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HPをふやせば

 ごっこ遊びスキルが、シレッとレベルアップしていた。

 

 うん、そうだろうなーと思ったよ。ヒーローごっこなんて、おままごとやお店屋さんごっこと並ぶ、ごっこ遊びの定番だから。男の子部門では一番人気だから。絶対に『ごっこ遊び』絡みだと、すぐに思い当たったよ。

 だけど、どうせならMPが増えるとか、物質変換の素材1つで複数錬成ができるとか、そういった方向でレベルアップして欲しかった。


 だってこの変身スキル、あまり使い道が無さそうなのだ。アステールさんが大喜びで、他の皆も進んで検証に付き合ってくれたんだけど。


「魔法に関しては、特に変化はありませんね。威力、効果範囲、発動時間、消費魔力量もいつもと変わりません」


「身体能力も、1割上がってるかどうかってとこだな」


 という残念具合。セイナの『ガンバレー』の方が、かなり効果が高いのだ。しかも見た目はそのままなので、変装にも使えない。更に制限時間付きとなれば、ますます使いどころがない。所詮はごっこ遊びか、がっかりだよ。


 実はほんのちょっと、期待したんだよね。これで変身すれば、オレも多少は戦力になれるかもって。オレ自身はたいして強くならなくても、バフ使いとして活躍出来るかもってね。だけど夢は儚く消えた。


「ごめんなさい、役に立たないゴミスキルで。進むのを中断してまで検証したのに」


 落ち込むオレの頭に、ヘリオスさんのゴツくて温かい手がポンと乗る。子ども扱いぃぃぃー。


「いやいや謝ることじゃないさ。俺は好きだぞ、この魔法。楽しいからな」


「自分と仲間の能力を正しく把握するのは、冒険者として必要なことです。それに魔法の研究は私の趣味なので。楽しかったです」


 お気遣いありがとうございます……。セイナとジェイドも、頭をポンポンして慰めてくれてありがとう……。


 皆様の優しさで、ちょっぴり気分が上向いたオレ。アステールさんの言う通り、能力の正確な把握は重要だなと、久しぶりにヒツジさんを呼び出すことにした。

 ヒツジさんお願いします、この素晴らしい仲間達のためにも、何卒ご教授頂きたく……スヤスヤ……。




 オレの真摯な祈りが届き、気づくと四畳半和室でコタツに潜っていた。コタツで惰眠を貪るという天国から体を引っ張り出し、脚だけを楽園に残して起き上がる。正面にヒツジさんの頭頂部が見える。ヒツジさんが、初めから眠ってしまっている……。


 これ、起こして良いのかな。怒られて出禁になったら困るな、如何しようか。


 迷っていると、コタツの側面の上掛けがモゾモゾと動いた。ピョコリと飛び出す小さなモフモフ。オレの手のひらサイズのミニヒツジさんが、コタツをよじ登って天板の中央に陣取り、ピョコンとお辞儀した。


 ヤダ何この可愛い生き物! オレがあまりの可愛らしさに打ち震えていると、ミニヒツジさんはトコトコとこちらに近寄って来て、オレを見上げ、頭の重さでバランスを崩して尻もちをついた。


「あっ! 大丈夫? 怪我してない?」


「はい、ダイジョーブでしゅ」


 舌っ足らずなところが、また可愛い。セイナがもっと幼かった頃を思い出す。あの頃のセイナはまさしく天使だった。セイナが自分の紙オムツを背負えるように、天使の羽付きのリュックサックを作ったのが、オレのハンドメイド歴の始まりだ。あのリュックサックを背負ったセイちゃんは、天使よりも天使だった。


 オレが思い出に浸っているうちに、ミニヒツジさんは立ち上がって、もう一度ピョコンとお辞儀する。


「はじめまちて。ヒツジ、メイでしゅ。いつもおじーしゃまがおせわになってましゅ」


「ヒツジさんのお孫さん?」


「はいでしゅ」


 ほー、そうなのか。ヒツジさんと同じヒツジ顔だけど、この子は可愛いぞ。お祖父ちゃんに似なくて良かったね。


「きょうは、おじーしゃまがねてるので、メイがおはなししましゅ」


「そうなんだ、ありがとう。お菓子食べる?」


「ごめんなしゃい。おかーしゃまにきかないと、たべちゃダメって」


 しっかりした子だな。偉いぞ。知らない人からもらった物は、安全面に不安があるもんな。相手が子どもの場合は、物をあげるほうの配慮が必要だ。アレルギーとかお家ルールでスナック菓子は禁止とか、色々あるもんな。


「じゃあ、ここに置いとくから、後でお母さんが良いよって言ったら食べてね。で、オレが新しく使えるようになった、変身スキルなんだけど。必殺技が使えたり、巨大ロボで戦えたりとかは出来ないのかな?」


 オレがヒツジさんに聞きたかったのはコレ。戦隊ヒーローといえば、必殺技と巨大ロボ! この2つ、せめてどちらか1つでも可能なら、変身スキルに利用価値が生まれる。


「できましゅよ」


「出来るの? どっちが?」


「りょうほうでしゅ」


 よっしゃ、これでオレも戦える!


「如何すれば、必殺技や巨大ロボが使えるようになるのかな」


「HPをふやせばいいでしゅ」


 HP、ヒットポイントか。走り込みとか筋トレとかすれば増えるかな。ジェイドと一緒にヘリオスさんに修行つけてもらえば……いや待て、MPがマネッコパターンだったのを思い出せ。HPも別の物の可能性があるぞ。


「メイちゃん、HPは何の略かな」


「ヘンタイパッションでしゅ」


 やっぱりー! よりによって、ヘンタイ! パッション! 変態な情熱燃やしちゃ駄目だろ! 氷漬けにして永久凍土に封印しとけ!


 あっぶねー、変身スキルって、使えば使うほど『子ども好き』レベルが下がる罠スキルなんじゃないのか? 『子ども好き』のレベル、良かったまだ現状維持だ。HPの表記はないから増減は確認出来ないが、たぶん増えていないのだろう。助かった……。


 オレは二度と変身スキルを使わないことを、固く誓った。酷いじゃないか。こんな、人生終わらせようとしてくる凶悪スキルが、知らぬ間に装備されてるなんて。

 これからは、毎日ステータス画面をチェックしよう。新たな能力に目覚めた場合も、すぐに使って検証するのは止めて、ヒツジさんに説明を聞きに来よう。


 それにしても、異世界、なんて恐ろしいところなんだ……。

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