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良いカモじゃねーか

 今日はもう遅いから話は明日、と子ども達を家に帰そうとしたのだが、結局3人は家までついて来てしまった。年長の男の子曰く、


「そんな事言って逃げる気だろ! 何処に家があるか確認するまで帰らないからな!」


 との事だ。しかし、川岸に到着し、あれがオレ達の家だと指差しても、年長の男の子は納得しなかった。仕方なく、3人を連れて帰宅する。


「ただいまー。お留守番ありがとな」


「お兄ちゃん、おかえり! あれ、お客さん?」


 おかえりなさいのハグをしてくれるセイナ、癒やしである。ほっぺたをくっつけてスリスリしていると、年長の男の子が勢いを失くし、おずおずと尋ねてきた。


「え、本当に、ここがお前の家なのか?」


「だから、そう言ってるだろ」


 子ども達3人が、ガックリと肩を落とす。


「そんな……。良いカモ、いや、お金持ちのお坊ちゃんだと思ったのに」


 おいコラ、良いカモって何だよ。ヘリオスさん、そこは間違ってないって納得しないで!

 アステールさんまでウンウン頷くので、オレは夕飯のおかずを1品減らしてやろうと心に決めた。


「で? オレは見ての通りな庶民だから、仕事の話は無しにするか?」


「え、えーと……ちょっと待って」


 すっかり大人しくなった子ども達が、顔を突き合わせて相談を始める。そのコソコソ話をかき消す大きな音が、部屋に響いた。


 グゥーーーッ……キュルルルルッ……


「……」


 音の発生源は、年下の男の子のお腹だと思われる。恥ずかしそうに俯く男の子。

 オレはクスリと笑いながら、台所へと向かった。


「セイちゃん、ジェイド、手伝って」


「やっぱり良いカモじゃねーか」


 うるさいやい。ヘリオスさん、暇なら子ども達に手洗いさせてきてよね。


 とてもお腹が減っているらしい男の子を待たせるのも忍びないので、夕飯は作り置きを適当に並べることにした。パンとシチューと、紫色のザクロっぽい果物でいいかな。シチューはトリ肉入りだけど、ウサ耳っ子は食べられるかな、大丈夫? オレはシチューにはご飯派だから、白米を握っただけのおにぎりも皿に盛る。


「「「「「いただきます!」」」」」


 すっかり定着した「いただきます」をオレ達がするのを、子ども達も見よう見真似でやる。さ、食べよっか。


「今更だけどさ、帰るの遅くなって、家の人が心配しない?」


「へーき平気。仕事でもっと遅くなる日もあるし」


「え、下の子達も?」


 ウサ耳っ子はどう見ても3歳くらいだ。もうお仕事してるの?

 年下の男の子が、口いっぱいに詰め込んでいたシチューを飲み下し、答えてくれる。


「ぼくとラビは、ピーター兄のお迎えに行ってただけ」


「ビット兄ちゃと、お迎え行ったの」


 子ども達のお名前が、ピーター、ラビ、ビットだと判明する。お父さんがパイになってたりしないよね?


 夕飯を食べながら話を聞くと、この子達は孤児院で暮らしているらしい。ピーターは金属加工の工房で下働きをして日銭を稼ぎ、孤児院の収入の足しにしているのだとか。


「工房の、お弟子さんなのか?」


「……弟子入りは、してない。孤児だからって断られた。だけど、仕事取って来たら弟子にしてくれるかもって、思って……」


 オレという良いカモを捕まえて、親方に献上しようとしたんだな。なるほど。


 美味しそうにご飯を頬張る子ども達を見ながら、考える。ピーターは仕事の仲介をしてくれるのが主で、実際に工事をしてくれるのは親方になるのか。孤児だからって理由で弟子入りを断る人の人間性、うーむ、仕事を頼んで大丈夫か? 急ぎでもないし、大事な家のリノベーションは、信頼出来る人にやってもらいたいんだけど。


「とりあえず、明日工房に案内して。親方さんと話してみてから、仕事を頼むか決めるから」


 オレは結論を先送りにした。会って話してみないと、親方さんの人となりも、腕前も分からないし。ドワーフ職人さんみたいに、向こうからお断りされるかもしれないし。


「あ、ありがとう、兄ちゃん! あと、さっきは態度悪くてごめん、舐められたら負けだと思って」


 ピーターの強引な態度は、虚勢を張っていただけだったらしい。根は良い子なんだろう。


 食後のデザートに、追加でマグカップで作ったカップケーキを出してやると、孤児院に持って帰りたいと言う。この頃は冬支度にお金が掛かるから、最低限の食事しか取っておらず、小さな弟妹がひもじい思いをしてるからって。孤児院には子どもが17人も居るらしい。ピーターは一番年長で、皆のお兄ちゃんなのだそうだ。

 マグカップケーキは数が足りなかったので、大きな蒸しパンを持てるだけ持たせてやった。


「ユウのお人好しは底無しだな」


 ヘリオスさんに揶揄われたけど、貴方だって、夜道は危ないからと子ども達を送って行くつもりじゃないですかー。両腕にラビちゃんとビット君を抱えたヘリオスさんを、仲間達でさんざん褒めちぎってあげた。


 それにしても、孤児院か。この世界に来て『シッター』になったからか、子どもと知り合う事が多く、いずれは関わる事になりそうだと思ってたけど。少なくともここの孤児院は、想像よりはまともに機能しているみたいだ。ピーターは最低限の食事しか食べてないと言っていたけど、オレは初っ端に、最低限の食事すら食べていなかったジェイドを見てるからな。

 ジェイドの顔は、ウチに来てから少しずつ、子どもらしい丸みを帯びてきている。今夜も石鹸錬成を手伝ってもらうお駄賃に、甘い物を食べさせなくちゃ。鍋でプリンでも作ろうかな。


 プリンを蒸している最中にヘリオスさんが戻り、この所の日課の石鹸作りを皆でこなす。出来たてのプリンを並んで食べて、就寝。平穏な夜だった。


 翌朝、外に出ると、町の様子が一変していた。


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