兄弟喧嘩に耐性が無くて
今日は1日忙しかった。午前中は料理、午後からはお菓子作りを、チビビーバー達を指揮しながらひたすら熟した。合間合間にレイちゃんに歌を歌い、全員の昼食とおやつも忘れずご提供。ほぼ台所で立ちっぱなしの1日だった。
その甲斐あって、料理やお菓子のストックはかなり充実した。台所をお借りしたお礼を料理で支払ったので、野菜メニューばかりが増えたけど。お菓子も、なるべくバターや卵を使わずに作ったので試行錯誤を繰り返した。特にクッキーは、小麦粉と砂糖と植物性油だけの生地で作ったので、調整が大変だった。
そうして苦労して作った手作りクッキー、でも手元に残るのは半数程度だろうか。お兄ちゃんビーバー作の丸台の出来によって、支払いにプラスする約束だからね。オレは完成した丸台を手に、仕上がりをチェック中だ。
「どう? 我ながら、すごーくいい出来だと思うんだけど」
「そうそう、オイラ達の作った椅子、会心の出来だと思うんだけど」
ビーバー兄弟、丸台を椅子だと思ってるんだ。そういえば何に使う道具か説明してなかったな。道理で製作途中で、余計な装飾とか付けようとしてたはずだよ。
その都度オレの所にやって来ては「これを付けたらカッコイイ」だの「改造して良いよね、やって良いよね」だの言ってたから、却下しまくった。要らんことせず設計図通りに作らないと、報酬無しだぞって何度も念押ししといて良かった。でなきゃ「おいらの考えた最高にカッコイイ背もたれ」とか付けられて、丸台として使えなくなっていたに違いない。
「うん、オレもいい出来だと思う」
丸台は歪みもなく、全体にヤスリをかけてあるのでツルツルで、丁寧な仕上がりだ。この子達、腕は良いんだな。木材を前歯で噛りだした時は驚いたけど。大まかな削り出しが終わってからは、前歯じゃなくて道具を使って製作していたが、後でセイナに『きれいきれーい』してもらおう。一応ね、売り物を作るのに使うからね。
「じゃあ、報酬の上乗せ、有りだよな?」
「クッキー貰えるよな?」
期待に満ちた目の前に、袋に入れたクッキーをぶら下げる。人参クッキーとナッツのクッキーだ。もちろん袋は2つだし、枚数も数えてきっちり同じにしてある。喧嘩になるからね。
それからチビビーバー達もお手伝いを頑張ってくれたので、クッキーの袋をそれぞれ渡す。こっちはお兄ちゃんビーバー達よりも、少しだけ小さめのクッキーだ。枚数は同じ。
「あ! なんでチビ達もクッキー貰ってんだよ!」
「ズルいぞ、寄越せよ!」
「こら、横取りしない! この子達もいっぱいお手伝いしてくれたから、クッキー貰う権利があるの!」
「「ええー!!」」
不満顔のお兄ちゃんビーバー達が、チビビーバー達を小突きはじめる。チビ達も負けずにやり返すので、次第にエスカレートして、取っ組み合いの喧嘩になりそうだ。ちょっとこれ如何すれば良いんだよ、下手に手を出して巻き込まれたくないんだけど。
兄妹喧嘩なんてしたことが無いオレには如何しようもなくて、頭を抱えた、その時。
「コラーッ! あんた達、いい加減にしなさい!」
甲高い怒鳴り声にビーバー兄弟が身を竦めた、その一瞬で、5人の頭にゲンコツを落とした救世主。
「「「「「母ちゃん!」」」」」
はじめまして、お邪魔しております。お加減はいかがですか?
「全く、お客様の前で何やってんだい。喧嘩になるならその袋、没収するからね! すみませんねぇお客様、躾がなってなくて。よく言って聞かせますんで、勘弁してやってくださいな。それから、あれこれと親切にしてくださって、ありがとうございました」
あっという間にビーバー兄弟を大人しくさせたお母さんビーバーの手腕に、オレは脱帽したのだった。
お母さんビーバーの体調が戻ったというので、夕食は別々に食べることになった。ビーバー兄弟はブーブー文句を言ってたけれど、お母さんビーバーが一喝。
「あたし等と一緒じゃ、お客様が肉や魚を食べらんないでしょ!」
そうなんだよ、オレはともかくヘリオスさんやアステールさんが物足りなさそうなんだよ。ベジタリアンな食事メニューって、主菜が思い付かなくて。豆腐があれば豆腐ハンバーグとか豆腐ステーキとかも作れるけど、この世界でお豆腐にはお目に掛かっていない。醤油っぽい調味料や麦味噌はあるのにね。
病み上がりのお母さんビーバーが少しでも楽できればと、スープとサンドイッチは渡しておく。ついでにお兄ちゃんビーバーが忘れているカレー用のスパイスも預けて、オレ達は早々にテントに避難した。嵐から逃げる気持ちだよ。男兄弟って、あんなに激しいものなの?
それに比べてウチの子達の仲良しぶりったら。今夜はオムライスにしたんだけど、セイナの大好物だと知って、ジェイドが分けてあげている。お返しにセイナが、付け合わせのベーコン巻きをジェイドのお皿へ移す。なんて和やかな食卓。心が洗われる……。
「ユウ君、お疲れですね」
「兄弟喧嘩に耐性が無くて」
「ユウとセイちゃんだと、喧嘩にならないだろうな。だけど年齢が近くて同性だと、色々あるんだよ」
ヘリオスさんの言葉に、やけに実感がこもっている。
「ヘリオスさん、それって実体験ですか?」
好奇心でソワソワしているオレに、ヘリオスさんは、彼にしては珍しくシニカルに笑った。
「そうだな。俺んちは複雑なご家庭ってヤツだったから。色々、については、そのうち気が向いたら話してやるさ」




