ビーバー兄弟
小さなビーバー達は、船長さんのお子さん達だった。セイナより小さい子が3人と、ジェイドより大きな子が2人。船長さんと同じ半裸ズボン姿の子どもばかりだ。男の子5人なんて、子育てが大変そうだな。
子ども達に蜂蜜バターポテトを食べさせても良いか尋ねると、船長さんがペコペコと頭を下げた。
「ありがとうございます、バターも蜂蜜も少なめでお願いできますか」
「蜂蜜、ちっちゃい子達は大丈夫ですか?」
人間だと、1歳を過ぎるまでは蜂蜜食べさせちゃダメだからな。ボツリヌス菌がいけないんだっけ。チビビーバー達、走り回ってるから1歳は過ぎてると思うんだけど。
「この子達はもう平気です。すみません、お客様がいらっしゃる間は、奥から出て来ないように言い聞かせてたんですが」
「2日もあるんで、ずっと狭い場所に居るのは辛いでしょ。レインボーダンスフラワーに近寄らなければ大丈夫ですから」
これだけは、お仕事だからね。レインボーダンスフラワーを突付こうとしていたチビビーバー達を、お兄ちゃんビーバー達が即座に抱えて遠ざけた。
「「お前ら、大人しく出来るよな?」」
「「「うん!」」」
こうしてオレの任務に、ビーバー兄弟のお守りが加わった。
新しく作った蜂蜜バターポテトをテーブルに置くと、あっという間にスキレットが空になる。ビーバー兄弟、とてもお腹が空いているらしく、競って自分の皿にポテトを取る様子はまさしく奪い合い。その激しさに圧倒され、セイナとジェイドが参戦出来ていない。セイナとオレはおやつは仲良く半分こだし、ジェイドもひとりっ子だからね。おやつ争奪戦なんて初めてだよね。
「こら、喧嘩しない! 仲良く分けられないなら、もう作ってやらないからな!」
追加のポテトを人質にすると、やっとジェイドが参戦できる程度に落ち着いた。だけどテーブル下での妨害合戦は続いているので、セイナは相変わらず手を出せず、ジェイドが2人分を確保してくれている。ジェイドが戦利品をセイナにアーンして食べさせてるけど、今回だけは許す。あくまでも、今回だけだからな!
何度もポテトを追加して、買い置きの焼き芋が尽きる頃になって、ビーバー兄弟はやっと全員が満腹になったようだった。男の子兄弟の食欲が、オレの想像を超えていた。
「兄ちゃん、ありがとう! 美味かった!」
「ごちそうさまっ!」
「母ちゃん寝込んでるから、ろくなモン食ってなかったんだ」
「えっ、そうなの?」
ビーバー兄弟が口々に話してくれたことには、数日前からお母さんビーバーが病気で、お兄ちゃんビーバー2人がご飯を作っていたらしい。だけど普段全く料理をした事がなかったので、出来上がった料理は味が無かったり火が通ってなかったりと、頑張っても食べるには厳しい代物だったのだそうだ。
「兄に達の料理、美味しくなーい!」
「ああ? 嫌なら食うなよ!」
「はいはい、喧嘩禁止! ちびっ子達も、人が作ってくれた料理に文句を言わない!」
作ってもらえるだけ有り難いんだぞ? 上膳据膳なんて、贅沢なんだからな?
「兄ちゃんの料理は美味しいから、文句言わないよな!」
「「「うん!」」」
「夕飯も、兄ちゃんの料理が食べたいよな!」
「「「うん!」」」
おおっとー、お兄ちゃんビーバー達が、オレに夕食作りを押し付けようとしているぞ? 自分達で作るのが面倒くさいからって、お客様に丸投げは駄目だと思うなぁ。
だけど、この様子だと、お母さんビーバーもゆっくり寝ていられないだろう。というか、お母さんビーバーこそご飯食べてないんじゃないか?
「わかった。キミ達が台所を綺麗に片付けて使えるようにしたら、夕食作りを手伝ってやっても良い」
「「やった!」」
「ただし! オレは手伝うだけだからな! メインで手を動かすのはキミ達だから。もちろんちびっ子達も、お手伝いすること!」
「「「ええーっ!」」」
「ええーっ、じゃない! オレの国では、働かざる者食うべからずって言ってな。仕事しない人にはご飯はあげません」
「横暴だ!」
「何とでも言え。オレはキミ達の親でも兄ちゃんでも無いんだからな。ほら、早く台所を片付けないと、夕飯に間に合わないぞ?」
「……わかったよ。ほらチビども、台所に行くぞ」
ビーバー兄弟が渋々奥に引っ込もうとしたので、オレはお兄ちゃんビーバーの1人を捕まえて、お椀に入ったスープを手渡した。
「これはお母さんに。野菜だけのスープだから。無理して食べなくても良いけど、食べられるようなら食べさせてあげて。あ、お母さんが挨拶とかお礼とかしに起きて来ようとしても、気にせず寝とくように言っといて」
「ありがと……」
ビーバー兄弟が居なくなると、部屋がとても静かになった。ホッと息をつくと、セイナがジェイドの膝から下りて、オレに駆け寄り、両手を広げて抱っこをせがむ。
「セイちゃん、どうした?」
「……お兄ちゃんは、セイのお兄ちゃんだもん」
「うん、そうだよ?」
オレの膝によじ登り、ギュッと首にしがみついてくるセイナ。至福。
「セイちゃん、あの子達が戻って来る前に、レイちゃんにお歌歌ってあげよっか」
「……うん……」
「セイちゃんは兄ちゃんと兄妹だから、他の人が知らない歌も、セイちゃんとなら一緒に歌えるもんね」
「……うん」
「ジェイド、さっきはセイナを助けてくれて、ありがとな。ジェイドもしっかりデザート食べられた?」
「ボクは、最初の時に食べました」
ホントかな。最初に出した蜂蜜バターポテトも、あの子達に奪われてない?
「ジェイドはね、ちょっとしか食べてなかったよ」
ほら、やっぱり。
ウチの良い子達には特別に、バターケーキを半分こして食べさせる。ビーバー兄弟には内緒だ。
それからオレ達は、台所を片付けたビーバー兄弟が突入してくるまで、平和に穏やかに、歌を歌って過ごしたのだった。