表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/247

護衛依頼ってお高いんでしょ

 パリピゴリラのダンスは凄かった。特に馬車の屋根の2頭のダンスは圧巻で、跳んだり跳ねたり回ったり、キレッキレ。1頭がメインで踊っている時はもう1頭がそれを称えるような動きをし、何度も主役を交代してダンスバトルの様相を呈している。ブレイクダンスというやつか。文字通り、ゴリラが跳ねるたびに馬車がブレイクしてるな。

 ラインダンスのメンバー達は、周囲に散ってバックダンサーと化している。騎士達が男爵夫人の元へ行こうとするのを巻き込んで、一緒にレッツダンス!


 これって一時期流行ったフラッシュモブに似てるけど、フラッシュモブでプロポーズはあまり喜ばれないんだぞ。ゴリラ界隈では歓迎されるのかもしれないが、異種族間でやるのはリスクが高い。断れない雰囲気とか、それでも断ったときの居たたまれない空気とかを予測して、なんともいえない気持ちになるオレ。ゴリラ達、あんなに頑張って踊ってるけど……。そもそも何で、人間相手に求愛ダンスしてんだろ?


 首をひねるオレ。その前で、ひとしきり笑い終わったヘリオスさんが、イチさんを手招いていた。


「ちょっと頼まれてくれないか? この状況を終わらせる策があるんだが、男爵様辺りから文句が出そうなんだよ。だから何してもお咎め無しって言質を取って来てもらえないかな」


「終わらせられるんですか、これを? どうやって?」


「知らない方が良いぞ、絶対お許しが出ないから。だけどパリピゴリラは諦めが悪いからな、このまま夜まで足留めされて、他の魔物に襲われるのは嫌だろ?」


 コクコク頷くイチさん。


「じゃ、頼む。その間に準備しとくから。ああ、ゴリラを刺激しないように、静かにゆっくり行ってくれ」


 そうやってイチさんを送り出したヘリオスさん。さて、と今度はオレに向き直った。


「何か手伝えます?」


「いや、ユウとはこの後のことを相談したくてな」


 この後? ヘリオスさんの目線に釣られて目をやると、馬車の上のゴリラがヘッドスピンをキメていた。凄いな。何が凄いって、ゴリラ達と男爵一行の温度差が……。

 セイナとジェイドは相変わらず夢中で、小さな手で力一杯拍手を送っている。その純粋な心をずっと大切にしようね。


「ほら、あの馬車、2台とも修理出来ないくらいベッコベコだろ」


 ああ、見て欲しいのは馬車でしたか。確かにゴリラのお立ち台に使われた馬車は、凹みまくって原型を留めていない。車輪も外れてバックダンサーが抱えて踊ってるし、引いていた馬達も逃げてしまったのだろう、見当たらない。


「移動に使えるのが馬車1台と馬4頭に減った。これだけで、この場の全員を運ぶのは難しい。譲り合って座れば不可能じゃないかもしれないが、あいつ等にそんな殊勝な心掛けは望めない。となるとだ。誰かをここに置いていこうって話になりそうじゃないか? で、置き去りにされるのは、たぶん俺達だ」


 うわあ、それはすごく有りそうっていうか、十中八九そうなりそう。オレ達が乗ってきた馬車は男爵一家に奪われて、平民は走れとか言われそう。


「だけど、オレが預かってる水がないと困るんじゃ」


「困るだろうな。でも、あいつらは自分達の飲み水を座席に置くのは許せても、平民と同じ馬車に乗るのは許せないと思う」


「あー、確かに」


「だろ? だから俺達は、喜んで離脱しようと思う。で、ここからが相談なんだが。ユウ、君らも一緒に離脱しないか? そんで俺とアステールを護衛に雇って欲しいんだ」


 ヘリオスさんの申し出は、正直とても有り難い。この森をセイナとジェイドを抱えてオレ1人で抜けるのはまず無理だ。人の手のほとんど入っていない、ガチの森ってほんと怖いし。

 後発の馬車を待つという手もあるが、それもいつ来るか分からない。オレのテントに立てこもればいくらでも待てそうだけど、ここで時間を掛けるなら、何のために高額チケット買って馬車に乗ったんだっていうね。

 オレとしては、ヘリオスさんの提案に一も二もなく頷きたい。だけど、護衛依頼ってお高いんでしょ?


「ヘリオスさん、オレ、あまりお金持ってないですよ」


「依頼料なら金じゃなく、食事で払ってくれたら嬉しい。ユウの性格からして、アイテムボックスに十分過ぎる食料入れてるんだろ? 俺達が増えても10日ぐらいは平気だろ」


 10日どころか1ヶ月でも余裕ですが? 可愛いセイナとジェイドに、お腹が空いてひもじい思いなんてさせられないからな。食料の備蓄は基本でしょ。


「あと、出来ればソフトクリイムってのを一度、食べさせてもらえれば」


「な、ナンデスカソレハ」


 びっくりしてカタコトになったオレに、ヘリオスさんが屈託なく笑う。


「なんだ、秘密だったのか? 毎晩君らが食べてるのが聞こえてたから。毎朝甘い匂いもしてたし、甘くて美味いものなんだろ? 駄目か?」


「……駄目じゃないです」


「よっしゃ! 契約成立だな!」


 心底嬉し気なヘリオスさん。イケメンのキラキラ笑顔が眩しいったら。

 それにしても、馬車の中の会話が聞こえていたのはともかく、寝る前に食べたソフトクリームの匂いに気づかれていたとは、ヘリオスさんの嗅覚は犬並みだね。ソフトクリームって、そんなに匂いがしない食べ物だと思うんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ