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冬でもポカポカ

「そういう事でしたら、我々がお力になれるかと思います」


 翌日。東レヌス商会に石鹸の納品をする時に、王都へのおにぎり輸送について相談すると、商人さんは力強く請け合ってくれた。石鹸をリヒトさんに配送するついでに、王都の冒険者ギルドへおにぎりを届けてくれるという。しかも、商会が所持する鮮度保持機能付きのケースで運んでもらえる事になった。これでおにぎりが傷まない、ありがとうございます。


 更に、今後他の支店でも同様の対応が取れるよう、商会長に掛け合ってくれるそうだ。なんて親切な人なんだろう。感謝を述べると、逆にこちらもお礼を言われた。


「これ位させてください。昨日はあれ程の量の食事を無料で提供して頂き、町の者一同感謝しているのです。本当にありがとうございました」


 ボランティアが大勢手伝ってくれたので、昨日1日でずいぶん片付けが進んだらしい。建物や道の排水と土砂の運び出しはほぼ終わり、今日は店と倉庫の掃除をする予定だとか。泥水で汚れた商品を洗ったり、損害を確認したりと、まだまだ大変そうだ。


 オレは、商品として卸している物とは違って不揃いで不格好な石鹸を、バケツいっぱい商人さんに渡した。


「これ、使ってください。殺菌作用もありますので。ああ、商品を作る時に出る欠片なんで、遠慮なくどうぞ」


 河川の氾濫の後は、病気が流行りやすいからね。手洗い大事。カービングソープを作る時の削りカスとか、小さくなって割れた石鹸とかをまとめたのだから、ガンガン使って欲しい。


 東レヌス商会の店舗を出ると、次に向かうのは孤児院だ。買い物に行くというヘリオスさんとジェイドと別れ、セイナと、護衛について来てくれたアステールさんと3人で坂道を登る。


 ピーターはビット君を従えて、出掛けるところだった。今日中に出発する事になったと伝えると、残念そうに肩を落とした。


「そっか。兄ちゃん達、もう行っちゃうんだ」


「ごめんな、仕事の件、無しになっちゃって」


「良いんだ。実はさ、おれ、他の工房に声掛けてもらって、そっちで働く事になりそうだから」


 言いながら、ピーターは誇らしげだ。人差し指で鼻の下を擦りながら、胸を張って教えてくれる。


「昨日一緒に炊き出し手伝ってた人に、鍋とかフライパンとか作ってる職人さんがいてさ。仲良くなったんだ。で、おれが孤児院育ちだからって弟子入り断られた話をしたら、だったら自分トコに来いって」


「そうなんだ、良かったな!」


「うん! おれ頑張るからさ、兄ちゃんが今度この町に来た時は、おれが作った鍋で料理してくれよな!」


 ピーターと、何度も振り返って手を振ってくれるビット君を送り出して孤児院に入ると、ラビちゃんが出迎えてくれた。手を引いてくれるのに任せ、院長の所まで連れられてゆく。

 ここでもオレは、石鹸を寄付した。孤児院には赤ちゃんが居るしね。清潔にしとかないと。

 それから卵。オレが錬成した、生食でも大丈夫な生卵を、たくさん渡しておいた。ここでは常温保存になるけど、もうじき冬に移る季節だし、半月は持つだろう。あとは小麦粉やチーズや燻製肉や豆やピクルスなど、日持ちのする食材。お金も少し。施しは、根本的な解決にはならないかもしれないけどさ。ジェイドが、お腹が空くのが一番辛かったって言ってたから。


「兄ちゃ、ありがとー」


「こんなにいっぱい! やったー!」


 台所に所狭しと並んだ食品を見て、子ども達が笑顔になってくれたから、それで良いのだ。あとはトドメに、砂糖とレーズンのたっぷり入ったマフィンをデーンと置いて、子ども達の注意を逸しておく。


「セイちゃん、こっちこっち」


 マフィンに群がる子ども達から離れ、院長からも見えない位置に、セイナを連れて移動する。こっそり、静かに。事前に打ち合わせていたのを思い出したのだろう、セイナが両手で口を覆って、にんまり。


「お兄ちゃん、やるの?」


 こしょこしょとオレの耳元で囁くセイナに日本語で答えた。


「うん。ここのお家をさ、冬でも温かいお家にするから、手伝ってね」


 具体的には、一年中室温摂氏20度に設定する。夏場はちょっと寒く感じるかもしれないが、昨夜自宅で試したところ、夏と冬で設定温度を変えるのは成功しなかった。衣服で調節してもらいたい。

 オレとセイナは部屋の隅でコソコソと、新築一戸建て内見会ごっこをして『ごっこ遊び』を発動させた。


 ピカッ!


「これで、ラビちゃんのお家も冬でもポカポカだね!」


 うんうん、そうだね。これで冬場の暖房費用も抑えられるはずだから、そのぶんを食費その他に回せる。少しは暮らしに余裕が出来るよな?

 イエーイ! とセイナとハイタッチしていると、ラビちゃんがトトトと駆け寄ってきた。両手で抱えた絵本をセイナに差し出し、


「あげる!」


「え? 良いの?」


「うん! あのね、お家ぽかぽかなの、ありがと!」


 ……ラビちゃん、オレとセイナの内緒話、聞こえてた?

 ラビちゃんのうさ耳がピクピク動く。そうだよなー、うさぎは耳がいいよなー、聞こえちゃうよなー。


「ラビちゃん。お家がポカポカになったの、内緒にしてくれる?」


 オレがお願いすると、ラビちゃんは、真剣な顔で頷いてくれた。そして、トトトと院長に駆け寄って、


「あのね、内緒だけどね、ポカポカなんだって!」


 まあ、3歳児のお約束なんて、そんなもんだよね。可愛いから許す!


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