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ロックドラゴンアタック

 ロックドラゴンの衝撃で呆けているオレを置いて、ヘリオスさんは冒険者ギルドへ行ってしまった。岩長さんの「ロックドラゴンによる聖王都襲撃計画」について、リヒトさんに知らせるそうだ。冒険者ギルドには、緊急連絡用の通信魔道具が設置されているので、それを使わせてもらうらしい。


「知らせたところで何も出来ないだろうが、一応冒険者には報告義務があるからな」


 スタンピード等の魔物災害についての情報は、冒険者ギルドに報告しなければならない。罰則は無いが、冒険者としての心得だ。


 1人になったオレは、ちょうど行きあった東レヌス商会の商人さんと二言三言言葉を交わし、家に戻った。炊き出しは東レヌス商会で引き継いでくれるそうなので、籠に入れた焼菓子詰め合わせを渡しておく。皆さんでどうぞ。


 家に入ると、セイナが調理器具を『きれいきれーい』しているところだった。


「セイちゃん、ジェイド、ありがとな」


 セイナをハグして猫吸いならぬ妹吸いをする。子どもの頭って、独特の癖になる匂いがするよね。落ち着く。


「アステールさんも、ありがとうございました。途中から丸投げしちゃってごめんなさい」


「いえいえ。それよりも、あの女性との話を詳しく」


 おにぎり契約については魔法契約書作成の時に知らせたので、その他の、聖王都襲撃とか聖女についての話を共有しておく。

 アステールさんによれば、聖王都の結界は、常時稼働ではなく緊急時に起動するものらしい。ロックドラゴンアタックを防げるかどうかは、起動時に使われる光魔法の強さに左右されるそうだ。


「先日召喚されてきた聖女と聖者、歴代国王の妃、あとは王族にも何人か聖者がいましたね。全員の魔力を使えば、一度くらいはロックドラゴンを防げるかもしれません」


 アステールさんの見解に、微かな希望を見出したのも束の間。


「まあ、執拗に何度も攻撃されれば、結界も保たないでしょうが」


 デスヨネ。岩長さん、たぶん召喚魔法陣を壊すまで諦めないだろうな。いっそ警告された時点で聖王国側が自ら召喚魔法陣を壊してしまったほうが、被害は少ないんじゃなかろうか。

 オレだって聖王国には色々と思うところがあるけれど、誘拐犯な王族も、ジェイドを虐げていた国民達も、死んでしまえとまでは思えない。被害が神殿含めた召喚魔法陣粉砕だけなら「ザマァ!」くらいは言いたいが。ロックドラゴン投入はね、ピンポイント爆撃とか無理そうだもんね……。せめて誰も死にませんようにと祈っておく。


「それよりも、あの女性は聖王国の差し金でしたか?」


「たぶん違うと思います。オレに接触してきたの、おにぎり目当てってのは本当みたいだし。セイちゃんが聖女なのも知らなかったし。今のところ、オレ達のことは放置されてるんじゃないかと」


「だと良いですね。油断は禁物ですが。この町も、なるべく早めに離れましょう」


 そうなんだよね。岩長さんに現在地がバレたから、さっさと移動したい。トイレ工事は中止かなー。ピーターに謝らないと。

 他にも炊き出しであった事とか、岩長さんが使役していたトカゲの生態とかを話しながら、オレ達は夕食の準備に取り掛かった。


 ヘリオスさんが帰宅したのは、セイナが待ち切れなくて、先に夕食を食べてしまった後だった。料理をテーブルに並べると、ヘリオスさんが席に着きながら知らせてくれた。


「ユウ、喜べ。聖王都の被害は神殿と、城が半壊で済んだらしい」


「えっ、ロックドラゴンのダイレクトアタック、もう終了したんですか?」


 早くない?


「ああ。リヒトに連絡がついた時には、もう第一報が入ってたらしくてな。そのまま続報を聞いてきた。死人は出ず、怪我人も他の聖女が治療したそうだ」


 良かったー! そのくらいなら、心置きなく「ザマァ!」って言えるぞ。

 

 夕食を取りつつ、ヘリオスさんが話してくれる。岩長さんは市街地に被害が出ないよう気を遣ってくれたのか、まずは聖王都から少し離れた場所に、ロックドラゴンを着地させたらしい。そして、拡声魔道具を使って、


「今から神殿をペシャンコにしまーす!」


 と宣言。避難勧告と共に、聖女召喚は誘拐だとか、石竜の聖女だからって差別すんなとかそもそも獣人を差別すんなとか、王様はカツラだとか、王子なんて寝室の本棚に『〇〇〇〇』や『△△△△』隠し持ってるとか、これでもかとぶち撒けたらしい。岩長さん、王子のへそくり探している時に、見つけちゃったんだな。

 ちなみに『〇〇〇〇』や『△△△△』は、かなりマニアックな変態趣味を満たすための男性向け雑誌だと、ヘリオスさんがコソッと教えてくれた。東レヌス商会なら取り寄せ出来るぞなんて言われたけど、要らねーよ!


 個人情報を暴露された王様や王子様は、即刻騎士団を率いて岩長さん捕縛に動いたようだ。しかしロックドラゴンの背中に陣取った岩長さんには魔法も矢も届かず。岩長さんは安全地帯から高笑い。聖女として、それは如何なの?

 結界も起動されたようだが、ロックドラゴンが歩いて神殿に近寄るだけで、ヒビ割れてしまったらしい。脆っ! 紙装甲かよ。それともロックドラゴンが、規格外に硬いのか?


 そうして狙いを外すほうが難しいくらいの至近距離まで近寄ってから。


「ロック、行きまーす!」


 との掛け声のもと、ロックドラゴンの前脚で、神殿はペシャンコに潰されたそうだ。その際瓦礫が飛んで、城壁の一部と離宮にも被害が及んだ。そして、復讐を終えた岩長さんはロックドラゴンに乗って、悠々と東へと飛んでいった──以上がリヒトさんからもたらされた、聖王都襲撃事件の一部始終だった。


 パンケーキに蜂蜜をたっぷり掛けながら、ヘリオスさんは疲れた顔で溢す。


「リヒトに散々文句を言われた。如何して阻止しなかったんだってな。ロックドラゴンを止められる訳ねーだろ」


「まあまあ、そのくらいは甘んじて受けましょう。これから聖王国は荒れるでしょうからね、この国にも少なからず影響があるでしょうし」


「そうなんですか?」


「ええ。何しろ聖女本人が、聖女召喚を非難したのですから」


「そうだな。リヒトも忙しくなるだろうな」


 そうか、困ったな。オレ、岩長さんへのおにぎり定期便について、リヒトさんに相談したかったのに。それどころじゃないかな。


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