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助命嘆願

 怒りに燃えるヘリオスさんの鎮火を頑張ってくれていたジェイドが、とうとう眠ってしまった。既に真夜中を越え、子どもが寝る時間はとっくに過ぎている。お子様2人が寝ているので、栞ちゃんへの対処案の過激化が止まらない。

 栞ちゃん、いくら切羽詰まってるからって、脅迫は悪手だったよ。名指しでアステールさんの居場所をバラすとは言ってなかったけど、そうとも取られる言動した時点でヘリオスさんに敵認定されたよ。べったり逆鱗に触れてるよ。


「あの、せめて命で購えってのは無しの方向で」


 なんで脅迫されたオレが栞ちゃんの助命嘆願しなきゃいけないんだろ、とも思うけど、ヘリオスさんの怒りがね、凄まじくて。普段温厚な人を怒らせると怖いよね。


「だけどな、ユウ。相手は自分の望みを叶えるために、脅迫してくるような奴だ。甘い顔してるとどんどんつけ上がって、エスカレートするぞ。物理的に口を封じるのが一番簡単だし、確実だろ」


「そうかもしれないけど、オレ、ヘリオスさんに手を汚してほしくないです」


「ユウ……ほんと、甘過ぎるぞ」


 そう言いながらも、若干ヘリオスさんの怒りが弱まったように感じる。よし、この調子だ、頑張れオレ!


「だったら私が風の刃でスパッと殺りましょう。それなら手も汚れません」


「そういう意味じゃないって解ってますよね! 駄目ですから!」


 アステールさんも命を粗末に扱わないで!

 

「そもそも犯罪者でもない、直接的な危害を加えてきた訳でもない女の子を殺したら、こっちが悪者になるでしょ。2人共、ジェイドの後見人になってくれるんじゃなかったんですか? 優良冒険者のままでいてください!」


 大人2人が顔を見合わせる。ヘリオスさんが苦笑し、アステールさんが肩を竦めた。オレを見る目が生温い。我儘を押し通そうとする幼子を、やれやれ困った子だなと見守るそれだ。


 ごめんなさい、オレの我儘自己満足だってのは重々承知してるけど、命の遣り取りはオレには荷が重過ぎて抱え切れないんです。オレはセイナの予防接種について行った時だって、注射針が刺さる瞬間は目を逸らしていたくらいのヘタレなんです。自分が痛いのはまだ我慢出来るけど、人の、特に子どもの怪我とかはホント無理。例えオレ達に害をなす相手であっても、命の危機くらいの状況にならないと物理的な反撃は出来ません。


「わかったよ。殺すのは無しだ」


 とうとうヘリオスさんが折れた。ありがとうヘリオスさん、その懐の深さ、大好きだ!

 

「仕方ありませんね。命だけは取らないでおきましょう」


 アステールさんも妥協してくれる。だけどアステールさんはヘリオスさんよりも手強い。ここからが重要だ。


「で、ユウ君は如何やって、殺すことなく書物の聖女を処分するつもりなのですか?」


 処分て。アステールさんの栞ちゃんへの扱いが酷い。

 オレの希望としては、今後栞ちゃんがオレ達に関わる事なく、オレ達の事を誰にも伝えないでくれればそれで良い。あとはオレ達を脅迫したことに、ちょっぴり仕返ししたい。オレだって、セイナを脅迫の材料にしたこと、怒ってはいるんだ。


「ええと、栞ちゃんは書物さえ無ければ何も出来なくなると思うので、本の無い環境で暮らしてもらおうかなと」


 無力化プラス脅迫に対する罰にもなって一石二鳥ではないかと。本好きにとって本を取り上げられるのは、一番堪えると思うんだよね。ヘリオスさんからアステールさんを取り上げるのと一緒。厳罰。


「ですが、書物の聖女の能力は厄介です。確実に、あらゆる本から引き離さなければ、捕らえたところで逃げ出して、ユウ君を追い掛けてくるのでは?」


 そこなんだよね。転移魔法と通信魔法が使えるのは確実な栞ちゃん。それにオレが絵本を手にしたタイミングでコンタクトを取ってきたから、監視か盗聴系の魔法に、位置情報特定魔法か索敵系の魔法も使えるんじゃないかと思う。

 ただし、栞ちゃんの能力は、あくまでも本を介しての能力だと推測する。本人も、「書物を媒介にすれば」大抵の魔法が扱えるって言ってたもんね。だから、如何にして栞ちゃんを書物から隔離するかが肝心だ。オレ達の周囲から本を取り除いても、例えば町中の書店とかの本を媒介にされる可能性もあるからね。

 栞ちゃんの能力、効果範囲はどの程度なんだろうか。遠隔操作で本自体を動かしたり出来るようだと対処しきれない。その辺りは、箱に入れて封印した絵本やアステールさんの魔導書がどうなっているか、後で確認するとして。


「逃げようと思わないくらい、快適な環境を提供します。たぶんあの子、読書さえ出来れば幸せなタイプだと思うので」


「矛盾してませんか?」


 ですよね。オレも言ってて思った。


「ええと、今からオレがやろうとしている事を説明するんで、可能かどうか教えてください」


 オレが一通り説明を終えると、ヘリオスさんがオレを見る目が変わった。


「ユウ、意外とえげつない事を考えるな」


「そうですかね。平和的な解決策だと思うんですけど。で、どうですか? 実行出来ると思います?」


「可能だとは思いますが、これ、準備がかなり大変ですよ。それに資金も必要ですし」


「リヒトさんにグリセリンソープを売って稼ぎます」


 困った時のリヒトさん頼み、ロックドラゴンアタックのせいで忙しい時に申し訳ありません……。


「そうですね。リヒト様を巻き込むのは賛成です。仮にも隣国の聖女候補の逃亡を手伝うのですから」


「そうだな。失敗したらリヒトに泣きつこう」


 ……否応なく尻拭いを押し付けられそうなリヒトさん、心から申し訳ありません! でも頼りにしてます!


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