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字面だけ見ても怖いよね

「ユウ君、昼間の契約魔法について、洗いざらい教えてくれますね?」


 アステールさんに迫られて手元が狂い、オレは危うくせっかく錬成した石鹸を落としてしまうところだった。


「後にしてもらえますか? 今、凄く忙しいの、見てわかりますよね?」


 長さ1メートル、直径5センチメートル程の石鹸を床に置き、アステールさんをあしらう。オレは今、本当に忙しいのだ。原因はオレ指名の緊急依頼。依頼主はリヒトさん。


「明日までに石鹸を100個、作らなきゃいけないんですからね。邪魔しないでください」


「手伝いますから。手は忙しくても、口は暇でしょう? 検証したいなんて言いませんから、ね?」


 甘えた声でお願いしてくるアステールさん、諦める気無いな。声に乗っている魅了効果が、普段より強力だ。まったく、もう、仕方ないな。

 オレは錬成しては床に転がしてある、棒状石鹸を指差した。


「これ、輪切りにしてください。何が聞きたいんですか」


 アステールさんが笑顔を輝かせながら、風魔法で石鹸を輪切りにし始めた。


 なんとか修羅場を潜り抜け、大人のお話し合いも終了して宿に戻ろうとしたところ、オレは伯爵様に呼び止められた。伯爵様、オレ達のことを冒険者ギルドに問い合わせたそうで、その回答と共にオレへの伝言を頼まれたのだとか。伯爵様をメッセンジャーに使うとか、リヒトさん、何て事してくれてんの。緊張で胃が痛くなったでしょ!

 しかも、明日には東レヌス商会の人が石鹸を受け取りに来るんだってさ。納期が1日なんて、とんだタイトスケジュールだよ。カービングは可能な限りで良いってことだけど、オレの『ごっこ遊び』は1回につき1個ずつしか錬成出来ないんだぞ!


 オレは新しい木材を、ジェイドに手伝ってもらって石鹸に錬成した。錬成素材どうすっかなーと考えてた時に、目についた材木屋で売っていた白木の棒だ。1本錬成して輪切りにすれば、普通サイズの石鹸が20個は作れる。ついでだから多めに作っておこうと、木材は10本買ってきた。


「ユウ君、終わりましたよ」


「早っ!」


 あっという間に割り振った仕事を片付けたアステールさん、ニコニコと話を催促してくる。オレは、材木屋で調達したカービングナイフで石鹸を加工しながら、ぽつぽつと話し始めた。


「教えるといっても、あの契約魔法はぶつけ本番だったんで、正直何も分からないんですよ」


「ですが、セイちゃんが契約魔法を使えることは、知っていたのでしょう? それにフェリペを脅していましたよね、嘘をついたら如何なるかと」


「あー、実は、契約魔法が使えるかどうかも、賭けだったんですよ。使えそうだなーとは思ってたんですけど」


「どういう事ですか?」


 「アステールさん、近い近い。オレ刃物持ってるんですよ、危ないですから離れてください」


 アステールさんの美麗なお顔のどアップは心臓に悪い。おまけに圧が強いので、適切な距離まで離れてもらう。


「ええと、何から話せば良いかな。そもそもの発端はですね、水樽の運搬を請け負った時に、魔法契約の書類が光ったのが気になって。ジェイドに、光れば何でも光魔法って聞いてたんで、契約の魔法って光魔法なのかなと思いました」


「その通りです。契約魔法は光魔法の一種ですね。魔法契約は、教会に所属する聖者が契約魔法を付与した、特殊な用紙を使って結ぶものです」


 おお、やっぱり。乗り合い馬車んとこの会頭さんが聖者なのかともチラッと考えてたけど、契約用紙が特別なのか。光魔法の付与、そういえば、浄化魔法を付与したトイレがあるってジェイドが言ってたもんな。


「次に、あれっ? て思ったのは、ジェイドがセイちゃんの伴侶になってるって知った時ですね。結婚式ごっこはしましたけど、如何して本格的に結婚した事になってるんだって考えてて、そういえば結婚も契約っていえるなと」


「なるほど……婚姻の届け出も、貴族ですと契約魔法を付与した用紙を使いますね。王族の結婚となれば、聖者や聖女が立ち会いますし」


「セイちゃんとジェイドの結婚式ごっこ、オレが神父さんの役だったんですよ……」


「それは、正式な結婚式だと認められそうですね」


 アステールさん、楽しそうですね。オレは思い出してちょっと悲しい気分になってるのにさ。いやジェイドがセイナの夫であることには、不満は無いんだよ。ただ、花嫁の父の気持ちが湧き上がってくるだけで。

 結婚式ごっこをした時、2人の指輪が光って変化しただけだと思っていたけれど、こっそり契約魔法も発動してたんじゃないかなと、後から思った。ただ、それがオレの能力か、セイナの能力かは判別出来なかった。


「そんな訳で、オレかセイちゃんが契約魔法を使えるんじゃないかなーとは思ってたんです。だけど試してみる機会もなくて、すっかり忘れてたんですけどね」


「あの場で使っていた呪文、あれは何ですか?」


「指切りげんまん、ですよね。あれはオレ達の故郷で約束事をする時の、掛け声というか、(まじな)いというか。ちょっと怖い謂れがあるんですけど、子どもでも知ってる言葉で契約に関するものって、あれしか思いつかなくて」


 指切りは字面だけ見ても怖いよね。「指を切る」「拳骨1万回」に、嘘をついたら「裁縫針を千本飲ます」なんて、厳罰が過ぎるよ。だけどフェリペさんは口が軽そうだから、絶対に約束を破れないように、厳しい罰則を科したほうが良いかと思って。慣れない脅しまでかけたのに、即罰則が発動する事態になるなんてね。セイナが「針千本」を「ハリセンボン」だと勘違いしてくれてて良かったよ。


 そんな話を聞いたアステールさんは、若干顔を引き攣らせていた。


「そんな恐ろしい契約が、ユウ君の故郷では日常的に行われているんですか」


「いや別に、実際に罰を与える事は、ほとんど無くてですね」


「でも子どもでも知っているほど、普及している契約なんですよね?」


「確かに子ども同士の約束でも使いますけど、子どもは意味を知らないことも多いんで」


「知らずに使っている方が危険じゃないですか」


「だから、オレ達の故郷には魔法とか無いんで。約束破って口からハリセンボンな事にはならないんです!」


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