バレてる!
「あー、うん、ユウに常識を問うのは無駄だってのは理解した」
眉間を押さえ、頭が痛そうに顔を顰めるヘリオスさん。呆れ返った声で投げ遣りに言われたが、オレは別に非常識な事をした覚えはない。テントを出して、機能を説明しただけ。加えて性能テストのお手伝いをお願いしただけなのだ。
「この程度、ちょっとお金がある人なら持ってるでしょ」
「いや誰も持ってねーよ。俺の全力どころか魔法で強化した一撃でも、傷すらつかないテントだぞ? 見ろよこれ、刃こぼれしちまってる。どんだけ硬いんだよ」
「う、すみません。まさかバスターソードが布に負けるとは思わなくて」
「俺も思わなかったよ、布のくせに炎のエンチャントした斬撃が弾かれるなんてな! これがテントだなんて、俺は絶対に認めねー。これはテントに見せかけた小型要塞だろ。そんなモンを持ち歩いてるユウは非常識だからな、潔く常識人のふりは諦めろ」
そこまで言われるほどの事だろうか、オレとしては、テントの安全性と快適性をもっと追求したいくらいなのに。最低限、日本で住んでいた家程度の住み心地は欲しいし、防犯防災対策も強化したいんだけど。可能なら空間拡張とかもしたいんだけど。口に出すと呆れられそうなので、こっそり進めていこうと思います。
「ま、これなら森の魔物が出てきても平気だろ。安心して休めるな」
安全性についてはヘリオスさんのお墨付きが貰えたので、やっとヘリオスさんをテント内に案内できる。この人、外で見張りをするって聞かなかったんだよね。だけど、ヘリオスさんにはしっかり寝てほしいから、そんなに心配なら好きなだけ耐久テストどうぞって言ったらこうなった。
ちなみにアステールさんは、とっくにテントの中で寝ています。今日は午後からの仮眠も取れていなかったから、眠気が限界だったらしい。ふらふらとテントに入ると、オレが敷いた毛布に倒れ込んだ。ヘリオスさんがボカスカテントを斬りつけている時も、布がたてる音じゃない衝撃音が響いていたのに微動だにしなかった。
そのアステールさんの隣の毛布をポスポス叩く。
「ほら、ヘリオスさんも寝ちゃってください」
「わかった、わかったから、引っ張るな」
セイナとジェイドに両手を引かれるという「両手に花」状態で寝床まで導かれ、観念したヘリオスさんが鎧兜を脱ぐ。兜を外した下には燃えるように赤いくせ毛が押し込められていて、解放された途端にボワンと膨らんだ。続けて肩当てを外し始めるヘリオスさんに安堵し、オレは途中になっていたマフラーを完成させようと、アイテムボックスを覗いて毛糸を探していたのだが。
「師匠、あれ」
チョイチョイとジェイドに腕を突っつかれ、指差す先を見ると上半身裸になったヘリオスさん。すごい筋肉だな、パリピゴリラと良い勝負だ。
「頭、頭を見てください」
「ん、頭?」
「あ! ヘリオスのお兄さん、ネコさんの耳だー!」
「え!?」
よく見ると、ヘリオスさんの頭の上のほう、赤毛に埋もれるようにして三角の耳が覗いている!
「ヘリオスさん、獣人?」
「ああ、俺は焔猫の獣人だ。別にユウ達は気にしないだろ、ジェイドも獣人だし」
バレてる! なんで?
「匂いでわかるだろ」
そうなの? ジェイドに目顔で問うと、プルプルと首を横に振った。だよね、ジェイドは猫の獣人らしく身軽で素早いけれど、鼻が利くわけでは……いや? 聖王都でオレ達を追いかけて来た時は、匂いを辿ったとか言ってなかったか? それでもジェイドは、ヘリオスさんほど嗅覚や聴覚が発達はしていない。大人と子どもの違いかな?
ヘリオスさんはポンポン鎧を脱ぎ捨てて、既に下半身までパンツ1丁になっている。寝る時裸族の人じゃないでしょーね。セイナも居るんだから、それ以上は脱がないでくださいよ。
オレの視線に気づいたヘリオスさん、パンツから手を離してモゾモゾ毛布に潜り込んだ。
「あー、聖女様の前で素っ裸はまずいよな……」
バレてる! なんで?
「アズがな、簡単な鑑定魔法が使えるんだよ。君らはどう見ても訳ありだから、気になって視ちまったんだと」
「……何を見たと」
「セイちゃんが聖女、ユウはシッター、ジェイドは聖女の伴侶」
「……は?」
セイナはまだ4歳の幼女様で結婚なんて出来る年齢じゃないんでジェイドは別の聖女様の伴侶なのかなきっとそうだよねそうに違いない獣人によくあるツガイとかいうやつかなジェイドも隅に置けないなーはははははは……。
お兄ちゃんは! 認めませんからね!
「ユウ、セイちゃんとジェイドはお似合いだと思うぞ」
「いや2人ともまだ子どもだし結婚とか30年は早いし」
「だけど鑑定結果に出るってことは、もう婚姻関係が成立してるってことじゃないか?」
いやまさか……あれか! 結婚式ごっこか!
「あれは違う、無効! 婚姻無効を申し立てる!」
「ハハハ、もう遅いだろ。獣人はツガイを決めたら一生離さないからな」
「いや何かの間違いだから、だよなジェイド、その年で結婚とか嫌だよな」
「嫌じゃないです」
ジェイドがそっと、後ろからセイナを抱え込む。セイナを見つめる目がトロリと甘く溶け。
「ボクは、ずっと、一生、セイちゃんと一緒にいます」
仄かに漂うヤンデレの気配。どう見ても手遅れというか手の施しようがないというか、もう手をこまねくしかない。
悲報。知らないうちに妹が結婚していた件。




