の首席だ。学院は優秀な者にも門戸を開いていることを忘れないで」


「納得できません!」


 不満げに口を曲げたシーリアに、クラスメイトたちが声を上げた。


「そもそも、お前は誰なんだ」


「高位貴族じゃないわよね。パーティーで見たことがないもの」


 すると、シーリアが生徒たちをにらみつけて、胸を張った。青い瞳は勝気そうに輝いている。


「あたしは、マティアスさまの婚約者です。婚約者にふさわしいクラスをって、マティアスさまが姫桃のクラスに入れるよう口を利いてくれたんです」


「マティアスさま……? 誰だっけ、それ」


「王太子殿下のお名前じゃない! 御名を呼ぶなんて、不敬だわ」


 教室はたちまち、騒然となった。


「殿下の新しい婚約者なら、聞いたことがあるぞ! 確か、王太子殿下は男爵家の令嬢にひとめぼれなさったんだ。ええっと、ルース男爵家だっけ」


「男爵家? 平民に毛が生えたようなものじゃない。よくフロリアナさまのことを言えたわね」


 クラスメイトたちの話に自分が出てきても、特に気にならないフロリアナだったが、ふと教室の前方を見ると、再度ロイドが腹部をさすっている。


「大丈夫ですか? ロイド先生」


 フロリアナが尋ねると、ロイドはがっくりとうなだれた。


「ちょっと胃が……。皆さん、一限目の先生が来るまでは自習ということでお願いします……」


 それだけ言うと、彼は教室を出て行ってしまった。


 ――悪いものでも召し上がったのかしら。お気の毒に……。


 心配してロイドの背中を見送っていると、入れ違いに誰かが教室にやってきた。


「遅れました!」


 颯爽と現れたのは、この国の第二王子、クローディアスである。


 クローディアスは、赤というにはいささか色味の薄い、桃色の髪に、空色の瞳の優しげな容貌をした人物で、王太子の異母弟にあたる。

 彼はフロリアナの机を見て、目を吊り上げた。


「フロリアナ嬢、誰がそんなことを……?」


「あら殿下、ごきげんよう。そのくだりでしたら、今一通り終わったところですの。わたくし、今日はこの綺麗な花と一緒に授業を受けるのですわ。でも、先生が具合を悪くなさったの。一限目までは自習だそうですわ」


「それは、その……。まあ、君がいいのなら……」


 クローディアスが表情を引きつらせているのを不思議に思ったフロリアナは、周囲を見回した。改めて見れば、クラスメイト達はなんだか気まずそうだ。


 確かに、婚約解消やら没落やらの騒動で、学院を騒がせた張本人がクラスにいればやりづらいだろう。ここはひとつ、新生フロリアナとして挨拶でもしておこうか。


 フロリアナは勢いよく立ち上がった。


「皆さん、これからわたくしのことはフロルとお呼びになって。わたくしは公爵令嬢フロリアナから、ただのフロルになりましたの!」


 自信満々に言えば、生徒たちは困惑したように互いを見ながらも、ぎこちなく頷いた。



 その後、一限目からは通常通りの授業が始まった。

 ひと月もの間勉強をしていなかったフロリアナだが、昨夜教科書に軽く目を通していたので、困ることはなかった。

 あえて言うなら、放課後になってもロイドが現れなかったことがいちばんの問題であり、心配事だ。


「フロリアナさん。このあと、ちょっといいかしら。あなたに、お話しがあるの」


 放課後、フロリアナに声をかけたのはシーリアだった。王太子がひとめぼれするだけあって、なるほど可愛らしい。

 はかなげかどうかは……、いささか疑問が残るが。


「お誘いありがとうございます。でも、外に執事を待たせているんですの。今日は帰りますわ」


「ねえ、なにか勘違いしてませんか。フロリアナさんはあたしの誘いを断れるような身分じゃないと思いますけど」


 徐々に、シーリアの声が低くなる。そこへ割って入ったのは、クローディアスだった。


「ルース男爵令嬢。君の振る舞いは横暴な貴族そのものだ。ただでさえ大変なのだから、フロリ……じゃなかった、フロル嬢を困らせてはいけないよ」


 すると、シーリアは心外そうに、青い瞳を見開いた。


「クローディアスさま! あたし、フロリアナさんのためを思ってお誘いしてるんです。それをまるでいじめのように仰るなんて、そんなのひどい……」


 盛んにまばたきをするシーリアの瞳が、たちまち潤み始める。


「しかし、ルース男爵令嬢……」


 口ごもったクローディアスを尻目に、フロリアナは口を挟んだ。シーリアのことが心配になったのだ。


「あのう、大丈夫ですか? そんなに目をぱちぱちなさって、ごみでも入ったのではないかしら。痛くありませんか?」


「あんたは黙ってなさいよ……、じゃなくて、大丈夫ですう。それよりクローディアスさま。あたしのことはシーリアって呼んでください。ゆくゆくは殿下の義理のお姉さんになるんですから」


 確かに、と思ってクローディアスを見れば、彼の眉尻は思い切り下がって、この状況に困り果てているようだ。

 フロリアナはため息をひとつついた。仕方がない。そもそもの発端は自分にあるのだから。


「ルース男爵令嬢。お誘いをお受けいたしますわ。どちらに連れて行っていただけるのでしょうか」


「あら、フロリアナさん。やっと身の程が分かったんですね。どうぞこちらに」


 申し訳なさそうな視線を送ってくるクローディアスにひとつ礼をすると、ずんずんと先を行くシーリアについて行く。


 カフェにでも行くのかと思いきや、フロリアナが連れてこられたのは、校舎裏だった。校舎の裏口を出てすぐの場所にあるそこは、ちらほらと雑草が生えているだけの、なにもない空き地である。


「連れてきたわよ」


 シーリアが、フロリアナの背をどんと押す。校舎裏に立っていた女子生徒二名は、フロリアナを見て、くすくすと笑いさざめいた。どちらも、姫桃のクラスメイトではない。記憶を辿ると、確か、伯爵家と子爵家の令嬢のはずだ。


「シーリアさま、お疲れさまでした」


「邪魔は入りませんでしたか?」


 意外なことに、彼女たちは一番家格が低いはずのシーリアにぺこぺこしている。


 ――王太子殿下の婚約者だから……?


 身分で相手を区別するのは好ましいことではないが、それでも伯爵家と男爵家では家格に天と地ほどの差がある。王太子の婚約者というのは、爵位を超越するほどの価値があるということなのだろう。


 フロリアナは、シーリアの話の内容に、なんとなく予想がついていた。


 ――ルース男爵令嬢は、急に王太子殿下の婚約者になったんですもの。わたくしに、なにか相談したいことがあるのかもしれないわ。


 もしもそうだとしたら、なんでも教えてあげようとフロリアナは思った。


 彼女ににっこりと笑いかけたフロリアナだったが、シーリアは眉をつり上げて、口を開く。


「今日はあんたにいいことを教えてあげようと思って、ここに呼び出したの。不幸続きのあんたにね!」


 どうやら、フロリアナの予想は外れたようだ。それにしても、シーリアはなにを言っているのだろう。

 フロリアナは首を傾げる。


「不幸……? ルース男爵令嬢ったら、なにを仰いますの。わたくし、最近いいことずくめなんですのよ。本当に恵まれていると自分でも思いますわ」


「強がっちゃって、みじめねえ。今や、社交界はあんたの噂でもちきりよ。なぜだか分かる?」


 さあ、とフロリアナは首をかたむけた。


「もはや貴族でない者の話をするなんて、あまり建設的とはいえませんわね。それより、ルース男爵令嬢。教室でお話ししたときとは、ずいぶん口調が違いますのね?」


「ふん。あんたにはこれで十分よ。なんか文句ある?」


「いいえ、くだけた話し方も素敵でしてよ。それで、ご用件はなんですの? わたくし、早く帰ってやりたいことがございますの」


 フロリアナは、屋根裏部屋を堪能したくて、うずうずしていたのだ。授業中、新しいフロルハウスをどう飾り立てようか、そればかりを考えていた。

 ところが、シーリアを始めとする生徒たちは、三人でフロリアナを取り囲んでいる。どうやら、解放してくれる気はないようだ。


「今までのフロリアナさまは、最高位貴族だの、事実上の王女だのと、散々もてはやされてきましたからねえ」


 そう言ったのは子爵家の令嬢だった。


「こんなことになって、さぞ悔しいでしょうね。でも、シーリアさまが王妃になったら、中級貴族や下級貴族を優遇してくださるんですって。フロリアナさまよりもシーリアさまのほうが、ずっと王妃にふさわしいわ」


 さもおかしそうに笑うのは、伯爵家の令嬢だ。


「貴族の頂点にいたあんたが、マティアスさまに愛想をつかされた挙句、没落したから、陰で皆が噂してんのよ。これで自分のおかれている状況が分かった?」 


 最後にシーリアにだめ押しされて、フロリアナはうんうん、と首を縦に振った。突然の婚約解消と没落騒ぎに、周囲はさぞびっくりしたことだろう。


「お騒がせして申し訳ありませんでした。皆さん、これからわたくしと仲良くしてくださいね」


「馬鹿言うんじゃないわよ! あたしはね、金持ちが大っ嫌いなの」


 シーリアが吐き捨てたが、フロリアナにはその言葉の意味が分からなかった。


「あら、わたくしお金なんて持っていなくってよ」


「それでもお断りよ。あんたは姫桃のクラスから外されるだろうと思っていたのに、マティアスさまに調べてもらったらやっぱり同じクラスなんだもの、嫌になっちゃう。大体、あんたが貴族学院に通うなんて、そんなの許されないわ」


 そうしてシーリアは口角をつり上げた。さすがに可憐とは言いがたい顔である。


「菊に針。嫌がらせはあんたが学院に来なくなるまで続くことでしょうねえ?」


「よくご存じでしたわね! 針のことなんて、誰も気づいていないと思っていましたわ」


 フロリアナは感心した。シーリアの観察眼は素晴らしい。


「げっ! それは……」


 なぜか怯んだように身を引くシーリアに、フロリアナは微笑みかけた。


「ルース男爵令嬢、あれは嫌がらせではありませんわ。素敵なプレゼントでしてよ。そうそう、王太子殿下の婚約者になって分からないことはございませんか? 必要なら、引継ぎをいたしますことよ」


「あんたに教わることなんか、なにもないわよ! ふん、これからなにが起こるか、楽しみにしておくことね」


 そう吐き捨てたシーリアと、二人の令嬢が校舎に戻るのを見送って、フロリアナは首をかたむけた。結局、どういう用件だったのかよく分からずじまいだ。


 申し送りなしで、シーリアが困らないといいのだけれど。


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