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この人見たことある!

 炊き出しは東レヌス商会の人達だけにするつもりだったのに、ご近所さんにもお裾分けしていたところ、噂が広がってどんどん並ぶ人が増えていった。被害地域の人がほとんどだったので受け入れていると、全く関係ない人まで並びはじめた。

 仕方なく、炊き出しを受け取った人に「食べたら浸水の片付けを手伝っていってくださいねー」とお願いしていたら、いつの間にかそれが「浸水の片付けを手伝えば食事にありつける」って事になっていた。そんな気はしてたよ。


 まあ、ボランティアが増えるのは良い事だ。炊き出しメニューはおにぎりメインなので、そこら辺に積み上がっている土砂を素材に使える。土砂を捨てに行く手間も省けて一石二鳥だ。我が家の窓から列に並んでいる子どもを見て、あの子達のためって思えばおにぎり錬成は成功した。そのうちに、ちゃっかり孤児院の子達も来てボランティアに加わっていたから、ビット君やラビちゃんの姿を思い浮かべながら錬成すれば、幾らでもいけた。


 ただね、素材にする土砂がね、灰色っぽいんだよ。


 オレの『ごっこ遊び』は素材の見た目がまんま完成品の見た目になるから、灰色の土砂を素材にすると、灰色のおにぎりになるんだけど。灰色の食品って、蕎麦かコンニャクしか思い付かなかったんだよ。でも蕎麦もコンニャクも、おにぎりの具材にするには、ちょっと……。

 茶色なら色々と思いつくんだけどね。炊き込みご飯とか焼きおにぎりとか、豪華に肉巻きおにぎりとか。美味しいのがたくさん思い浮かぶし、灰色よりも茶色のおにぎりのほうが、見た目も美味しそうだ。だけど、あまりに見た目も味も最高! ってのを配ると、収集がつかなくなると言われた。それに土砂から茶色っぽい部分だけ選り分けて使うのも手間だし、9割がた灰色なんだから、そっちを使えるほうが良い。


 あれこれと考えて、ウェブサイトで見たト○ロのキャラ弁が、摺り胡麻を混ぜたご飯で作られていたのを思い出した。そこからやっと、灰色のおにぎりが上手に錬成出来るようになって、ホッとしたよ。


 それから、予想通り川沿いの地域の井戸も使えなくなっていたから、水分補給にスープも配ってたんだけど。水はセイナがこっそり『きれいきれーい』したのを使っていたけど、具はオレの手持ちの食材を使ってたんだよね。だけど想定の何倍ものスープを作ることになったから、食材が足りなくなりそうだ。

 食材を買ってくるか、狩ってくるか、ヘリオスさんやアステールさんと相談していたところ。


「あの、お手伝いしましょうか?」


 旅装に身を包んだ女性が申し出てくれた。それまでも、東レヌス商会の商人達のご家族や孤児院の子達が、炊き出しを手伝ってくれていたので、オレは気軽に返事をした。


「あ、ありがとうございます! スープの配膳してる子と、交代お願い出来ますか?」


 オレの返事を耳にして、ヘリオスさんが妙な顔をした。


「おいユウ、あの人の言葉、解るのか?」


「え、はい」


「聞いたこともない言葉でしたよ」


 アステールさんが小声で言う。近くで空になった鍋を運んでいたジェイドも、頷いている。ヘリオスさんが前に出て、アステールさんがジェイドとセイナを連れて家に入った。ヘリオスさんが腰の剣に手をかける。


「ヘリオスさん?」


「ユウ、この大陸の言語は共通だ。共通言語を使わないのは、魔法を使う時か、呪う時だ」


 1歩踏み出したヘリオスさんに、女性が両手を挙げてみせた。


「待って待って、ただの日本語! ジャパニーズだから!」


「あっ!」


 オレはヘリオスさんと女性の間に割り込んだ。この人見たことある! 一緒に召喚されてきた、確か、リクルートスーツ着てた人!


「ヘリオスさん、この人、オレと同じ所から来た人です!」


「……確かか?」


「たぶん。見覚えがありますし、さっきの単語も知ってます」


 ヘリオスさんは、剣の柄からは手を離してくれた。でも警戒は解いていない。周囲の人達が興味津々で聞き耳を立てているので、オレは人目を避け、家の裏手に回ることにした。ヘリオスさんを引っ張りながら、女性にも同行を願う。


「あの、ここじゃ何なんで。ついて来てもらえますか?」


「わかったわ。でもその前に、お願いがあるんだけど」


 女性は炊き出しのおにぎりを指差した。


「あれ、おにぎりよね? お米使ってるのよね? お願い、先に食べさせて、日本食に飢えてるのよ」


「そうですよね、じゃあ」


「列に並べ。特別扱いはしない」


 ヘリオスさんに睨まれて、女性は困ったように眉を寄せ、曖昧に微笑んだ。ああ、日本人だ。オレに視線を寄越すので、すみませんがと言っておく。すみません、って便利な言葉だけど、久しぶりに使ったよ。女性はまた曖昧に笑って、列の最後尾へと歩いていった。


「ユウ、分かってるよな。同郷人だからって、味方とは限らない」


 ヘリオスさんが厳しい目で女性を見送りながら、オレに忠告する。


「分かってます。でも、情報が欲しいんです。オレが余計な事言いそうになったら止めてください」


 しょうがねーなーとでも言いたそうなヘリオスさん。関わらなくて良いならそれに越した事はないって、ヘリオスさんもアステールさんも言ってたもんね。


 聖女召喚されたうちの1人が逃げ出したことは聞いていた。リヒトさんからの情報らしい。だけど、探して保護しようとか、共に逃げようとかは考えてなかった。冷たいようだけど、元々赤の他人だし。

 それでも向こうから接触してきたからには、話くらいはしておきたい。聖王国のお城ではどんな生活をしていたかとか、王族はどんな人達なのかとか、オレ達の扱いは如何なってるのかとか、気になる事はたくさんあるし。如何やってオレ達の居場所を特定したのかも知っておきたいし。偶然? そんな訳あるか。


 オレはヘリオスさんから、家に入れるなとか気を許すなとか、散々に釘を刺されながら、彼女と何を話すべきかを考えていた。



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