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肝が据わってるよな

「ふぇっ、なに、地震?」


 熟睡していたところを地響きと揺れで叩き起こされ、オレは咄嗟にセイナの姿を探した。寝相悪くオレの足元で大の字になっていたセイナを見付け、抱えてテーブルの下へ。飛び起きたジェイドもついて来る。ヘリオスさんとアステールさんは、既に武器を手にして家の外だ。


「大型の魔物でも出たんでしょうか」


 ジェイドの言葉で、その可能性に思い至る。地震大国日本出身のオレは、建物が揺れれば地震だと判断するのが当たり前になっていて、魔物の襲撃なんて思い浮かばなかった。

 魔物だとしたら、如何動くのが正解なんだ? 逃げるべき? 家に篭もるべき? この家にもテントと同じ性能は付けたけど、地を揺らすほどの巨大な魔物相手に耐えられるか?


 オレはテーブル下から這い出して、窓際へと移動した。まだ夜明け前らしく、窓の外には、甲板の向こうに真っ黒い川面が横たわっている。かろうじて物の輪郭が掴める程度の薄闇の中に、魔物らしい影は見当たらなかったが。


「波が来ます!」


「掴まれ!!」


 アステールさんとヘリオスさんが、同時に叫ぶ声が聞こえた。オレはテーブル下に飛び込み、セイナとジェイドに覆い被さる。家がグワンと持ち上がり、何かがミシミシと軋む音がする。家はユラユラと揺れ続けている。


「セイちゃん、起きて。セイちゃん」


 セイナを起こして、すぐに動けるように上着を着せていると、ヘリオスさんが戸口に立った。


「皆無事か?」


「はい、そっちは?」


「問題ない。ただ、ちょっと……見たほうが早いな」


 ヘリオスさんに手招かれ、戸口から外を覗く。ハウスボートは川岸に押し上げて、樹齢100年は超えてそうな大木の幹にロープで繋いであったはずだけど。

 甲板と同じ高さに、水没した枝葉が見える。昼間見たときは、一番下の枝でもオレの目線の高さにあったのに。そして、少しずつ白み始めた東の空の下、川から溢れた水がどんどん広がっていた。


「川が氾濫している。どうも、川下で何かあったらしい」


「何かが川を堰き止めたようですが、詳細は……掴まってください!」


 溜まっていた水が、栓を抜いたように流れ始める。セイナとジェイドを家に押し込んで、オレも扉の内へと避難した。濁流に家が引きずり込まれそうだが、係留ロープが何とか岸に繋ぎ止めてくれている。オレはセイナとジェイドと固まって、水の流れが弱まるのを待つしか出来なかった。


 どのくらい時間が経ったか。揺れなくなった家の中で、ほっと息を吐いていると。


「おーい、もう大丈夫だ」


 ヘリオスさんとアステールさんが、スーちゃんを連れて戻って来た。スーちゃん、何故か手のひらサイズだ。


「ユウ、スーちゃんに美味いもの食べさせてやってくれ。家が流されないように頑張ってたんだ」


「そうなの?」


 手乗りスーちゃん、ヘリオスさんの手からポテンと跳ねて、オレの所に来たんだけど、ジャンプにキレがない。お疲れなのかな。

 スーちゃんの好みが分からないので、アイテムボックスから適当に食品を出してテーブルに並べる。スーちゃんがおにぎりを取り込んだので、山盛りのおにぎりをお皿に出して、ついでに皆で朝ごはん。食べながら、外の様子を聞く。


「水はほとんど引きました。馬達も無事です」


「あいつら、肝が据わってるよな。もう飼い葉食べてたぞ」


 そりゃあ、ロキ達は滝壺への垂直落下を経験済みだからね。あれに比べたら、さっきの揺れくらい如何ってこと無いだろうな。


「船自体も、特に故障等は無さそうです。ただ、係留ロープは買い替えたほうが良いと思います」


「今度はちゃんとした、船用のロープを買おうぜ。あれ、たぶん荷造り用のロープを撚り合わせただけだ」


 船の係留に使っているロープは、エーコさんが使っていた物だ。レヌス川は流れが穏やかだから、専用のロープじゃなくても十分だったのだろう。今回は不測の事態だ。


「もう少しでロープが切れそうだったんだが、スーちゃんが流れに逆らって船を押してくれててな。お陰で流されずに済んだ」


「そうなんだ。スーちゃん、ありがとう。他にも何か食べる? デザートは?」


 ポヨンと跳ねるスーちゃん、お、ジャンプ力が回復してるな。リンゴとブドウとチョコレートを並べると、スーちゃんは迷わずリンゴを選んだ。セイナが素早くチョコレートを確保する。オレが追加のチョコレートを皿に置くと、また手を伸ばすセイナ。皿を遠くにやるオレ。


「ダーメ。1人1個」


「お兄ちゃんの、セイにちょーだい」


「ジェイドと半分こにするんなら、良いよ」


「君らも存外、肝が据わってるよな」


 ヘリオスさんが笑うと、アステールさんも相槌を打つ。


「そうですね。あれだけ地面も揺れたのに、怖くなかったのですか?」


「あー、あの程度の揺れなら、何度も経験してるんで。オレ達の故郷、地震頻発地域だったんですよ」


 そんな話をしていると。ドンドンと、家の玄関扉が乱暴にノックされた。


「兄ちゃん生きてる?」


「ユウ様、皆様、ご無事ですか?」


 扉を開けると、東レヌス商会の商人さんとピーターが、血相を変えて駆け込んできた。


「良かった、兄ちゃん生きてる」


「皆様ご無事のようで、何よりです」


 ひとまず2人をソファに座らせ、温めのお茶を出す。それを一気に飲み干して、商人さんが言うことには。


「本当に、何事も無さそうで良かった。なにせロックドラゴンですからね。町は大混乱ですよ」


「え? ロックドラゴン?」


「はい。未明にロックドラゴンが飛来して、レヌス川を堰き止めたようなのです」


 オレ達パーティメンバーは、それぞれ顔を見合わせる。キタジンの町でも通せんぼしてくれたロックドラゴン、まさか同一個体じゃないだろうな?



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