全体的に派手
右手を挙げて合図して、オレは走り出した。長めの助走からの踏み切りはタイミングバッチリで、オレの体は宙を跳び、パシャン、トトトッと着地を決める。よしっ、無事に国境を越えた! オレ達を召喚しやがった聖王国め、永遠にサヨナラだ!
「ユウ、気が済んだか?」
ヘリオスさんに笑われたが、国境越えは自分の足で成し遂げたかったのだ。元の世界では海外旅行なんて経験なかったので、人生初の国境だ。可能なら右足と左足で違う国〜とかやってみたかったけど、国境になっている川は幅3メートルほどで、オレの股を裂いても両岸に届きそうになかった。だから走り幅跳びの要領で跳び越えたのだ。
飛距離がちょっぴり足りなくて、水際に着地してしまったけど。ブーツとズボンが濡れたけど、でも、如何してもやりたかったので満足。
他の皆はもちろん馬に乗ったまま越えていた。ヘリオスさんなんて、馬をフワアッと跳ばせて余裕で川を跳び越えてた。なんて格好良いんだ、チクショウ。
「おーい、ユウ、置いてくぞー」
「あ、ちょっ、待って! ロキ! 戻って来ーい!」
国境を越えたといっても、ガラリと景色が変わるなんてことは無い。サウスモアは国土の半分以上が、ここと似た地形らしい。起伏のある草原が広がる国で、牧畜が盛ん。ロキ達も、元は放牧されていたのが逸れて野生化したんじゃないだろうか。
「お馬さんはみんなーパッパカ歩くー」
セイナのご機嫌な歌声が流れてくるなか、アステールさんが馬を寄せてきた。
「ユウ君、貴方もそろそろお面を着けてください。街道は外れていますが、他の冒険者や羊飼いに出くわすかもしれません」
そう言うアステールさんは、既に鶏の仮面を装着していた。仮面というより被り物と言った方がしっくりくるそれは、アステールさんの頭部をすっぽり覆い隠し、造りの精巧さも相まって、鶏獣人かと見紛うほどだ。その下には鮮やかな紫色のケープ。人目を引くが、アステールさんの本来の姿は巧妙に隠れている。
ヘリオスさんは鎧兜を脱いで軽装になっているが、代わりに黄色のケープを左肩から斜めに掛け、ベルトで留めている。バスターソードはオレのアイテムボックスに仕舞い、武器は腰のショートソードのみ。顔を覆うワンコ仮面は垂れ耳である。オレの青髪ウイッグで燃える赤髪と猫耳を隠しているが、ウイッグが浮くので、更に黄色いバンダナを巻いて押さえている。
同じように猫耳を隠すジェイドのバンダナは緑色。ケープも緑色の大判のを羽織り、肩で結んでいる。獅子だったお面はたてがみを削って無事「猫のような何か」に変身した。ジェイドが良しとしているので、あれで良いのだろう。
セイナのケープはオレンジ色。一人でお着替え出来るように、ボタンとボタン穴を付けてやった。白猫の仮面は、猫の顔に石膏を押し付けて象ったような立体的なもので、ウィスカーパッドの下までしかない。口の部分は素顔なので、飲み食いは楽だがセイナの可愛らしさが見つかってしまう。後でマフラー巻いて隠さなきゃ。
そしてオレは、赤いケープの馬仮面。このパーティ、全体的に派手。目立つ。何というか、これは……。
「音楽戦隊『ブレーメン』?」
ピカーッ!
「え、何だ? 何が光った?」
「何事ですか!」
ヘリオスさんとアステールさんが臨戦態勢になる中、オレの視界の隅には宙に浮く数字が現れた。「180」から1つずつカウントダウンされてゆく、半透明な数字。何だこれ?
「すみません、オレの能力が発動したみたいなんですが、何かは解らなくて」
「自分の能力なのに解らないのか?」
ヘリオスさんが馬を停め、セイナを抱えて降りてくる。アステールさんとジェイドも馬から降りてきたので、オレも不格好ながら地面に降り立った。すると。
「ヘリオスさん、何すんですか、重いんですけど」
「いや、何故かユウに乗らなければいけない気がして」
「何で? わっ、マジで背中に体重掛けるの止めて。潰れる潰れる、ちょ、ジェイド? アステールさんまで何しようと、止めて潰れる」
オレを押し潰そうとする仲間達から逃げようともがく間にもカウントダウンは進み、視界の数字は3、2、1と減り0になった。途端に仲間達がぞろぞろと、オレの上から退いてゆく。
「何だったんだ、今の」
「ええ、本当に」
「お兄ちゃん、もっかいおんぶー」
「師匠、申し訳ありません! ご無事ですか?」
「……うん、大丈夫。ジェイドだけだよ、心配してくれるのは」
仲間の重さによる圧死からかろうじて逃れたオレは、右手でジェイド、左手でセイナを捕まえて膝に乗せる。ジェイド、重くなってきたな。よしよし、最近セイナを守るために大きくなりたいと、ご飯を沢山食べてるからな。
「ユウ君、貴方の能力が発動したのは間違いないのですか?」
子ども達と戯れる至福の時間に、アステールさんが割り込んできた。
「はい。皆は何か、体に異変は?」
各自腕を回したり、体をあちこち触ったりしている。ヘリオスさんが首を捻りながら、口火を切った。
「今は特には。ああ、でもさっきは走り回りたい感じもあったな」
「私は、思いきり叫びたい気分でした」
「ボクは……爪研ぎがしたくなりました」
「セイはね、ヘリオスのお兄さんにおんぶしてもらったー」
犬は庭駆け回り、鶏は刻を告げ、猫は爪研ぎ。そして馬の上に犬が乗り、犬の上に猫が乗り、鶏もその上に乗ろうとしていた。
「ヘリオスさん、オレと仮面を交換してもらえますか」
「ん、良いけど」
ヘリオスさんの犬の仮面と、オレの馬の仮面を取り替えて、装着。オレはすっくと立ち上がり、仲間を見回して。
「変身! 音楽戦隊『ブレーメン』!」
発光する仲間達、組み上がるトーテムポール。やはり土台がしっかりしていると安定するな。オレが土台の時には崩れてしまったが、ヘリオスさんは皆が乗ってもビクともしない。
「ってやっぱ、戦隊ヒーローごっこじゃねーか!」