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はいアウト

 最寄りの集落は、湖の畔にある小さな町だった。近くに闇狼が出るからか、町の規模にしては堅牢な壁が周囲を囲んでいる。門を潜る時、一行を代表してヘリオスさんが身分証を提示しようとしたのだが、その前に門兵が顔見知りに気付き、声を掛けてきた。


「おっ、フェリペ、また来たのか。熱心だな」


 フェリペさんはヘラヘラと愛想笑いを返す。


「その人達は助っ人か? お嬢様が」


「ああっと実は急いでましてその話はまた今度お願いします、通って良いですよねそれでは!」


 強引に話をぶった切られて怪訝な顔の門兵に、ヘリオスさんが言う。


「すまないが、医者のところに案内してもらえるか? この人、足を怪我しててな」


「そうか、そりゃイカンな。付いて来な」


 親切を装って逃げ道を塞ぎ、ヘリオスさんが馬を引く。ぴったり寄り添って離れないエーコさんと共に、フェリペさんはドナドナされていった。


 さて、オレ達は馬を宿に預け、フェリペさんが連れて行かれた診療所近くの飯屋に陣取った。窓際に席を取り、少しだけ窓を開けるアステールさん。オレは向かいの席の子ども達と相談し、料理を注文。大皿料理がテーブルに並ぶ頃、ヘリオスさんが合流した。


「アズ、そのまま見張りを頼む。俺は情報収集してくる」


 ヘリオスさんは料理をかっ込むと、再び外へ。大活躍だな。オレは子ども達にご飯を食べさせて、支払いを済ませ、いつでも飯屋を出られるようにしておく。アコちゃんの食欲が無いのが気になるが、サンドイッチを包んでもらったので後で渡そう。エーコさんのも要るな。フェリペさんのは……オレが奢ってやる義理はないか。


「ユウ君」


 アステールさんが静かに立ち上がったのは、追加で頼んだスコーンが提供されてすぐだった。慌てて席を立ってアステールさんを通し、スコーンをアイテムボックスに放り込んで後を追う。診療所を出てきたフェリペさんを捕まえて、宿に引っ張っていくのがオレ達の役目だ。


「フェリペさん!」


 オレが呼び掛けると、ギクリと身を竦ませるフェリペさん。片足は包帯で、大袈裟なほどにぐるぐる巻きにされている。これなら走って逃げられないな。


「怪我、大変そうですね。荷物持ちますよ。宿はエーコさん達と一緒で良かったですよね、今日は奥さんと子どもさんと、家族水入らずで過ごしてください。さ、行きましょう!」


 口を挟む隙を与えず、ササッと荷物を預かって、周囲への喧伝のために大きな声ではっきりと話す。奥さんと子どもさん、の部分を特に強調してやった。フェリペさん、表情が取り繕えていませんよ?

 オレとアステールさんとで前後を挟み、宿の部屋までフェリペさんを護送。エーコさんとアコちゃんも、同じ部屋に宿泊する。オレ達と別れ、両親と部屋に入るアコちゃんは元気がなかった。アコちゃん、せっかくお父さんと再会出来たのに、ちっとも嬉しそうじゃない。


「アコちゃん、オレ達は隣の部屋にいるからね。何かあったら、何時でもおいで」


 気になって声を掛けると、アコちゃんはちょっとだけ、笑顔を見せてくれた。


 ヘリオスさんが部屋に戻ったのは、夜もだいぶ更けてからだった。セイナはとっくに夢の中なので、残る4人で情報共有の時間だ。


「フェリペさんだがな、ここの町長の一人娘に熱を上げて、通い詰めているらしい。近々プロポーズすると言っていたって証言が、いくつも取れた」


 はいアウト。既婚者で子持ちのくせに、何やってんだよ。


「この国では、平民の重婚は認められていませんね」


 オウ、この国ではってことは、重婚可能な国もあるのか。そして平民のって限定してるってことは、貴族は奥さん複数人可なのか。


「そこなんだが。実は聞き込みしてる時に、町長の弟だって人に話し掛けられて。その人が言うには、フェリペさんは未婚だと」

 

「え? それはフェリペさんが嘘ついてるだけなんじゃ」


「いや、教会の婚姻関係の記録も調べたらしい。その結果、フェリペさんが結婚している事実はなかったと言われた」


「では、エーコさんの方が嘘をついていると?」


「俺はそうは思わない。エーコさんも騙されてるんじゃないか? どうもあのフェリペって奴は、嘘吐きの臭いがする」


 オレも同感だった。フェリペさん、言動が何となく胡散臭いんだよ。人当たり良く振る舞う裏で、品定めされてるように感じてた。商人の抜け目なさというよりは、悪人が獲物を物色するような。


「それでな、町長の弟さんに、協力要請された。フェリペの化けの皮を剥がすのを手伝って欲しいってな」


「具体的には、何をするのですか」


「フェリペの足留めだ。奴とエーコさん達が一緒の所に、町長の娘を連れて乗り込みたいらしい」


 修羅場に巻き込まれるの決定じゃん。いや知ってたけど。逃れられないとは思ってたけど。


「あのー、それをやると、エーコさん達が傷付くんじゃ」


「だろうな。知らないほうが幸せって事もある。だけど、もう旦那を信用出来ないだろ? この際だからフェリペの本性を暴いて、引っ叩くなり慰謝料ぶん取るなりしたほうが、スッキリしないか?」


 キィ、と微かな音を立て、扉が開く。廊下にはエーコさんとアコちゃんが2人で寄り添って立っていた。


「え!? いつから其処に」


「俺が戻って来て直ぐだ。フェリペは寝てるのか?」


 部屋に招き入れ、毛布を手渡すヘリオスさんに会釈しながら、エーコさんは事も無げに言った。


「グッスリです。一服盛りましたから」


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