表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/62

ビーバー兄弟

 小さなビーバー達は、船長さんのお子さん達だった。セイナより小さい子が3人と、ジェイドより大きな子が2人。船長さんと同じ半裸ズボン姿の子どもばかりだ。男の子5人なんて、子育てが大変そうだな。

 子ども達に蜂蜜バターポテトを食べさせても良いか尋ねると、船長さんがペコペコと頭を下げた。


「ありがとうございます、バターも蜂蜜も少なめでお願いできますか」


「蜂蜜、ちっちゃい子達は大丈夫ですか?」


 人間だと、1歳を過ぎるまでは蜂蜜食べさせちゃダメだからな。ボツリヌス菌がいけないんだっけ。チビビーバー達、走り回ってるから1歳は過ぎてると思うんだけど。


「この子達はもう平気です。すみません、お客様がいらっしゃる間は、奥から出て来ないように言い聞かせてたんですが」


「2日もあるんで、ずっと狭い場所に居るのは辛いでしょ。レインボーダンスフラワーに近寄らなければ大丈夫ですから」


 これだけは、お仕事だからね。レインボーダンスフラワーを突付こうとしていたチビビーバー達を、お兄ちゃんビーバー達が即座に抱えて遠ざけた。


「「お前ら、大人しく出来るよな?」」


「「「うん!」」」


 こうしてオレの任務に、ビーバー兄弟のお守りが加わった。


 新しく作った蜂蜜バターポテトをテーブルに置くと、あっという間にスキレットが空になる。ビーバー兄弟、とてもお腹が空いているらしく、競って自分の皿にポテトを取る様子はまさしく奪い合い。その激しさに圧倒され、セイナとジェイドが参戦出来ていない。セイナとオレはおやつは仲良く半分こだし、ジェイドもひとりっ子だからね。おやつ争奪戦なんて初めてだよね。


「こら、喧嘩しない! 仲良く分けられないなら、もう作ってやらないからな!」


 追加のポテトを人質にすると、やっとジェイドが参戦できる程度に落ち着いた。だけどテーブル下での妨害合戦は続いているので、セイナは相変わらず手を出せず、ジェイドが2人分を確保してくれている。ジェイドが戦利品をセイナにアーンして食べさせてるけど、今回だけは許す。あくまでも、今回だけだからな! 


 何度もポテトを追加して、買い置きの焼き芋が尽きる頃になって、ビーバー兄弟はやっと全員が満腹になったようだった。男の子兄弟の食欲が、オレの想像を超えていた。


「兄ちゃん、ありがとう! 美味かった!」


「ごちそうさまっ!」


「母ちゃん寝込んでるから、ろくなモン食ってなかったんだ」


「えっ、そうなの?」


 ビーバー兄弟が口々に話してくれたことには、数日前からお母さんビーバーが病気で、お兄ちゃんビーバー2人がご飯を作っていたらしい。だけど普段全く料理をした事がなかったので、出来上がった料理は味が無かったり火が通ってなかったりと、頑張っても食べるには厳しい代物だったのだそうだ。


「兄に達の料理、美味しくなーい!」


「ああ? 嫌なら食うなよ!」


「はいはい、喧嘩禁止! ちびっ子達も、人が作ってくれた料理に文句を言わない!」


 作ってもらえるだけ有り難いんだぞ? 上膳据膳なんて、贅沢なんだからな?


「兄ちゃんの料理は美味しいから、文句言わないよな!」


「「「うん!」」」


「夕飯も、兄ちゃんの料理が食べたいよな!」


「「「うん!」」」


 おおっとー、お兄ちゃんビーバー達が、オレに夕食作りを押し付けようとしているぞ? 自分達で作るのが面倒くさいからって、お客様に丸投げは駄目だと思うなぁ。

 だけど、この様子だと、お母さんビーバーもゆっくり寝ていられないだろう。というか、お母さんビーバーこそご飯食べてないんじゃないか?


「わかった。キミ達が台所を綺麗に片付けて使えるようにしたら、夕食作りを手伝ってやっても良い」


「「やった!」」


「ただし! オレは手伝うだけだからな! メインで手を動かすのはキミ達だから。もちろんちびっ子達も、お手伝いすること!」


「「「ええーっ!」」」


「ええーっ、じゃない! オレの国では、働かざる者食うべからずって言ってな。仕事しない人にはご飯はあげません」


「横暴だ!」


「何とでも言え。オレはキミ達の親でも兄ちゃんでも無いんだからな。ほら、早く台所を片付けないと、夕飯に間に合わないぞ?」


「……わかったよ。ほらチビども、台所に行くぞ」


 ビーバー兄弟が渋々奥に引っ込もうとしたので、オレはお兄ちゃんビーバーの1人を捕まえて、お椀に入ったスープを手渡した。


「これはお母さんに。野菜だけのスープだから。無理して食べなくても良いけど、食べられるようなら食べさせてあげて。あ、お母さんが挨拶とかお礼とかしに起きて来ようとしても、気にせず寝とくように言っといて」


「ありがと……」


 ビーバー兄弟が居なくなると、部屋がとても静かになった。ホッと息をつくと、セイナがジェイドの膝から下りて、オレに駆け寄り、両手を広げて抱っこをせがむ。


「セイちゃん、どうした?」


「……お兄ちゃんは、セイのお兄ちゃんだもん」


「うん、そうだよ?」


 オレの膝によじ登り、ギュッと首にしがみついてくるセイナ。至福。


「セイちゃん、あの子達が戻って来る前に、レイちゃんにお歌歌ってあげよっか」


「……うん……」


「セイちゃんは兄ちゃんと兄妹だから、他の人が知らない歌も、セイちゃんとなら一緒に歌えるもんね」


「……うん」


「ジェイド、さっきはセイナを助けてくれて、ありがとな。ジェイドもしっかりデザート食べられた?」


「ボクは、最初の時に食べました」


 ホントかな。最初に出した蜂蜜バターポテトも、あの子達に奪われてない?


「ジェイドはね、ちょっとしか食べてなかったよ」


 ほら、やっぱり。

 ウチの良い子達には特別に、バターケーキを半分こして食べさせる。ビーバー兄弟には内緒だ。


 それからオレ達は、台所を片付けたビーバー兄弟が突入してくるまで、平和に穏やかに、歌を歌って過ごしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ