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お揃いだね!

 朝一番で宿にやって来た東レヌス商会の商人さんに、無事石鹸100個の納品が完了した。内訳は、夜遅くまで頑張って加工したのと旅の合間に作っていたのとで、カービングソープが10個。残りは金太郎飴方式の石鹸が90個だ。

 取引は冒険者ギルドの依頼として扱ってもらえるそうで、眠い目を擦りながら冒険者ギルドにも出向いてきた。早朝だというのに冒険者ギルドは混んでいて、常設依頼の毒消し草納品について来たヘリオスさんと一緒に、ゆったりと順番を待つ。


「こんな朝早くから、人が多いんですね」


 まだセイナは寝ているので、ジェイドとアステールさんと共に宿に残っている。オレも普段なら寝ている時間だが、商人さんが来て叩き起こされたのだ。


「依頼は早い者勝ちだからな。のんびりしてると割の良い依頼はすぐに無くなるから、朝は人が多いんだ」


 うむ、夜更かし朝寝坊なオレは、やはり冒険者には向いていない。職人ギルドにも登録したいなぁ。ただ、冒険者ギルドと商業ギルドは世界的な組織だけど、職人ギルドは国ごとに違う組織らしいんだよ。横の繋がりはあるにしても、移動する度に職人ギルドに登録し直すのも面倒だし、落ち着ける場所が見つかってからかな。


 順番がきてカウンターで手続きすると、オレの冒険者ランクがGからFにランクアップした。


「おめでとう、これでユーも、駆け出し冒険者だな」


 オレの登録名に合わせて発音を変えるヘリオスさん。あれ、今のヘリオスさんの偽名って、ヘリオースだっけ、それともヘーリオス?


「えっと、オレ、今までも冒険者だったと思うんですけど」


「Gランクはまだ見習い扱いなんだよ。Fランクで駆け出し、Eランクでそこそこ、Dランクでいっぱしって言ってな」


 ほほう、つまりオレはやっと、冒険者としてのスタートラインに立ったところか。オレのイメージする冒険者には、とてもじゃないが成れそうにないけど。まあ、リヒトさんから度々石鹸の注文が入りそうなので、冒険者としての実績は積めるから良いか。


 新しくなった冒険者カードを手に宿に戻ると、セイナはまだ夢の中だった。起こして皆で朝食を済ませ、宿をチェックアウト。町の中心部にある町長さん宅を目指す。アコちゃんとエーコさんに、お別れの挨拶をするためだ。


 アコちゃんとエーコさん、町長さん家のお嬢様に気に入られたとかで、住み込みで働くことになったのだそうだ。昨日のお話し合いの後、2人はそのまま町長さん宅に連れて行かれた。お嬢様がアコちゃんと手を繋いでルンルンで帰って行ったので、碌な挨拶も出来なかったのだ。しかもオレ、彼女達の家とスーちゃんを預かったままなんだよ。


 町長さんのお宅は、さすが伯爵様の親戚とあって、なかなかの豪邸だった。こんな素性の知れない仮面パーティは門前払いを食らいそうだけど、門番さんはオレ達を見ただけで、すんなり敷地に入れてくれた。屋敷の玄関でも、名前を告げるまでもなく招き入れられる。使用人さん達にも、オレ達のことは知られているようだ。


 応接室で待っていると、アコちゃんとエーコさんがやって来た。2人共、お屋敷のお仕着せ姿だ。


「アコちゃん、かわいいー!」


 セイナがピョンッとソファから飛び降りて、アコちゃんに駆け寄り抱きついた。アコちゃんが着ているのはメイド服、秋葉原界隈で見掛けるフリフリではなく、黒いロングワンピースに白いエプロンとヘッドドレスのクラシカルな装いだ。うん、可愛い。

 セイナとアコちゃんの可愛い二重奏に意識が持って行かれていると、ヘリオスさんに小突かれる。そうだ、用事があって来たんだったよ。軽く挨拶を交わしてから本題へ。


「エーコさん、預かっているお家なんですけど、何処にお返しすれば良いですか?」


「それですけどね。良かったら、ユウさん達に貰って頂けたらと」


 えっ、家を? 


「あたし達はお屋敷に住まわせて頂きますんでね。あんなボロ屋で申し訳無いですけど、治療費代わりに」


 いやいや、治療費なんて要らないですけどね。それにエーコさん達の家は、多少古くとも細々と手入れの行き届いた優良物件だ。自分達で住まなくても、賃貸に出すとかして活用すれば良いのに。

 しかしエーコさんは、是非とも貰ってくれという。せめて買わせて欲しいとも提案してみたが、お金は頑として受け取ってもらえなかった。


「ユウ、貰っとけ。タダであの怪我の治療をされたとなると、エーコさんも落ち着かないだろ」


 とヘリオスさんにも言われたので、家はオレ達のものに。一度お庭に出させてもらって、服や小物など必要な物だけ、エーコさんとアコちゃんが引き取ることになった。


 2人が家から荷物を運び出している間、オレは考えた。治療費にしたって貰い過ぎだ。でもエーコさんは何も受け取ってくれない。だったらアコちゃんに、追加で何か渡そう。


「アコちゃん、ちょっと来て」


 絵本を抱えたアコちゃんを手招いて、まずはマフラーを首に巻く。セイナと一緒にアコちゃんが指編みしていた物を、昨夜マフラーに仕立てた物だ。ポンチョにするには面積が足りず、編み足す時間も無かったので、組紐の花飾りを付けてみた。

 それから、これは追加分。


「アコちゃん、手を出してくれる?」


 差し出された小さな左手を、膝を付いて恭しく捧げ持つ。さっき急いで作った折り紙の指輪を目算でサイズ直しして、アコちゃんの左手の中指に嵌めた。


「お姫様、こちらは魔法の指輪です。辛い時や悲しい時、この指輪に祈ると、幸せを運んできてくれます」


 ピカッ!


「……ユウお兄さん、これって」


「セイちゃんとお揃いの指輪だよ」


 アコちゃんの指には、ピンク色の石のついた銀色に光る指輪。初めてオレの『ごっこ遊び』スキルが発動した時に、セイナの指輪を作った銀色の折り紙が半分残っていたので。あの時と同じく金属に変化した指輪を見て、セイナがネコさんポシェットから自分の指輪を出して、指に嵌める。


「見て! セイとアコちゃん、お揃い!」


「ホントだ、お揃いだね!」


「うん! これがあればね、また一緒に遊べるからね!」


「そうなの?」


「うん、だって、これ魔法の指輪だもん!」


 小さな手を並べてお互いの指輪を見せ合い、笑い合うセイナとアコちゃん。異世界での初めてのお友達とのお別れは、笑顔でできたセイナだった。

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