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DIYでは無理だった

 本日も晴天なり。川は穏やかに流れ、オレが垂らした釣り糸が水面に引く線も見えるほどだ。釣果はゼロ。だけど昼食のおかずには困らない。反対側で、ヘリオスさんとジェイドが魚を素手で捕まえているので。

 この2人、持ち前の素早さと動体視力の良さで、魚捕りが百発百中なのだ。船の縁から川を見詰め、狙いすまして腕をシャッと振るとあら不思議、甲板にピチピチと活きのいいお魚が現れるという寸法。既にタライに入り切らない魚が台所に持ち込まれ、調理されるのを待っている。だからオレが全く釣れなくても問題ないんだけどね、せめて1匹だけでもと続けていたら、止め時が分からなくなって今に至る。


「お兄ちゃん、釣れないねー」


「うん、そうだねー」


 船縁に座って釣り竿を握るオレの背中に、セイナがデロンともたれ掛かった。セイナも最初はオレと並んで釣り糸の先を眺めていたが、早々に飽きて、ジェイドのほうに行っていたのだ。魚を捕まえる度にセイナが褒めるので、ジェイドが張り切った結果が大漁のお魚達である。


「お兄ちゃん、そろそろお昼ご飯の時間だよ?」


 セイナからの遠回しな昼食の催促で、オレは魚を釣り上げるのを諦めた。


「夕方には次の町に着くが、ユウ、また東レヌス商会に寄るのか?」


 鮭に似た魚の塩焼きから骨を外しながら、ヘリオスさんが聞いてくる。


「はい。寄らないと、また家に押しかけられそうなんで」


 前の町に着いたのが夜だったので、町には入らず寝ようとしていると、商人さんに自宅訪問されたのだ。


 東レヌス商会はリヒトさんの家の御用達だけあって、かなりの規模の商会らしく、これまで立ち寄った町全てに支店があった。そして町に立ち寄る度に東レヌス商会の商人さんが待ち構えていて、リヒトさんからの石鹸の注文書を渡してきた。リヒトさん、どんだけお風呂好きなんだよって思わず口に出たよ。

 商人さんによると、リヒトさん、ご親戚の皆さんにオレの石鹸を配り歩いたらしい。そして、石鹸を気に入った人達に追加を渡す見返りとして、冒険者ギルドへの支援を要求したらしい。オレの石鹸が賄賂に使われている……。


「仕入れ先についての問い合わせには、守秘義務を盾に黙秘しておりますので、どうぞご内密にお願いします」


 注文を受ける度に念を押されたが、絶対誰にも言わないよ。バレたら面倒な事になるのは目に見えてるからな。リヒトさんを防波堤にしてオレの安全を確保する所存。そのためなら毎回100個単位の注文にも応えてみせるよ。

 いや、定期的な現金収入は有り難いんだけどね。小金が貯まったから、お家のリノベーションをプロに頼めるし。次の町が金属加工が盛んだというから、家の排水設備廻りを作り替えてもらうつもりだ。さすがにDIYでは無理だった。


 町に到着すると、予想通り、東レヌス商会の商人さんに捕まった。注文書を受け取って、立ち話のついでにリノベーションを頼む工房を紹介してもらう。ヘリオスさんと2人、連れて来られた工房では、ドワーフの職人さんが働いていた。ドワーフってだけで、腕利きの職人だって保証されてるようなものだよね! そして優秀なドワーフ職人は、頑固一徹、自分の気に入った仕事しかしないのも、あるあるだよね!


 当然の如く、オレ達の家のリノベーションはお断りされました……。


 はじめは歓迎ムードだったんだよ。どうもドワーフ職人さん、ヘリオスさんの武器を作る依頼だと思ったらしく、その辺に転がっていた大剣をヘリオスさんに振らせたり、何かを調べる板にヘリオスさんの手を置かせて小躍りしたりしてた。そして最高の剣を作ってやるからオリハルコンもって来いとか言い出した。

 伝説が始まる類のお話なら、自分の武器の材料を自分で調達するのはよくある事だけどさ。そもそもオレ達は、武器作成の依頼に来たんじゃないからね。こっちの話を聞かず1人で盛り上がるドワーフ職人さんに、ヘリオスさんが何度も何度もリノベーションの話をしたところ。急激に興味を無くしたドワーフ職人さんに、犬を追い払うように追い返された。工房を紹介してくれた東レヌス商会の商人さんに、平謝りされたよ。


 ま、我が家のリノベーションは特に急ぐわけじゃないから、縁が無かったってことで。石鹸の納期を1日延ばしてもらい、商人さんと別れる頃にはとっぷり日が暮れていた。暗い夜道を川岸に繋いだ家へと歩いていると、コツコツコツ、コツコツコツと石畳を木靴で歩く音がついて来る。オレは、隣を歩くヘリオスさんを見上げた。


「子どもが3人ついて来てるな。まくか?」


「足音消してないし、用があるんじゃないかなと」


「なら声掛けてくるだろ」


 ヘリオスさんはにべもない。 だけど、家までついて来られるのもな。


「こっちから声掛けてみます」


 苦笑しながらもヘリオスさんが頷いてくれたので、オレは立ち止まり、くるりと振り返った。


「君達、何か用?」


 オレ達の後をつけていたのは、12、3歳くらいの男の子を先頭に、ジェイドと同い年くらいの男の子と、セイナより小さな女の子。兄妹かなと一瞬思ったが、女の子の頭にウサ耳が生えているので違うかもしれない。

 オレが声を掛けると、3人は立ち止まって顔を見合わせたり、こちらの様子を窺ったりとモダモダ。最終的に、年長の男の子が年下の男の子の背中を押し出した。


「あの、ぼく達、さっきドワーフさんのとこで依頼を断られたのを見てて」


 チラチラと年長の男の子の顔色を窺いつつ、小声で話す男の子。うんうん、それで?

 オレが耳を傾けると、今度はウサ耳っ子の背中を押し、前に出させる年長の男の子。


「ええと、兄ちゃは、じょーずな、大工さんです!」


 兄ちゃとやらに、そう言えって言われたんだろうな。ウサ耳っ子がつっかえながらも言い切って、ホッとしたのかニパッと笑う。


「うん、それで?」


 オレは後ろでふんぞり返っている年長の男の子を見据えて、問い掛けた。小さい子達を矢面に立たせて、君は何やってんのさ?


 オレと睨み合う形になった年長の男の子、僅かに目を見張ったが、それでもオレを睨み返してきた。オレは目を逸らさない。にらめっこはセイナとの対戦で鍛えられてるからね!

 やがて根負けした男の子がオレから視線を外し、顔を赤くして呟いた。


「……だから……おれが……」


「おれが、何?」


「…おれが、お前の家を修理してやるって言ってんだよ!」

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