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お姫様なだっこ

 晴れて男爵家御一行から離脱したオレ達は、森の入口目指して進んでいた。森の入口へ、来た道を戻っているともいう。何故今朝通ってきた道を引き返しているのかといえば、ヘリオスさんにこう尋ねられたからである。


「で、進むか? 戻るか?」


 当然進むものと思っていたオレは、その言葉にふと立ち止まって考えた。戻るって選択肢があるの? あ、でも進むとなると、足の遅いオレ達は、いずれ馬車に追いつかれることになる。それは嫌だ。連中とは二度と関わりたくない。


「一旦森の入口まで戻って、一晩ゆっくり休みましょう。それで良いですか?」


「ああ。昼食はどうする」


「そうだった、まだでしたよね。歩きながらでも大丈夫ですか?」


「俺達は平気だ。先にアズにやってくれ、交代で食べるから」


 ということで、森の中で行動食である。まずは小さめの揚げパン。それからイチさん達に飲んでもらったのと同じ冷製スープの、上澄みというかスープのみ。串に刺した肉団子は歩きながら食べると危ないので、子ども達にはオレが串から外して口に入れてやった。再び揚げパン、野菜が足りないので野菜ジュース。大粒のブドウを皆でむしる。成人男性には物足りないだろうから、追加で甘くない蒸しパン。好きな時に摘めるように、塩の効いたクラッカーの袋を渡しておいて。


「いや多い多い」


 先頭を歩いていたヘリオスさんに、わざわざ振り返って突っ込まれた。


「そうですか? アステールさん、けっこうご飯食べてたと思ったんですけど」


「あのな、俺が多いって言ってるのは、量じゃなくて品数だ」


「え、でも一食分の栄養素を考えたら、このくらい」


「あー、薄々感じてたんだが、やっぱりユウは良いとこのお坊ちゃんなんだな」


「違いますよ、オレは庶民だし、家はごく普通の一般家庭です」


「庶民のご家庭では、毎食毎食デザートなんて出てこねーんだよ!」


 そう言いながらも甘党のヘリオスさん、ブドウを1房ペロリと平らげた。塩味ではなくジャムを挟んだクラッカーも、しっかり懐にいれていた。


「そりゃ出された物は、ありがたくいただくに決まってるだろ」


 うん、遠慮なくどうぞ。護衛の依頼料込みですからね。


 さて、口と共に足も動かしていたのだが、ヘリオスさんがご飯を食べ終わった頃に、セイナが音を上げた。


「お兄ちゃん、抱っこ」


「疲れた?」


「うん」


 そりゃそうだよね、舗装もされてない森の道なのだ、歩きにくいったらない。草は伸び石は転がって、木の根が足を引っ掛けにきてるし、獣の足跡に水が溜まって泥濘んでいる。

 馬車に飽きていたセイナは、初めこそ張り切って歩いていたが、躓いたり転びそうになったりする度に、へにょりと眉を寄せていた。頑張ってはいたが、早々にリタイアしても仕方がない。


「おいで、セイちゃん。ジェイドは大丈夫?」


「はい」


「無理しないんだよ? 疲れたら早目に言ってね」


 セイナを抱き上げると、ズシリと重い。眠いんだな。眠ると子どもの体重が増えたように感じるのは何故なのか。

 ずり落ちそうになるセイナを抱え直し、速度の鈍ったオレを横目にヘリオスさんが呟いた。


「このペースだと、日が落ちる前に森を抜けられそうにないな」


「すみません、足手まといで」


「いや、そういう意味じゃなくてだな。森を抜けるくらいの距離なら、君らを運ぶ手段が有るにはあるんだ。ただ、アズの魔法力が空になるし、俺も反動で暫く動けなくなる。その後のことを考えると、どっちが良いかと思ってな」


「運んでください」


 オレは躊躇なくお願いした。要は、森を出てからの守りが不安ってことだよね。それならオレのテントを出せば解決だ。夜の森怖い。強い魔物がいる森で、更に魔物が強くなる夜を迎えるとか怖過ぎる。


「森を出たら、オレのテントを使いましょう。普通のテントよりは頑丈にしてあるので、さっきのゴリラみたいなのでなければ防げます」


「パリピゴリラはSランクの魔物だからな、俺達が全力でも防げないからな。まあ草原に出れば、そこまで厄介な魔物もいないか。アズ、いけるか?」


 アステールさんは頷くと、ジェイドの前に回り込んでしゃがみ、自分の背中を指差した。


「ジェイド、アズにおんぶしてもらえ。しっかり掴まっとけよ。で、ユウ達は俺な」


 ヘリオスさんは言いながら、オレの肩をグッと掴むと、オレの膝の後ろに手をやった。セイナを抱っこしたオレを抱き上げたこの体勢って、あれじゃん、お姫様なだっこじゃん。


「え、は?」


「セイちゃんが落ちないように、しっかり抱えとけよ。安心しろ、落としたりしねーから。アズ、頼む」


 フワンと、極薄のシルクの布で包まれたような感覚がした。ヘリオスさんが猛然と走り出し、体に重力が掛かる。顔面に吹きつける風に耐えられず、目をヘリオスさんの肩越しに後ろへ向けると、ジェイドを背負ったアステールさんが滑るように追いかけて来ていた。その更に後ろへと、木々がビュンビュン流れてゆく。


 オレ、絶叫マシンの類は苦手だけど、ヘリオスさんの力強い腕に支えられているせいか怖くはなかった。ヘリオスさんのイケメン顔が間近にあるので、ともすれば『トゥンク』とか恋に落ちる音がしそう。いやしないけど。吊り橋効果なんて生じないけど。

 そんなことをつらつらと考える余裕までできるほどの、抜群の安定感だった。セイナはコテッと寝てしまった。一定のリズムで揺れるのが、ちょうど良かったんだろうね。


 こうしてヘリオスさんとアステールさんに運ばれた結果、オレ達は無事、日暮れ前に森を抜けることができた。夕方どころかおやつの時間には草原に出られたよ。だからお礼を兼ねて、ちょっと奮発し、おやつにチョコレートを出したんだけど。


「いやチョコレイ糖って。ユウ、実は貴族様なのか?」

 

 だから違うってば。貴族はお徳用チョコレートなんて買わないでしょ。


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