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セキリョウの聖女

「岩長ヒメノ22歳独身彼氏無し、セキリョウの聖女です、よろしく!」


 にこやかにフルネームを名乗られた。この人、異世界系の小説とか漫画とか読んだ事無いのかな?


 幸せそうにおにぎりを食べ終わった岩長さんと、対談が始まった。オレに話しかけてきた時に日本語を使っていた岩長さん、ヘリオスさんに睨まれて即、こちらの世界の共通言語とやらに切り替えた。どうも、日本人同士だから日本語で話したいなーという、軽いノリだったらしい。

 オレは今まで気にしていなかったんだけど、召喚された時に備わった翻訳能力で、普通に喋ると共通言語になるそうだ。意識して日本語で喋ってみると、ヘリオスさんには意味不明の音の羅列に聞こえると言われた。密談不可だと日本語は禁止になったけど、今度からセイナと内緒話する時は日本語を使おう。でも今は、共通言語でご挨拶。


「ユウです、はじめまして? セキリョウって何ですか」


「石の竜って書いて、石竜(せきりょう)。トカゲのことね。わたし、トカゲ相手なら操ったり感覚共有したり、色々出来るみたいなの。爬虫類が好きだからじゃないかな。なんか召喚の魔方陣に、能力を強める効果があるんだって」


 質問するまでもなく、どんどん情報が開示されてゆく。楽ちん。だけど、個人情報ペラペラ喋って大丈夫? 他人事ながら心配になってくる。それにこの人、お城からエスケープしたはずだけど、緊張感がまるで感じられない。追われてるんじゃないのか?


「ええと、岩長さん達は、お城で保護されたんですよね。それが如何して、こんな所に?」


「あー、わたしね、聖女失格らしくて。お城でロクな扱いされなかったから、逃げて来ちゃった」


 あっけらかんと答える岩長さん。ちょっと聞いてよー、酷いんだよーと、これ迄の経緯を話し始めた。


「お城に着いて直ぐは、VIP待遇だったんだよね。豪華な客室に案内されて、毎日王子とお茶会して、ドレスとか宝石とかもいっぱいもらって。でも、わたしが年上だって言ったら王子は来なくなって、石竜の聖女だって判ったら食事のランクが下がった。わたしが使えるのが浄化魔法だけだったから、トイレ職人やれって言われて。魔道具工房に移されたの。シオリちゃんとカレンちゃんは相変わらずお姫様扱いなのに、酷いよねー」


 うーむ、オレにはそう酷い扱いには思えないんだが。王子の奥さん候補から外れたから、職業斡旋されただけだよね。虐げられてたようにも見えないし。


「だからね、早めに逃げようとは思ってたのよ。ドレスや宝石を売れば当面の生活費にはなるし、厨房からちょっとずつ食料をもらって、使えそうな魔道具もアイテムボックスに隠して、準備してたんだけど」


 ドレスや宝石、取り上げられなかったんだ。何処が酷い扱いだよ。食料や魔道具も、勝手に貰ってたんだよな? 


「もう少しで王子のへそくりの隠し場所が分かるって時に、近くの町にドラゴンが来たって聞いちゃって。爬虫類好きとしては、会いに行くしかないでしょ? だから、へそくりは諦めて、王子の馬でロックに会いに行ったの!」


 馬ドロボー! 王子のへそくりも、くすねるつもりだったよな? この人、逃亡者というより犯罪者として追われてるんじゃないか?

 そして、この人が会いに行ったというドラゴンに、とても心当たりがある。「ロック」なんて名前、オレが適当に名付けたのが定着してしまった「スーちゃん」くらい安直だけど。間違いないよね。


「そのロックってのは、キタジンの西に居座ってたロックドラゴンですか?」


「そう、よく知ってるね!」


「今朝川を氾濫させたのも、同じロックドラゴンですか?」


「うん、着地に失敗して、川のど真ん中に降りちゃったんだよね。ロックの大きさだと、細かい調整が難しいらしくて」


 悪びれもせず、町の惨状の原因を話す岩長さんに、それまで黙って聞いていたヘリオスさんが、キレた。


「おい。あんたのせいで、この町はこんだけの被害を受けたんだ。どう責任取るつもりだ」

 

「そんな事言われても。別にわたし、ロックの飼い主じゃないし」


「だけどさっき、トカゲを操れると言っていたよな? ロックドラゴンを操って、ここまで来たんじゃないのか」


「違うよー、頼んだら乗せてくれただけだもん。わたしが操れるのはトカゲであって、ドラゴンじゃないから。だいたいあんた、さっきから何? 変なお面着けてるし。あ、もしかしてそのお面が魔道具で、ユウ君を操ってるんじゃないの? 魔道具工房で聞いたよ、そういう呪われた品物があるって。あんたはユウ君を操って搾取しようとか企む悪者で、だから顔隠してんでしょ」


 何処からそんな発想が出てきたんだ。ヘリオスさんも呆気にとられて言い返せないでいる。


「ユウ君、そんな変なお面着けなくて良いんだよ? 正気に戻って!」


「おい、ユウに触んな」


 オレの仮面を外そうとした岩長さんを、ヘリオスさんが遠ざけてくれた。だけどオレは、自分で狐の仮面を外して素顔を晒す。どうせ岩長さんには、召喚時に顔を見られているのだ。このまま顔を隠して不信感を与えるより、顔を合わせて信用を得るほうが得策だ。あと話が進まないし。


「オレは正気です。お面を着けてたのは、聖王国の関係者に見つかりたくないからで」


「何なに? ユウ君は何やらかしたの?」


 オレは貴女と違って、何もやらかしてません。だけど、相手が日本人なら適当に笑っておけば、空気を読んで、無理に聞き出そうとしないよね? 好き勝手に解釈してくれるよね?


「もう、わたしとユウ君の仲なんだから、教えてくれれば良いのに」


「ははは、おにぎり二度とあげませんよ」


「えっ酷い! ってか、お米何処で見つけたの? わたし、ユウ君がおにぎり食べてるの見て、探してたんだけど」


「食べてるのを、見て?」


「うん。さっき言ったでしょ、トカゲと感覚共有出来るって。お城の外の様子を見るついでに、たまにユウ君見てたんだー」


「トカゲの目で?」


「そ。異世界だけあって、空飛ぶトカゲが居るんだよね」


 ……オレ、いつからストーカーされてたんだ?

 1歩下がって距離を取ったオレに、岩長さんが2歩近づく。ヒイッ!


「アハハッ、大丈夫だって。四六時中見張ってた訳じゃないから。ユウ君達、お城に来なかったから、無一文で暮らしていけるのかなって気になっただけなの」


 岩長さんの表情を見るに、それが親切心からだとは思えない。ただの興味本位か、あるいは娯楽? 趣味悪いな。それに気持ち悪い。


「で、お米、何処で手に入れたの? お城で聞いてみたけど、誰も知らなかったから、この世界にお米は無いんだと思って絶望してたんだよね」


 おにぎりが岩長さんに特効らしい。よし、交渉だ!


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