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不穏だなーとは思ってた

 滝を落ちて3日。皆仲良しお揃いペンダントでのご機嫌取りに成功し、なんの憂いもなくなったオレ達は、街道を西へと進んでいた。相変わらず魔物との遭遇率はゼロに近く、ここ3日間で確認された魔物はオレの背中でチャプチャプ泳ぐスーちゃんのみ。誰由来かは知らないが、安定の回避能力だ。


 しかし、どんなに優秀な能力にも限界はある。先頭のアステールさんが片手を挙げて合図をくれたので、オレ達一行は馬の足を止めた。ヘリオスさんが脇を通り抜けてアステールさんの傍に赴き、二言三言言葉を交わすと、猛然と走り出す。アステールさんは馬首を廻らせてオレの隣まで引き返してきた。


「この先で襲われている人が居るようです。ヘリオスだけで対処出来そうですが、ユウ君、テントをすぐに出せるよう、準備だけはお願いします」


 ここにきて初めての、敵モンスターとのエンカウントである。オレはアイテムボックスに手を入れて、テントを掴み、即座に取り出せるよう体制を整えた。新たにスライム耐性を付与してグレードアップしたテントだ、ドンと来い!


 そのまま緊張の数分が過ぎて、オレの手が怠さを訴え始めた頃。風魔法で周囲の様子を窺っていたアステールさんが、ほっと息をつき、肩の力を抜いた。どうやら新生テントの出番は無さそうだ。


 さらに数分後、戻って来たヘリオスさんは、一人の獣人を連れていた。毛の生えたスラリとした体、小さくて丸い耳につぶらな瞳。襲われて怪我をしたのか、片足を引きずって歩くのを、ヘリオスさんが支えている。

 獣人さんは、オレ達と合流するとヘラリと笑い、ペラペラと喋りだした。


「いやー、お仲間さんのお陰で命拾いしましたよ、花を摘むのに夢中になってたら闇狼どもに囲まれてしまいましてね、慌てて木の上に避難したんですが、狼どもが諦めず木の周りをウロウロしていて逃げるに逃げられず、途方に暮れている所にこちらの旦那が来てあっという間に闇狼を全滅させてくれました。そりゃもう惚れ惚れする腕前で、さぞや名のある御方だとお見受けしますが、どちらのお国の騎士様で、それとも高ランクの冒険者様でしょうかね、ああぼくはしがない商人でして、フェリペと申しますお見知りおきを」


 怒涛の勢いで喋ったフェリペさんに圧倒され、オレの頭にはお名前しか残らなかった。他の面々も似たりよったりの反応で、セイナとジェイドはポカンとし、ヘリオスさんは中途半端な笑顔で固まり、アステールさんは無。しかし、エーコさんの反応だけは、オレ達と全く違っていた。


「……フェリペ?」


 トールの背中にアコちゃんを残し、エーコさんは転がるように地面に降りる。サッと手を貸したヘリオスさんを押し退けて、エーコさんはフェリペさんに駆け寄り、その手を取った。至近距離で顔を合わせ、エーコさんはボロボロと涙をこぼし始めた。


「フェリペ……ああ……ホントに生きてた……」


「え? えーと、あんたは」


「エーコだよ、あんたの嫁の! 忘れたなんて言わないよね?」


「まさか! 覚えてる、ちゃんと覚えてるさ! 当たり前じゃないか!」


「ああ、フェリペ!」


 感極まってフェリペさんを抱き締めるエーコさん。どうやらフェリペさんは行方不明だというエーコさんの旦那さんらしいのだが、フェリペさんが目に見えて挙動不審になったことといい、ひしひしと嫌な予感がする。


 いや、初めに話を聞いた時から、不穏だなーとは思ってたんだよ。だって何年も妻子を放ったらかしで帰って来ないってさ、どんな状態? 単に行方不明ってだけなら、幽閉されてるとか亡くなってるとか怖い人に目を付けられて身を隠してるとか記憶喪失とか、色々と理由はありそうだけど。目撃されたのが本物の旦那さんだとしたら、如何して連絡ひとつ寄越さないのかってね。


 だけど、アサド国に着いたら解散する予定で、旦那さん探しを手伝うつもりも無かったから、深く考えないようにしていた。たぶんヘリオスさん達もオレと同じで、旦那さんの名前とか特徴とか、あえて聞かないようにしてたのに。

 なんでこんな所で出会うかなー……。


 泣きながら再会を喜ぶエーコさんと、エーコさんを抱き返しもせず、どころか逃げたそうに腰が引けているフェリペさん。両親の反応のちぐはぐさに、不安げな顔のアコちゃん。エーコさんだけなら、旦那さん見つかって良かったですね、オレ達はここでって立ち去れるんだけど。


 ヘリオスさんが馬上で取り残されているアコちゃんを抱っこし、アステールさんの馬に乗せ換える。そして、トールの傍に戻る途中、オレに囁いた。


「フェリペさんが持ってた花、ピンクのガーベラだった」


 花といえば桜かチューリップくらいしか思い浮かばないオレが、首を傾げると。


「プロポーズでよく使われる花だ」


 パリピゴリラが脳裏で踊る。修羅場の予感しかしない!

 顔が引き攣ったオレの肩を叩き、ヘリオスさんが流石の冷静さでもって、ご夫婦に声を掛けた。


「こんな所で立ち話もなんだし、ひとまず近くの集落まで行かないか? この馬を夫婦で使うといい」


「え、ああ、そうですね。ありがとうございます。すみません、感極まってしまって」


 エーコさんが笑顔を返す傍らで、フェリペさんが両手を突き出しブンブン振って、遠慮する。


「いやいやそこまでご迷惑をお掛けするのは心苦しいので、ぼくは自分で歩いていきますからどうぞお気遣いなく」


「その足で歩けるのか? それに、また闇狼に襲われたりしたら、一人じゃ如何にもならないだろ。早く医者にみせるためにも、さっさと乗ってくれ」


 ヘリオスさん、何逃げようとしてんだ逃がさねーぞこの野郎、って副音声が聞こえますが。笑顔が獰猛なんですが。怖いよ。

 トールもヘリオスさんの意を汲んで、フェリペさんの襟首を咥えてポイッと放り投げ、無理矢理背中に乗せている。ヘリオスさんとトールの武闘派コンビに睨まれて、フェリペさんも観念したらしい。トールの背中で大人しくなった。


「よし、行こうか」


 ヘリオスさんの号令で、修羅場を目指して出発! い、胃が……。



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