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蜃気楼ではない

 院長の物問いたげな眼差しを笑って躱し、オレ達は孤児院を辞去した。子ども達が、


「また来てねー!」


 と見送ってくれる。笑顔で応えるセイナの胸には、両手で大事そうに抱える絵本がある。ラビちゃんの宝物だと聞いて返そうとしたのだが、院長に、


「宜しければ、貰ってやってください。ラビちゃんの感謝の気持ちですので」


 と言われたのだ。

 嬉しそうに絵本を抱えるセイナをホッコリ見ていると、後ろからアステールさんに問い掛けられた。


「何故あの子に契約魔法を使わないのですか」


 アステールさんって、結構厳しいとこあるよね。もちろんこれは、自身の経験からの用心深さや、オレ達への心配からくる言葉だから、有り難く受け止める。


「さすがに可哀想なので。それに、アステールさんも昨日、結界魔法使ったんでしょ? 子ども達に口止めって、如何しました?」


「……蜃気楼ではないかと説明しました」


 誤魔化しただけで、口止めとかしてないんですね?

 アステールさん、昨日の芋掘りの前に、子ども達を結界魔法で覆ったらしいんだよ。ほら、滝から落ちる時にオレ達を一人ひとり覆ってくれた、あれ。


「川の氾濫で運ばれてきた土砂には、良くないモノが混ざっていますから。必要な措置です」


「今日もこっそり掛け直してましたよね」


「子どもは抵抗力が弱いですから。必要な措置です」


 オレが思わず吹き出すと、アステールさんは足早にオレを追い抜かしながら捨て台詞。


「私は良いんです。でもユウ君はセイちゃんのためにも、もう少し慎重に行動してください」

 

 いつもオレのこと甘いって言うけどさ、アステールさんも子ども相手だと、ほんのり甘いよね。


 アステールさんの後を追って待ち合わせ場所に到着すると、既にジェイドとヘリオスさんが待っていた。2人はそれぞれ荷物を抱えているんだけど、その量がね、ちょっと笑えるくらいの大荷物なのだ。ジェイドの武器を買いに行ったはずなのに、食料品はともかく、ヘリオスさんが持つ紙袋から覗いているのは泡立て器とか仮面とか紙の筒とかだ。

 そしてオレの目を特に引いたのは、ジェイドの前髪を留める金属製のバレッタ。似合っている。


「凄いだろ。昨日の炊き出しの礼だってさ」


 川岸まで歩きながら、ヘリオスさんがひとつひとつ紹介してくれた。


「これは商業ギルドからの感謝状、こっちはユウに渡してくれって頼まれた調理器具、セイちゃんに良さそうな手袋も入ってる。よく分からない置物みたいなのもあったな。ちょっと通りを歩くだけで、どんどん渡されて」


「少し持ちます。ジェイドのリュックもパンパンだな」


「はい。ボクはいいって言ったんですけど」


「皆勝手にジェイドのリュックサックに突っ込んでいったよな」


 ジェイドのリュックサックに入っているのは、金属製の箱とかおもちゃ、毛糸の帽子などだ。ジェイドは昨日、台所と外を往復して料理を運んでたからね。頑張ってるのが見られていたんだろう。


「あと、ジェイドの新しい武器だけどな。武器屋に行ったらあれもこれもと勧められて、ナイフとガントレット、両方買うことになった。少しばかり予算をオーバーしたんだが、モノが良かったし、だいぶ値引きしてくれてな」


 これまでは、ヘリオスさんから借りたナイフで練習していたジェイド。だけど、ヘリオスさんの持ち物だけあって大きく重いそれは、ジェイドには扱いづらそうだった。また、まだ子どもで力が弱く、スピード重視のジェイドの戦闘スタイルにも合っていなかった。そのためジェイドの手に馴染む新しい武器を、ヘリオスさんに見繕ってもらったのだ。


「ジェイドに合った武器なんですよね。なら良いです、ありがとうございました。予算超えたぶん渡すんで、後で教えてください」


「いや、仲間なんだから、そのくらいは俺が出す」


「駄目です。仲間だからこそ、お金の事はきっちりしないと」


 金銭トラブルと恋愛トラブルが、冒険者パーティ解散の二大要因らしいからね。お金の扱いに関しては、パーティを組む時に話し合って決めてある。

 基本として、冒険者ギルドの依頼報酬は、半分をパーティのお財布に、残りを関わったメンバーで等分にする。食費や全員が使う消耗品は、パーティのお財布から支払い、アステールさんが管理。武器防具や服など個人の持ち物は、個人のお財布から支払う。

 セイナとジェイドのお金に関しては、半分をオレが管理して、もう半分を各自のアイテムボックスに貯金する事になった。今回のジェイドの武器や服、買い食いする時のお小遣いなんかはオレが預かっているお金から出して、お小遣い帳もつけさせている。きちんとした金銭感覚を身につけないと、大人になってから困るからね。


「だから、ジェイドの武器の代金はジェイドのお財布から支払います。だよな、ジェイド?」


「はい、もちろんです!」


「しっかりしてるよな、2人とも」


「ヘリオスはどんぶり勘定ですからね、見習いなさい」


 ジェイドのお財布はヘリオスさんが管理する案もあったんだけどね、アステールさんに、断固反対されたんだよ。絶対に収支が合わなくなるからって。ただしプラス方向に。


「俺は、頑張ってる生徒を応援したいだけなんだよ」


「だったら思いきり褒めて、肩車でもしてやってください」


 川にハウスボートで漕ぎ出してから、ヘリオスさんはオレの助言通りにジェイドを肩車して遊んでやっていた。ジェイドは恥ずかしがっていたけど、でも、その口元が弛んでいるのをオレは見逃さなかった。ジェイドはいつもセイナと遊んでくれるけど、たまにはヘリオスさんとダイナミック遊びも良いよね。


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