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仲間になりたそうに

 セイナは動物に愛されし聖女様でした。


 目の前で馬にモフモフ……ではないけど囲まれているセイナは、昇りたての朝日に照らされて、尊いほどに輝いていた。あ、これ馬の唾液とか鼻水とかが付いたのが日光を反射して光ってるのか。馬達はセイナを踏んだり蹴ったりしないように気を遣ってくれつつも、気を引くために鼻先で突いたり服を咥えたりしてるから。


 今朝起きると、テントの周りに馬が数十頭も集まって来ていた。2、3頭で良かったのに多いわ! 群れで来られても困るんだけど!


「ボクの、ボクのセイちゃんです! 離れてください!」


 ジェイドがセイナに近付こうとして阻まれ、涙目だ。ジェイドの体格では、まだ馬に太刀打ち出来なくて、馬のほうもちょっと小馬鹿にしたようにヒヒンと鳴いてソッポを向いている。おいコッチ向けや、なにウチのジェイドを泣かしてくれてんだコラ。


「ええと……アステールさん、馬達を解散させられません?」


「私の魅了は動物には効かないと、言ったじゃないですか」

 

「ヘリオスさん」


「力づくで退かしても良いが、セイちゃんが危なくないか?」


 ううむ……。穏便に馬達をセイナから引き離さなければ。オレはアイテムボックスから、馬の好物だというリンゴを取り出した。


「はい注目! こっち見て!」


 オレがリンゴを掲げると、一斉に注目する馬達。こっちの言ってる事が理解できるのか、静かになった。


「今からオーディションを行います! オレ達の仲間になって、一緒に旅に出たい馬は残って! それ以外はリンゴを1つずつあげるから解散! 解った?」


 馬達が馬面を上下に動かしたので、了承したとみなす。ヘリオスさん笑ってないで手伝って。アステールさんも。


「はいはい、仲間になりたい子はこっち、リンゴ目当ての場合はこっちね! 1列に並んで! リンゴは1頭につき1個だけ、そこ、何度も並ばない! リンゴ受け取ったら解散!」


 大声で指示を出しながら、リンゴさえ貰えれば用はないという馬達に、1つずつリンゴを咥えさせる。途中からヘリオスさんに代わってもらい、オレはセイナを救出したジェイドと合流した。


 仲間希望の馬は4頭、ずいぶん減ったな。そのうちの2頭に見覚えがある。しかもこの2頭、体に革製のハーネスをつけていた。


「キミたち、イチさんとこの乗り合い馬車を引いていた馬?」


 頷く2頭の馬。賢い。残りの2頭も賢そうな顔をしている。いや馬ってそもそも賢そうに見えるか。


「セイちゃん、ジェイド、この子達どう?」


「セイ、この子が好き」


「セイちゃん、その馬はオスです。こっちにしましょう」


 ジェイドのヤキモチは動物相手でも発動するんだな。でも雄馬よりも雌馬のほうが性格が穏やかな気がするから、雌馬にするかなぁ。

 馬の良し悪しなんて見分けられないので悩んでいると、リンゴを配り終わったヘリオスさん達が戻って来た。あれだけ集まっていた馬は、シャクシャクリンゴを食べながら、のんびり散っていっている。


「お、この4頭に決めたのか」


「いえ、仲間希望がこの4頭で。2頭もいれば良くないですか」


「2頭でもいいが、せっかく仲間になるために来てくれたんだ。4頭でも良いだろ」


 4頭の馬達が、仲間になりたそうにこちらを見ている! 本当に? 毎日リンゴが食べたいだけじゃなくて?


 結局、笑ってばかりのヘリオスさん達からは有益な情報は得られず、セイナが、


「みんなカワイイのに、バイバイするの?」


と悲しげに言うので、4頭とも仲間に加わることが決定した。念の為にアステールさんに馬達を鑑定してもらうと、1頭が魔馬とのハーフだと判明する。だけど特に問題はなく、魔馬の血のおかげで頑丈で、魔物を恐れないだろうとのこと。

 ハーフの子は体も大きいので、ヘリオスさんが乗りたいと希望し、仲良くなるためにリンゴを献上した。そうすると他の3頭もリンゴリンゴと騒ぐので、セイナとジェイドにリンゴを籠ごと渡す。


「ジェイド、馬達に食べさせてやって。それと水魔法で水も出してやれるかな」


「はい、お任せください!」


 あとは馬達の寝床かな。さすがに馬4頭までテントには入れられないけど、外に繋ぐだけだと雨とか寒さとか、魔物の脅威もあるので。


 少し考えて、形だけでも厩舎を造ることにした。ヘリオスさん達のタープをテントの壁面を使って張ってもらい、そこも家の一部だと念じながらスキルを発動。母屋と繋がったガレージをイメージしたら成功した。テントの入口と同様に、地面を進んでいたアリの行列がタープの垂直下で弾かれ、しばらくの迷走ののち直角に曲がる。「関係者以外立ち入り禁止」の効果が発揮されているようなので、魔物や狼なんかの侵入も阻止してくれるはずだ。


「馬にまで至れり尽くせりですね」


 厩舎に水の入った樽を設置していると、アリの行列を観察していたアステールさんが感想をくれた。


「仲間になったからには大事にしますよ。ああでも馬の主食って草でいいのかな」


「草と、たまにおやつに甘い物をあげれば良いのでは? 甘味好きばかりが増えて、私は肩身が狭いです」


「アステールさん、甘いのも嫌いじゃないでしょう?」


「嫌いじゃない、と好きの間には、明確な差があるのですよ」


 口を尖らせ、拗ねたような声音のアステールさん。だけど辛いのは子ども達が食べられないから……カレーなら、甘口と辛口と、両方作っても手間じゃないかな。サウスモアに着いたらスパイスを探してみよう。


 馬4頭が増え、一気に大所帯になったオレ達のパーティ。食事係のオレは、この後ガンガン上昇するエンゲル係数に、頭を悩ませることになるのだった。

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