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聖者について

 腹を括ったオレは、そりゃあもうぶっちゃけた。アステールさんに問われるままに召喚されてからの出来事や元の世界のこと、スキルについて、プライベートな事まで何でも話した。多少はアステールさんの魅了の効果もあったのかもしれない。自分でも、オレ何でこんな事まで喋ってるんだってことが何度かあったので。


 でも、ただ一方的に聞かれたことに答えていたわけじゃない。オレもアステールさんにあれこれと質問し、主にこの世界の仕組みだとか常識だとかについて説明してもらった。


 例えば聖者について。ジェイドに以前、「魔法が光れば誰でも聖者」というザックリした見分け方は聞いていたが、聖者にも色々あるらしい。


「まずは異世界から召喚されてきた聖者、ユウ君やセイちゃんはこれですね。特徴としては、魔法力量が膨大なこと、魔法の効果が強大なこと、各種耐性が高いこと、ユニークな魔法が使えること、固有の職業についていることがあること、等でしょうか」


 オレの『シッター』という職業は、聞いたこともなかったらしい。オレの魔法というか、スキルについても根掘り葉掘り聞かれた。スキルの検証をする時は、是非とも協力させてほしいと、それはもう熱心に口説かれた。美人に口説かれるなんて憧れのシチュエーションのはずなのに、あまりに熱意が高くてちょっと怖かった。


「次に、異世界の記憶を持った、いわゆる転生聖者です。このタイプの人達は、魔法についてはそれほど強力ではないのですが、珍しい知識を使って新たな物品や制度を生み出すことが多いです。単なる変わり者も多いのですが」


 アステールさんが苦笑する、その笑顔も麗しい。オレはまたポケッと見惚れそうになって、これはいかんと両手で頬をペチペチと叩いた。転生聖者は前世の知識を世の中の役に立てる創造者と、実現する力も無いのに前世のフワッとした知識で周りを引っ掻き回す迷惑者の両方がいるんだな。


「それから、召喚聖者の子孫に聖者が生まれることがあります。実は私も聖者の端くれでして、光魔法が使えます」


「えっ、そうなんですか?」


「と言っても、私が使えるのは簡易な結界と、光の屈折を利用した目くらましといいますか。これです」


 アステールさんの手のひらが、その美麗な顔の前を横切ると、あら不思議。薄いベールが顔を覆ったように、アステールさんの顔がぼやけて見えにくくなる。それでも美人が隠し切れていないという、恐ろしく高い顔面偏差値にオレは驚愕した。


「凄っ! これで隠せないキラキラ感凄っ! むしろ想像力が掻き立てられて、余計に惹き付けられますね」


「本当に余計ですね。嬉しくないです」


「そうですか。でも、これだけ神々しいと恐れ多くて、ろくでもない輩は寄って来ないんじゃ」


「ユウ君、世の中には美しいものを汚したいという下劣な者達が、沢山いるのです。貴方も気をつけなさい」


「そうですね、セイちゃんが狙われないように気をつけないと」


 アステールさんが光魔法を解除すると、ベールの向こうから呆れ顔が現れた。麗しさが上がって眼福だ。


「確かにセイちゃんは美人になりそうですし、今でも可愛くて変質者に狙われそうですが」


「ですよね! 常に結界で身を守るべきだと思います?」


「それはやり過ぎかと。心身に負担が大きいでしょうし。それよりユウ君、先程は貴方自身も気をつけなさいという意味で言ったのですが」


 セイナの身辺以外に、オレが気をつける……逆か! オレが、美しいものを汚すなよってことか。失礼な。ヒツジさんといいアステールさんといい、オレって変態っぽく見えるのか?


「アステールさん、オレ、アステールさんを襲ったりなんてしませんからね!」


「そこは大丈夫だと思ったから、こうして顔を見せたのですが。そうではなく、私が言いたいのは、貴方自身が襲われないよう自衛しなさいという意味です。ユウ君は一見地味で目立たないですが、顔は整っている方だと思いますので」


 地味で目立たないのは認めるが、オレはごく平均的なモブ顔なんだが? 首を傾げるオレに、アステールさんが、出来の悪い生徒を諭すように話す。


「ユウ君、知っていますか? 大勢の人の顔のデータを数値化し、その平均を当てはめた顔を絵に描くと、美人になるのですよ。つまり平均的な顔だというユウ君は美形なのです。狙われます。現にあの女性冒険者にも狙われていたじゃないですか」


「そりゃ食料は狙われてましたけど」


「食料品もですが、お金持ちで顔が良く、人も良く、簡単に騙されそうだからと、貴方自身が狙われていたのです。自覚なさい」


 美人の真顔怖い。納得は出来なかったが、心配してくれているようなので頷いておいた。


 それからもオレはアステールさんと、あれやこれやと話し込んだ。途中から起きてきたヘリオスさんも加わって、気がついた時には空が白み始めていた。テントの布地を透して朝日の眩しさが届く頃、ヘリオスさんが長時間の話を総括するように言った。


「うん、やっぱりユウには常識が足りないな。危ない。アズもそう思うだろ」


「そうですね」


「あの話、しても良いか?」


「はい、私も話そうと思っていました」


 ヘリオスさんとアステールさんは2人で頷き合うと、オレの前に並んで座り、姿勢を正す。


「何ですか、2人して改まって」


 ヘリオスさんが真面目な顔で告げる。


「ユウ、俺達とパーティを組まないか?」

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